第5.5殺 つぎのひ
静かな朝。
このところ立て続いた護衛任務の処理もほぼ無くなり、今日は落ち着けそう……。
バンッ!
そう思ったのも束の間、扉が乱暴に開け放たれ誰かが飛び込んできた。扉は静かに開けやがれ。
「モニカさん!」
「あら~、あなたは~、マリーちゃんの~……」
「先日の依頼の件ですが――」
暗殺者の少女は用件を伝えると慌てた様子で、来た時と同様にギルドを後にした。
だから扉は静かに開けろって言ってんだろ。
それから半刻程経ち、冒険者たちが疎らに集まりだした頃。
バンッ!
またしても扉が乱暴に開かれた。扉は静かに開けろと何度言えば……。
何とか怒りを抑える。
今度はドレスの上に胸甲を着けた特徴的な姿の女性が入ってきた。彼女は確かアコガレィ家の令嬢。貴族の令嬢でありながら冒険者になった変わり者。
キョロキョロとギルド内を見渡している。人探しだろう。目的の人物がいないと分かると、一直線に私のカウンターに向かってくる。
「アサシンちゃんを~、お探しですか~?」
先手を打って話しかけると、エスパーか!? と言わんばかりに驚いている。
「アサシンちゃんから~、昨夜の~、事件のあらましは~、聞いてますよ~」
そう、今朝の襲撃もとい訪問はこの件についての報告だったのだ。
アサシンちゃんから提案されたギルド内の内通者の洗いだしと処分、依頼主が犯罪者と知らずに依頼を受けてしまったアコガレィ家の令嬢――アニマ嬢への慰謝料の支払いについて話した。
「我のことまで考えてくれているなんて。なんとお優しい。流石我が主に相応しいお方。なんとしてもお仕えせねば! して、我が主アサシン様は何処に?」
「分かりません~」
というのは嘘で、本当は居場所を知っている。今頃は王都行きの馬車に揺られていることだろう。
ではなぜ嘘を吐いたかというと、アサシンちゃんに口止めをされていたからだ。心苦しいけど、今回の件の功労者のお願いを無下にするわけにはいかない。
「家臣ならば自ら見つけてみせろということですね。承知しました。必ず探しだして見せます。待っていてください我が主!」
ふんすと鼻息荒くそう言うなり、入ってきた時と変わらぬ勢いで出ていった。
なんとなくアサシンちゃんがアニマ嬢を避けている理由が分かったわ。
金具が取れてゆっくりと倒れゆく扉を眺めながらモニカは思った。