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白桜年代記/救済の魔刀と記憶の番人たち  作者: すえもり
Fragment:1 帝国・南部国境支部局
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WCC4. マーチャント/今夜はカレーだ(1)

To Martyn and my King Lear

 ランスとレベッカはゼイラギエンの船内食堂で昼食を摂っていた。今日のランチは船員の間で絶品と噂される炒飯チャーハンだった。ランスは、湯気とともに立ち上る懐かしい香りを鼻孔いっぱいに吸い込んだ。


 目を閉じれば、田舎村の夏祭りの風景が蘇る。頭上にぶら下がる提灯、響く太鼓の音、立ち並ぶ屋台、はしゃいで走り回る子どもたち。そして、浴衣を纏ったアズサの横顔は花火に照らされていた。彼女はランスの視線に気付いたのか、目だけを動かしてランスを見つめると、かすかに口元を緩めて微笑んだ――


 が、そこで急にお腹がグウと鳴る。ランスは目を開いて両手を打ち鳴らすと、黄金色に輝く山にレンゲを突き刺し、すくった塊を口に運んだ。


「う、うめえ!」


 期待通り、いや期待以上だ。すべての食材が無駄なく一体となっている。パラパラとした長い米は、村のものとは少し違う食感だったが、それが逆にこの一品には合っている。コメ一粒たりとも残すわけにはいかない! ランスは勢いに任せて、せっせとレンゲを皿と口の間で往復させた。皿はあっという間に空になる。


「おい、俺の炒飯はどこに消えたんだ!」


 向かいに座るレベッカは呆れた顔で首を振った。


「あなたの胃の中でしょ」


「俺、これならいくらでも食える。あと十杯ぐらいは余裕」


「そんなに食べたら、お腹いっぱいで動けなくなるわよ。午後から掃除なんでしょ?」


「関係ねえ! おかわり!」


 ランスは皿をカウンターに突き出した。


「はいよ! 母さん(マーマ)直伝の伝説の炒飯だからね、いくらでもお食べ! やっぱり食べ盛りはいいね、作り甲斐があるよ」


 厨房係のメイは、ピンク色のフワフワの髪を揺らしながら、木べらで黒い中華鍋をかきまぜた。具材が威勢のいい音を立てて弾け、胡麻油が飛び散る。一体どうやって髪をピンク色に染めるのか、ランスには分からなかったが、根元のほうは黒いので、元は黒らしい。


彼女の本名はメイフア・ドラグノワといい、アジア系とスラヴ系の混血であることは間違いなかったが、アジア系の血が勝っているのか、吊り目の瞳は黒く、背は機械担当のモニカに次いで低かった。


 メイはランスの皿に炒飯を盛りながら、

「そういえばランスは石像を壊して回ってるんだっけ? 私の故郷にもそんな伝説があったなあ。夜な夜な歩き回る石像の話」

と、考え込むようにして言った。


「それって怪談か都市伝説ですか?」


 レベッカが疑わしそうに訊く。


「怪談? 失礼な! ちゃんとストーリーもあるんだよ」


 メイはゴホンと咳払いすると、むかーしむかーし、と話を始めた。




 あるところに赤ゴブリンと青ゴブリンがいました。


 赤ゴブリンは思ったことをすぐに言ってしまう癇癪持ちで、いつもみんなと喧嘩ばかりしていました。


 青ゴブリンは思ったことを言うことができず、いつも我慢ばかりして、夜になるとシクシク一人で泣いていました。


 赤ゴブリンと青ゴブリンは友だちが出来なかったので、何かをするときは、いつも余り者になり、一緒に組まなくてはなりませんでした。


 最初二人はそれが嫌で嫌で仕方なかったのですが、だんだんお互いのことが分かってくると、大の仲良しになりました。


 ある日、ゴブリンの村にニンゲン達が大勢やってきて、この中にいる悪いゴブリンを退治すると言いました。


 悪いゴブリンなんて村にはいませんでしたが、ニンゲン達によると、悪いゴブリンが毎晩毎晩子どもをひとりずつ連れ去って食べている、証拠だってあるというのです。


 見に覚えのない言い掛かりに、ゴブリン達は怒りました。そしてとうとうニンゲン達とケンカになりました。


 ゴブリン達が本気を出せばニンゲンなんて一捻りだったので、みんな手加減していました。


 しかし、ニンゲンの放った矢が運悪く赤ゴブリンの急所めがけて飛んできたのです。


 青ゴブリンは身をていして親友の赤ゴブリンを守りました。


 青ゴブリンはその矢傷がもとで死んでしまいました。


 赤ゴブリンは一生分の涙を流しましたが、泣いても泣いても青ゴブリンは戻ってきません。


 赤ゴブリンは、村の隅っこの、誰も来ない場所に青ゴブリンのお墓を作りました。そして毎晩毎晩泣きながら、ごめんなさいを言いました。


 あまりにも涙を流しすぎたせいで、赤ゴブリンはどんどん縮んでしまいました。縮んで縮んでニンゲンくらいの大きさになってしまいました。そして水分がなくなってしまったせいで、最後には石になってしまったのです。




 ランスは顔をしかめた。


「えー……ただの悲しい話じゃん。炒飯の味が……」



「ごめんごめん。私も全然好きじゃないけど、昔話ってそういうものじゃない?」

と、メイは苦笑した。


「その像ってホントにあるのか?」


「あるよ。今いる場所からだと、そう遠くないかもね」


 二人は顔を見合わせた。


「今からでも間に合うかどうか、艦長に聞いてみましょ」

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