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第5殺 女貴族騎士、敵とみるか? 味方とみるか?

 草木もまばらに生え、整備された街道の延びる見通しの良い平原に、明らかに異質な人工物がある。来る者すべてを拒絶するかのように鎮座するそれは、人の十倍の高さはある強固な羅城。それが円を描いて周囲に睨みを利かせています。

 ここはウルカウ。アサシンが住んでいる王都から西に位置する交易都市です。

 いくつかの村を経由し馬車を乗り継いでおよそ十八日。やっと到着しました。途中盗賊に襲われたり、ワイバーンの群れに遭遇したり、そのワイバーンを狙って蒼い瞳の白き竜が現れたり、怖気づいた御者がアサシンを置いて逃げ出したり色々と足止めを食ったのですが、それはまた別の話。


 門での長ったらしい検閲を終えてようやく入ったウルカウの街並みはとても活気にあふれていました。

 行き交う人々は一般市民、冒険者、商人など王都とあまり変わらないように見えますが、商人の比率が高く、また亜人他国人の方が多く見られます。そのためか貴族は観光か旅行目的の方が僅かにいるだけのようです。

 建物も小綺麗な王都とは少し異なった様式を取り入れられていて、至る所に異国情調を感じられます。何故ならここは交易都市ウルカウ。近隣国との貿易の要所であるが故の景色なのです。


 そろそろ目的の冒険者ギルドを探しましょう。アサシンは観光ではなく仕事で来たのです。

 御者さんに場所を聞いたら門前の通りにありました。さっそく門戸を開きます。

「たーのもー」

 ちょっと茶目っ気を出してしまいました。ですがこれであまりの美しさに近寄りがたいという先入観を廃し、親しみやすいユーモアのある美少女の印象を植え付けられたはず。

「おう、ねえちゃん。冗談はよしこちゃんだぞ!」

 怒号とけたたましい物音が注目を攫っていきました。せっかくの登場シーンが台無しです。ぷんぷん。

 しかし一体何事でしょうか。空気が張り詰めていて剣呑な雰囲気です。

「ですからぁ~、こんなに傷んでいたら~、素材としての価値がないので~、ギルドでは買取ができません~」

「ふざけんな! 皮は皮だろうが!」

「先ほどから~、申し上げていますように~――」

 どうやら三人組の冒険者が難癖をつけているようです。運が悪いことにギルド職員は彼女一人で、他の冒険者もほとんどいません。

「こいつを狩るのに下級回復薬(ローポーション)やら火炎瓶(ブレイズボトル)やら使ってんだ。金にならねぇじゃ困んだよ!」

 道具を消費してしまったから素材が売れないと赤字になってしまう、というのが男達の言い分のようです。ですが、相手との力量差を誤ったのも素材を傷めずに回収できなかった技量不足も全てあの男達の責任。受付の女性を責めるのはお門違いです。

「お前のせいでこっちは大損だ。責任取ってもらわないとなぁ」

 自分たちの至らなさを棚上げして無責任の受付女性に責任転嫁するなんてめちゃくちゃです。 

 そして受付女性を嫌らしい目で見て舌なめずり。品性の欠片も持ち合わせていないようです。しかし最近どこかで似た事があったような……。デジャヴでしょうか。

明けの明星(モーニングスター)を相手に馬鹿な事をする連中だ」

 アサシンの近くの席に座っていたおじさんが突然誰に言うでもなく語り始めました。

「あそこで受付をしているのは元冒険者のモニカ・グスター。元とはいっても緊急時には最前線に投入される凄腕だ。モーニングスターとラージシールドを手に戦線を切り開く姿から、戦場という夜に輝く希望の星「明けの明星(モーニングスター)」と呼ばれている」

 おじさん、説明ありがとうございました。

 おじさんの説明が終わるタイミングを待っていたかのように難癖をつけていた男がモニカさんの胸に手を伸ばしました。

 次の瞬間――。

「いい加減にしろやあああ!!」

「たけみかづちっ!?」

 胸を触ろうとしていた男が奇声を上げて宙を舞っていました。見事に顔面で着地した男は海老反りになって、東の国にあるというしゃちほこみたいです。

 それよりも気になるのは……。

「てめぇ、いっちゃんに何てことしやがる!」

「あ゛あ゛?! そいつが舐めたまねしやがるからだろうが!」

 口調が荒々しくなり獅子の咆哮の如き迫力で棘の付いた棍棒のような武器――モーニングスターを男達に向ける受付の女性モニカさん。

 先程までのおっとりとした優しそうな姿からは想像もできない変わり様です。

「ひぃっ!? お、憶えてやがれー!」

 モニカさんに圧倒された男達はしゃちほこ状態の男を二人で持ち上げ走り去っていきました。

「おととい来やがれってんだ!」

 興奮冷めやらぬ様子ですが、アサシンも仕事でここに来たので引き返すわけにはいきません。女は度胸です。

「あの」

「ああん? なんだお前。ここはガキの遊び場じゃねぇぞ。帰ってママのお手伝いでもしてな」

「いえ、お仕事で来ました。マリーさんからの紹介状もあります」

 王都のギルドでマリーさんから渡されていたウルカウギルドへの紹介状を差し出します。

「マリーだと? …………」

 渡した紹介状の内容を目で追うと、一息の(のち)アサシンをキッと睨みました。

 アサシンはギルドの方に怒られるようなことを何かしたでしょうか。はっ!? あの紹介状にアサシンの悪評が書かれて……、いえマリーさんがそんなことをするはずがありません。だとすると一体何が原因なのでしょうか。

 睨まれる理由が分からずオロオロしていると、モニカさんがくすりと笑われました。

「なるほど~。確かに可愛いわ~」

 その笑顔にさっきまでの刺々しいオーラはなく、アサシンはホッと胸を撫でおろしました。

「はじめまして~。わたしは~、この冒険者ギルドウルカウ支部の~、サブマスター兼受付の~、モニカ・グスターです~。マリーちゃんからの手紙に~、アサシンちゃんのことは~、たーくさん書いてありましたよ~。そりゃあもううぜぇ程にな……」

 また一瞬、眠れる獅子が起きかけた気がしましたが、紹介状には一体何が書かれていたのか……。アサシン、気になります。が、知らない方がいいと本能が警鐘を鳴らしています。

「それで~、お仕事の話なんだけど~」

 モニカさんのゆったりした喋りでは時間が掛かってしまうので、アサシンが代わりにまとめたいと思います。

 最近商人の輸送馬車ばかりを狙った襲撃事件が多発していて、ギルドに護衛の依頼が多数上がってくる事態に陥っている。その所為で物価が上がりどこも売り上げが落ちて商人たちが困窮し始めた頃、そんな中である商家が急成長していることを怪しんだ商業ギルドが冒険者ギルドへ調査を依頼。調査の結果、裏で犯罪者達と繋がっていることが判明したものの、手勢が多く迂闊に手出しできない。そこで派遣されたのが暗殺を生業としているアサシンだった。というわけです。

 誰にも気づかれずに対象を排除することが出来るアサシンにうってつけの依頼です。アサシンにとってはいつも通りの簡単なお仕事。イージーモードです。


 ――の、はずだったのですが……。

「追い詰めましたよ、お嬢さん」

 バッチリ見つかってしまいました。

 今アサシンはズラーっと手下を従えた件の商人と対峙しています。

 敷地内への潜入自体は簡単だったのですが、内部は監視カメラに赤外線センサーやサーチライト、おまけにセントリーガンと地球外生命体でも相手にしているのかというほど厳重すぎる警備網が敷かれていたのは予想外でした。

 しかしこれだけの設備を用意できるとは……。いくらお金があってもあまり出回らない魔導機器や銃火器をこれだけの数集めるのは至難。腐っても商人といったところでしょうか。

「なぜこんなに準備万端で待ち構えていられたのか不思議でしょう? 答えは簡単。買収していたギルド職員から連絡が来たのですよ。愚かな迷い子(まよいご)が現れるとね」

 失敬な。アサシンは迷子ではなく美少女暗殺者です。

 それはさておき、ギルド内部に裏切者が紛れていたなんて。だから的確に荷馬車を襲うことが出来たのですね。モニカさんに報告して鉄拳制裁してもらいましょう。

 それもこの状況を切り抜けてからの話ですが。

 商人が引き連れてきた者、アサシンの背後にいる者、館内や茂みから狙う者、総勢百人はいるでしょうか。強行突破するのは無謀な戦力差。アサシン、ぴんち。

「この子が盗賊? ただの迷子ではないの?」

 奥から一人の女性が出てきました。

 貴族様が着るようなドレスの上にキュイラスを纏い、腕にはガントレットを着けてアーミングソードを帯剣しています。凛々しくも清麗婉美、貴族のようでありながら騎士のようでもある姿には女性として憧れすら抱きます。

 彼女も悪漢の一味なのでしょうか。それにしては毛色が違うというかアヒルの中に混じった白鳥というか。

「見た目に騙されてはいけませんよ。この警備網を突破してきたのですから」

「確かに。まるで三代目大泥棒のようだが、彼も最後は討たれた。君も同じだ」

 鞘から抜いた剣の切っ先をアサシンに向けています。ターゲットは商人だけ、それ以外との戦闘はアサシンにとって何の意味もないので遠慮願いたいのですが、あちらは戦う気満々で見逃してくれそうもありません。

「さあ、高い金を払ったんです。しっかり働いてください」

「任務了解。悪いけど、君を殺す」

 言うが早いか斬り込んできました。

 速い! アサシンとの間には人型有人機動兵器が横たわれる程度の距離があったのに一足で一瞬のうちに目の前に到達してきました。

 とはいえ俊敏さに自信のあるアサシンには及びません。ひらりと身を翻し軽々と避けます。

「うわあああ!?」

 アサシンが躱した後ろで商人の私兵が吹き飛んでいます。貴族騎士さんの空振りした剣から風刃が地面を抉りながら突き進んでいくのが見えました。

 スキルか魔剣の類による攻撃です。おそらくあの身体能力も同様にスキルか魔法の効果でしょう。非常に厄介な相手です。

 何とか懐に入りたいところですが――。

 ヒュッ、ズガァ。ヒュッ、ズザァ、「ワァァ!」

 と擬音で表すとこんな感じで、アサシンを狙って放たれた風刃を避ける度、背後の建物や私兵を襲撃していきます。

 その様子を見てアサシンはティンときました。良いことを閃いたのです。

「どうしました、アサシンはここですよ?」

「くっこの!」

「当たらなければどうということはありませんね」

「あ、あたりさえすれば君なんて……」

「当ててみてください」

「ぐぬぬ……」

 アサシンの挑発にまんまと掛かった貴族騎士さんはムキになって風刃を飛ばしまくります。そして順調に私兵の数を減らしてくれます。計画通り(ニヤリ)。

「こ、こら止めろ! 止めんか! 金をかけて集めた屋敷がっ、兵がっ……! 頼むからやべでぐれぇ……」

 やけくそ気味に剣を振り回していた貴族騎士さんですが、商人がマジ泣きで必死に制止するので流石に手を止めました。しかし半数近くが討伐されアサシンの周囲を囲っていた人の壁に隙間が出来ました。

「我の……我のミスだ!」

 仲間に手を掛けたのが余程堪えたのか、騎士にとって大事な剣を落としがっくりと膝から崩れ落ちました。

「……」

 ふと違和感を感じました。人知れず悪を倒す美少女暗殺者のアサシンは迷いなく殺そうとしているのに、犯罪者の群れを蹴散らしたら殺人を犯したような反応をするのは変です。

 ここは直接聞いてみましょう。

「あの、何をそんなに絶望しているのですか?」

「何をだと!? 同業の冒険者を手に掛けてしまったんだぞ! これでギルドからは追放、それどころか犯罪者に転落だ。父様や母様、兄様になんて言ったら……。君が言ったんだ……そうだ、君が当ててみろって! 我は悪くないっ! 我は悪くないっ!」

「彼らは冒険者ではありませんよ?」

「え?」

「全員犯罪者です」

「……え?」

 きょとん顔のままフリーズしてしまいました。

 どうやら思い違い、というか認識の齟齬がありそうです。

「何故彼らを冒険者だと?」

「我は冒険者ギルドに張り出されていた警備の依頼を受けて来たんだ。だから周りも同じ冒険者だとばかり」

 確かモニカさんが商人の護衛依頼が多く上げられていると言っていましたからその中に紛れていたのでしょう。しかしギルドが調査してクロと断定された相手からの依頼を受け付けるはずがないのですが……。そういえばギルド内には買収された職員がいるんでした。その人が秘密裏に処理していたのかもしれません。そしてそれを受けてしまったのがここにいる貴族騎士さんだったというわけですね。

「奴等が犯罪者なのだとしたら、君が盗賊だという話は……」

「アサシンは盗賊などという下賤な罪人ではありません。弱気を助け悪を穿つ正義の暗殺者です」

 キリッと決め顔で締めると、貴族騎士さんの口から「おおっ」という感嘆の声がアサシンに送られました。やはり騎士は正義という言葉に弱いのでしょうか。

「だ、騙されてはいけませんよ! 暗殺者ということは人殺し、つまりあやつこそが犯罪者。さっさと殺してしまいなさい!」

「黙れ!」

「ひぃ!?」

「そして聞け! 我が名はアニマ。アニマ・フォン・アコガレィ! 日銭を稼ぐ傭兵なり」

 貴族なのは合っていましたが、騎士ではなく傭兵でしたか。確かによく見るとキュイラスやガントレットは傷だらけ、ドレスもパッチワークで補修されています。苦労されているんですね。

「ええい、バレてしまっては仕方がない。お前たち、やってしまいなさい!」

 賊という名の私兵達がアサシンと貴族傭兵さんを囲みます。既に半数がやられているとはいえ、二人相手には十分過剰戦力です。

「多勢に無勢とは卑怯な!」

 どの口が言っているのでしょうか。

 ともかく真正面からやりあっては圧倒されてしまいます。戦いは質ではなく量なのです。

 ですがそれはあくまで真正面から戦った場合の話。アサシンは暗殺者(アサシン)らしく殺らせてもらいます。

「目を閉じてください!」

 そう発するや否やある物を真上に投げました。宙に放った物体は辺り一帯を明るく照らすほどの眩い光を発生させます。それは一瞬の輝き、されど目を焼くのには十分でした。

 アサシンが投げたのはフラッシュグレネード。強い閃光を放って敵の目を潰し一時的に無効化する為の武器です。

 以前通販サイトNyamazonで暗視ゴーグルを購入した際におまけとして付いてきたハンドグレネード。その中に手違いで混ざっていたフラッシュグレネードが誤爆して大変な目にあったのですが、そのことをレビューに書いたところメーカーから連絡があり、お詫びとして贈られたものが今使用したフラッシュグレネードだったのです。

 説明も終わったので犯罪者の駆除を始めましょう。

「貴族傭兵さん、懲らしめてあげなさい」

「目が、目がぁ!」

 目を閉じろと言ったのに光を見てしまったようです。結果アサシン以外目を押さえてフラフラ歩き回るというゾンビ映画さながらの光景が出来上がってしまいました。

 貴族傭兵さんに犯罪者を処分してもらおうと思っていたのですが仕方がないですね。相手と距離があるのに加えて広い空間で使用したので効果の持続は期待できません。ここは雑兵は無視して本命を狙いましょう。

 事件の黒幕である商人の前に立ちます。視界が戻ってきたのか商人はアサシンを認めると慌てふためきました。

「た、助けて。金ならいくらでも払う! だから……」

「命なんて安いものです。悪党のは特にね……」

 命乞いをする商人を意に介さず、命を刈り取る形をしているわけではない普通のナイフで絶命させます。悪党に遠慮など必要ないのです。どうせリポップしますし。

 さて、目的も達成したので後は宿へ帰るだけなのですが……。

 スタン状態から復帰した犯罪者達が退路を塞いでいます。簡単には帰れそうにありません。

 「俺たちの面子を潰しやがって! ただで帰すわけにはいかねぇ!」彼らの表情から推察する考えを代弁するとこんなところでしょうか。

「ここは我に任せて頂きたい」

 同じくスタンが解けた貴族傭兵さん。目立った活躍をしていませんからここは華を持たせてあげましょう。アサシンは気遣いのできる大人の女性なので。

「では改めて。やっておしまい」

「はっ!」

 なんだか気持ち嬉しそうな顔をしていました。敵を倒したくて堪らなかったみたいです。

「我の実力をお見せする為、貴様達には剣の錆になってもらう」

 下段の構えで静止したかと思うと、彼女の剣が青白く光りだしました。剣に魔力を溜めている様子。

烈風斬(れっぷうぎり)・初!」

 剣を下段から上段へ振り上げると切っ先から旋風が発生。ゆっくりと前進しながら成長した辻風は竜巻となり、残党を取り込んで空高く舞い上がっていきます。

 竜巻の中では見えない風の刃が暴れまわり、彼らの衣服を切り裂いていきます。誰得なんでしょう。顔を赤らめて露出した肌を手で隠しているのがなんとも腹立たしいです。

 そして落下してくるボロ雑巾のようになった犯罪者達。

「またくだらぬものを斬ってしまった」

 それらには一瞥もくれず、背を向けて剣を鞘に納めました。


 今回の依頼はイレギュラーがいくつも重なって想定以上に時間が掛かってしまいました。

 ともあれ依頼は達成、後はギルドに報告すれば完了です。ギルドが開くまでの数時間、宿に戻って惰眠を貪りましょう。

「お待ち下さい!」

 早く帰りたいのに呼び止められてしまいました。相手はもちろん貴族傭兵さんです。

「先程は悪漢から助けて頂き有難く存じます」

 跪いて頭を垂れまるで王族にでも接しているかのよう。言葉遣いまで貴族らしくなっています。この態度の変わり様、一体どうしたというのでしょう。

「助けた覚えはないのですが……」

 むしろしっかり利用させてもらいました。

「いえ、あのまま騙されていれば悪の手先として知らず知らずに悪行を重ね悪人に堕ちていたでしょう。感謝の念に堪えません。そこで、我を配下に加えて頂きたく思います」

 フアッ? 何を言い出しているのでしょうか。ただ間違いを正しただけの初対面の暗殺者を相手に。

「何なんです、藪からスティックに。貴族というは国王や国そのものに仕えるものではないのですか?」

「家督は騎士団に所属している兄がいずれ引き継ぐでしょう。我は自由にしていいと許しを得たので憧れの騎士に……、はなれなかったので冒険者として修行をしながら白馬の主様が迎えに来てくれるのを待っていました。そして今、我の前に現れたのです!」

 そもそもアサシンが選ばれてしまった原因に心当たりが全くありません。

「命令された時ビビっと来たのです。我に主が舞い降りたと。弱きを助け悪を成敗するヒーロー然とした姿、そして何より戦闘中のあのやり取り。サブカルに憧れを抱くアコガレィ家の長女たる我をあそこまで昂らせたのは主が初めて。主はまさに我が求める理想の主像そのもの!」

 早口で巻くたてられて少し怖いです。

「一人熱く盛り上がっているところ申し訳ないですが、アサシンは平民な上に裏の世界に生きる女。誰かを導く立場にありません」

 というのは表向きの理由で本音は面倒なので嫌なだけです。

 引いてくれる気配のない貴族傭兵さんとこのまま押し問答を続けていたら夜が明けてしまいます。それにここに止まっていては身バレもあり得る。アサシンが暗殺者であることは秘密なのです。こんな時は……。

「三十六計逃げるに如かず。スタコラサッサー」

 どうせこの街には依頼で訪れただけ、もう会うこともないでしょう。逃げるは恥でも役に立つのです。

「あっ! お待ち下さい、主様! 主さ――ぁ――。――――。――!」

 背中に投げかけられる言葉を全て聞き流して駆け抜けます。停滞してはいられません。今は離脱が最優先事項です。


 こうしてアサシンの出張暗殺は無事に(?)完遂しました。


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