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少年魔法少女譚「ななめトランス!」  作者: 由樹ヨシキ(夢月萌絵)
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第七話 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力

この小説にはBL、GL成分が含まれます。お気を付けください。

第七話 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力


目次

1.ジンギレイチチュウシンコウテイ

2.所変わって市立大波中学校2年C組教室

3.病院へ行こう

4.新たなる力

5.『コウ』


登場人物紹介

七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。


前回までの魔法少女ナナメ!

中学二年生七芽祐太郎は『魔法生物及び現象による災害防止対策特務機関』通称『魔特』の武者小路博士に魔法適正を見出され、怪しげな科学の力で魔法少女ナナメにされてしまい、魔法でしか対処できないMIDという脅威と戦っている。

気になる女子須賀栞はやたら事件に巻き込まれ、憧れの先輩白銀卓斗には正体を隠すためにキスしてごまかす羽目になる。ついでにいうと母真実那は初代魔法少女。とてもつらい。


1.ジンギレイチチュウシンコウテイ

「パワーアップだよ!ナナメ君!」

「唐突になんなんですか!それに僕今は祐太郎ですからね」

『魔特』本部である武者小路邸に呼ばれた祐太郎。今日は変身する前の男の子の姿のままである。ふかふかのソファで高級そうな紅茶を飲みながら自分を呼びつけた武者小路博士を待っていたところにこれである。

(うう・・・、今日もテンション高いしなんかクルクル回って盛り上がっているよお・・・)

「ナナメ君の魔法の技術や使い方、判断力は確実に向上している!しかし出現するMIDも強力になっていることも確かだ!ふがいなくも君を危険に晒してしまったのは私の不徳のなすところ・・・マッミーナさんにも合わせる顔が無いよっ!」

祐太郎の母親に対して欲情するこのおかしな青年にはもうこのまま母親に近づいて欲しくないなあと祐太郎は思ってしまう。

「だが開発したよ!汚名返上名誉挽回!言語道断問答無用!魔法少女ナナメ君をパワーアップさせるジンギレイチ・チュウシンコウテイ・システム!

様々な感情や通過儀礼を(この場合は強制的に早回しで)体験することによって魔法少女として一段階も二段階もレベルアップするシステム。原理としてはナナメ君が魔法を使う時に補助してくれるデバイスやプログラムを最適化して効率化するために、我が『魔特』が所有するスーパーコンピューター『KAMUI』が必要とする情報を補完するシステムだよ!」

「ジンギ・・・なんだか難しいです・・・」

博士の言葉の聞き慣れ無さと勢いと早口加減に頭を抱える祐太郎。

「要は君の経験、体験をコンピューターで分析して君の魔法が強くなるということさ!後はコンピューターの求める体験を意図的にクリアしてシステムを完成させればいいんだ。私が伊達や酔狂で君のことをいじくり倒していたかと思ったかい?」

「ええ。とても」

博士は祐太郎の言葉は意に介さず、自らホワイトボードを運んできて文字を書きだした。

「ジンギレイチチュウシンコウテイを具体的に表すとね、『神疑零恥チュウ親コウテイ』。既に半分以上クリアしているんだ。 

『神』のような才能を持った私との邂逅、あまりにも全能である私への懐『疑』。魅力的とはいえ実の母に性感まで刺激されるMPオイルマッサージを受けた時の喪失感、まさにライフ『ゼロ』。歯医者さんプレイによっての男性との急接近による羞『恥』。白銀卓斗君との『チュー』」

「なんでそこだけカタカナなんですかあ!」

「では熱い『CHUちゅー』にしておくよっ!」

「もういいです・・・熱くないし・・・」

「あと親バレの『親』!」

「雑ぅ!!」

「あとの『コウ』『テイ』はこれからのお楽しみさっ!」

「なんか全部こじつけに思えるんですけど・・・」

「実際、君の魔法はシステムによって効率化されているんだよ」

「確かに同じ魔法でも、発動が早くなったり効果が大きくなったりしてるかも・・・」

「このシステムが完成すれば、その上昇率は飛躍的に伸びる!」

「それじゃあ、フリフリを着ないで魔法を使ったり、男のままでっていうのは!?」

「それで魔法が弱くなれば本末転倒だよ。それに、あくまでシステムは魔法少女ナナメに合わせてチューニングされているからね」

「そんなあ・・・」

「まあ諦めて最強の魔法少女を目指してくれたまえ。人類の平和と、私とマッミーナさんの未来のために!」

「悪用は駄目ですからね!うちの家庭崩壊はさせませんよ!」

「ハッハッハ」

「笑って誤魔化さないで~」


2.所変わって市立大波中学校2年C組教室

MID夜長姫の事件から数日が経っていた。

祐太郎や栞は細かい怪我は数か所あったが特に大きな身体の不具合も無く、普通に登校していた。

しかし、最終的に夜長姫を仕留めた柳井ミキは身体の修復の為にしばらく学校には来られないようだった。

そして祐太郎は、栞のことで心配なことがあった。夜長姫に操られて若い男の生気を集めている間の、悪い噂に悩まされていないかということだ。

栞本人もその間の記憶が曖昧になっているところがあるらしく、『魔特』の息のかかった病院で診療を受けてストレス性の意識障害だということにされていた。

勿論夜長姫のこともナナメのことも覚えていないので、祐太郎はそれとなく様子を探ることしかできなかった。

「須賀さん、今日は体調大丈夫なの?」

帰りのホームルーム後に、話しかけてみることにした。

「うん?ありがとう、今日は大丈夫だよ。どうしたのななめ君」

「前も倒れたことあったから・・・実は病弱なのかなって」

「あはは。勉強し過ぎかな?しばらくはまっすぐ家に帰って安静にするね」

「それがいいよ!じゃあね!」

言葉通りすぐに帰宅する栞。

(博士にも須賀さんのケアをそれとなくするように言われてるし、僕としても心配だったんだよね・・・いつもの明るい須賀さんで良かったよー)

「ななめ君」

「きゃあっ!」

ほっとしていた祐太郎はすぐ背後から声をかけられて、思わず悲鳴を上げてしまった。

「最近須賀さんと距離が近くなってない・・・?」

振り返ると相手は祐太郎より更に小さい。短めのポニーテール。

クラスの女子山本梢であった。背は低いが運動が得意。言動は馬鹿だが勉強もそこそこできる。自他ともに認める須賀栞のファンである。

「そ、そうかな~?クラスメイトだし、普通じゃない?」

二度にわたってMID事件の被害者として関わることになり、操られていたとはいえナナメと戦闘したりナナメの首を絞めたりとある意味濃密な関わり方をしてしまった。無意識のうちに距離を詰めていたのかもしれない。

(変に思われないように気をつけようっと)

「ご相談があります」

「な、なんでしょう?」

梢の急な敬語と改まった態度に緊張する祐太郎。「ここじゃちょっと」と引っ張られていく。

辿り着いた先は2年C組の掃除担当区域である美術室。

「こずー、どした?」

「大島ちゃん、掃除終わった?ちょっと人のいないとこ探しててさ、ゴミ捨てだけしとくから美術室使ってもいい?」

「ふうーん、そういうこと。わかったよー、うまいことやりな」

「そんなんじゃないって!」

「まあこずに限ってはそうだろうけどね」

掃除当番だった生徒たちから美術室を明け渡され、祐太郎は梢と二人きりになってしまった。

本来であればそのまま告白イベントでも起きそうな雰囲気であるが、残念ながら祐太郎にもクラスメイト達にも、そうでないことはよくわかっていた。

「それでね・・・相談なんだけど」

「・・・うん」

再び神妙な面持ちになった梢に、祐太郎は姿勢を正して心構えをする。

「私、須賀さんのことが好きなの!」

「知ってるよ!」

(やっぱりキターーーー)

「み、皆知ってると思うよ?」

「そういう意味じゃなくて!本意気で!性的な意味で好きなの!友情を超えちゃってるの!でも私にはなかなか須賀さんとの距離を縮められなくって・・・急激に仲良くなったななめ君にならいいアドバイスをもらえるかなって!」

早口でまくしたてられて、しかも内容が内容だけに祐太郎はドキドキしてしまう。

「そんなに仲いいわけじゃ・・・好きなものも桜の花ってくらいしか知らないし。あと金光義塾に通ってるとか。ちなみに、山本さんは須賀さんのどういうところが好きなの?」

「みんなに優しいところかな」

(わかる・・・)

「男女分け隔てなくてさ、相手によって差別するようなことがなくてさ、とっても、光属性なの」

(すごくわかるなあ・・・)

「あとね、実は意思がすごく強くて、意固地になっちゃうとこも可愛くて、それで悔し泣きしちゃうこともあって・・・」

「本当に好きなんだね」

「そうよ!昨日今日じゃないんだから!なのにななめ君たら栗生との仲を取り持つなんて」

「ええ~!?別に取り持ったわけじゃあ・・・須賀さんにも相談されただけだし・・・」

しかし今の梢には取り付く島もない。

「なんか揉めてる?大丈夫か?」

そんな時美術室の入り口から声がかかった。

祐太郎は誰かもわからないが助け舟を得たとほっとして振り返る。

美術室に入ってきたのはクラスメイトの黒羽操くろはそうだった。いつも祐太郎と学年で一番小さい男子の座を争っている生徒である。

「なんか言い争ってるように見えたけど」

「喧嘩してたわけじゃないんだ。心配してくれてありがとう」

「ちっちゃい人間族だけで何話してんだ?」

「サノ!」

続いて操の後ろから現れたのは左野準一郎。こちらは逆に2年C組で1,2を争う高身長、野球部。

坊主頭なのに爽やかでかっこいいのが祐太郎には羨ましくも悔しい。

確かに祐太郎と梢と操が3人そろっていると準一郎からすると小人の集まりのように見えるだろう。

しかし操は眼鏡をくいっと上げて反論する。

「一緒にしないでもらおうか。僕は去年の身体測定と比べて8.9cm伸びていたんだ。これは13歳0ヶ月から14歳0ヶ月で男子が伸びる身長の平均8.7cmを上回っていてだね――」

「そんな細けえことばっか言ってるからちっちゃいままなんだって」

「なんだとお!」

腕を振り上げて小突くふりをする操だったが頭を準一郎が押さえてしまうと、まったく届かない

。二人の男子のコントのようなやりとりに、梢は大きくはーっとため息をつく。

「もうこれじゃ相談続けられないや。じゃあね、ななめ君、また相談乗ってね!」

梢は先に、ポニーテールを揺らしてスタコラサッサと美術室を出て行ってしまった。

「山本が相談ってことは須賀絡みか?」

「サノ、そういうところ鋭いよね」

「須賀栞・・・あれは将来有望株だよなあ、おっぱいも大きいしよお・・・」

「君たちそれしかないの!?」

「僕をサノと一緒にしないでくれ!」

操が抗議の声を上げる。

「あ・・・ごめん、黒羽君のことじゃないだ。黒田君とか・・・」

(あと博士とか!)

祐太郎の頭に厄介で破廉恥で不謹慎な人物の顔がちらつく。無駄に美形なのが始末が悪い。

「小鞠さんみたく美しくなってくれたらいいよなあ・・・系統としては、ななめの母さんも近いよな。豊かなバストに表れる、女神の如き母性・・・」

「人の姉をそういう目で見るな!」「人のお母さんをそういう目で見ないで!」

思わず言葉がシンクロしてしまう祐太郎と操。ちっこいブラザーズ。

「まあ真実那さんは人妻だし?でも小鞠さんは合法だよな!」

「だ・め・だ!」

「みさおちゃんたらシスコンが過ぎますわよ~?」

「みさおちゃんと呼ぶな。シスコンでもないし!ぼ・く・が!嫌なんだよ!」

「まあそう言うな義弟よ~」

「二度と義弟って呼ぶな!」

「お前には双葉という幼馴染キャラだっているだろ。贅沢だぞ」

「キャラってなんだ。僕はギャルゲーの主人公じゃないぞ!」

またしてもコントを繰り広げながら操と準一郎も美術室から出て行った。(僕も帰ろう・・・)と、落ち着いた瞬間祐太郎はふと思い出してしまった。

(今更だけど山本さんが須賀さんを好きって、女の子同士ってことなんだよね・・・)

急に背中から後頭部にかけて熱い血流が駆け上がるような気がした。頬が、耳が熱く火照る。

そして不意に脳裏に蘇る、白銀卓斗にお姫様抱っこされる自分、卓斗にキスして有耶無耶にしようとする自分。なぜかフラッシュバックした場面では魔法少女ではなく祐太郎のまま。

(なんで白銀先輩のこと思い出すの!!コマンド・アブソープを当てちゃって心配だからだよね!そうだお見舞い行ってみよう、『魔特』関係の病院に入院してるはず)


3.病院へ行こう

(えっと・・・KOROGASHIの監督に聞いて、先輩が入院してるから、僕が祐太郎のままでお見舞い来ても、おかしくはないよね?

武者小路博士は、先輩のアルバイト先の偉い人の設定でもあるんだし・・・大丈夫?だよね)

そして病院に来たものの、キョロキョロしながら、ブツブツ呟いている少年は、少し様子がおかしくは見えるに違いない。

(ていうか、ナナメになろうと思ったけど!魔法少女の恰好でここまで来れないし、かといってお見舞いに来るために服買いに行くなんて・・・

そうだ、祐太郎のまま女の子の服買えないじゃん!服買いに行くための服が無いよう・・・)

と、悩みながらも辿り着いてしまったので腹を決めて行くしかあるまい。お見舞いに。

「それがね、無理矢理退院しちゃったのよ白銀さん。元気にはなってたんだけど、念のため色々見て欲しいって、医師も頼まれてたのにって」

受付で見舞いを申し込もうとしたところ、看護師からまさかの宣告を受けた。

依頼したのは恐らく博士であろう。外傷がなくとも魔法攻撃を受けた人体がどのような影響を受けているのか、しっかり調べる予定であったのだろう。

「ががーん!」

決死のお見舞いが空振りしてしまった祐太郎。

(でも・・・先輩に会えなかったのは残念なんだけど、どこか安心しているのは何故だろう・・・)

それはきっと、卓斗をノックダウンしてしまった罪悪感のせいだけではなかったのである。

(せっかく街まで来たんだから、『オモチャのもりちゃん』に行ってガチャガチャでも回して来ようっと)



それから数日後。

「いつもすまないね。今回はボヤ騒ぎなんだ」

「放火魔ですか?」

「ただの放火魔でもホモオカマでもないよ!」

「言ってません!」

「現場から残留MP痕が検出されたんだよ。しかも場所は夜長姫事件のビルの近くなんだ。事件の痕跡とは別の新たなMPが検出されたっていうところがミソだよ!お味噌じゃないよ、英語で言うとPOINTだよ!」

「なんだろうこのノリ、いつもより辛い・・・」

またも『魔特』に呼び出された祐太郎、魔法少女ナナメに変身させられている。

武者小路博士のノリは軽いが火事に発展しうる可能性もあるので、意外と事態は深刻で緊急なのである。ナナメは早速現場に向かいながら作戦の説明を受ける。

広域のMP感知レーダーで、放火が起きる可能性があるポイントをいくつかに絞る。それぞれを見張りながら、原因を探り、出火を防ぐ。

ナナメが担当するのは本命の、夜長姫事件で戦いの現場となったビル周辺である。

〈すまないね、怖い目に遭った場所に赴かせてしまうことになって〉

「・・・大丈夫です。柳井さんがやられちゃった時は生きた心地がしませんでしたが、彼女も無事だったんで。無事・・・ではないかな?」

『魔特』の車両で市街地に着くと、武者小路家が所有するビルに入り、床に魔法陣の描かれたシートを広げて、ナナメは杖を回して集中する。

「コマンド・ブラックキャット!」

魔法が発動した光が収まると、ピンクの魔法少女服であったナナメの姿は墨をかけられたように真っ黒になっていた。

(よし、成功!これで闇に紛れて見張りができるし、夜目も効くし足音もたてずに歩けるよ。・・・でもこれって、想定外?)

塗り残し(?)がないかくまなく身体を見回していたナナメだったが、なぜかお尻からは尻尾も生えていた。

自分で持ち上げて触ってみると、モフモフで気持ちいいが、お尻の先からこそばゆい感覚が伝わってくる。

(・・・ブラックキャットだもんね。最初からこうなるのをわかってて、あえて博士が言わなかったのかも・・・とにかく受け持ちの場所に行かなくちゃ)

魔法の効果で、気配を消し、闇に紛れてナナメは数十メートル先、例の漫画喫茶のビルに着いた。

あの日ビルの横の路地では半理素体になりイメチェンし過ぎなヤナギと出会った。そしてビルの中では純朴な中学生男子にはセンシティブ過ぎる同級生の女子の出産シーンを目撃し、自身は触手状の粘液に絡まれて死にかけ助けられ、強力な魔法を扱うMID夜長姫と死闘を演じた。

思い出すだけでも身体を震えが走る。

ナナメは作戦通り路地に身を潜ませた。

繁華街とは離れているため夜の人通りはまばら。まして事件後封鎖されているビルなのでナナメにはことさら不気味に見えた。

このまま一晩じゅう一人きりで見張りをすることになるのかと思うと再び身震いしてしまうが、幸運にも(?)ほどなくして異変が現れた。

(なにか、チカチカと地面で光ってる・・・?)

ナナメは目を凝らした。

光の小人だ。淡い輪郭の光る小人達が集まっている。どことなく完理素体のモヤモヤになってしまったヤナギの姿を思い出させる。

小人達は何かを探してわらわらと動いているようだったが、良き場所を得たのか、一箇所に集まり、輪になって、動き出した。

(踊っているのかな?フォークダンスみたいだ)

やがて小人達の中心に、光る芽が生えてきた。

(あれ、一人だけ小人さんが仲間はずれになってる!)

ナナメは、輪に加わらず一体で踊っている小人がいることに気が付いた。

一体だけではなかなか芽を生やすことができないようで、その間にも輪になって踊っている小人達は、光の芽を成長させて、蕾を生じさせていた。

(あっ、あっ、ぼっちの小人さん、大丈夫かな・・・)

ナナメは、ついつい、ようやく小さな光の芽を生えさせた仲間はずれの小人を心配してしまうが、一方の光の蕾は花を咲かせ・・・

燃えだした。

「ひゃっ!」

思わず声をあげてしまったナナメ。集中が切れて魔法が弱まり、声と物音を漏らしてしまった。

顔の無い小人達が一斉にナナメの方を向いたように見えた。

「ひぃ・・・」

小人達は膨れ上がるようにして花から生まれた炎と一体化し、形を変え、大型犬のような姿になった。

「あわわわわわ・・・」

ただし炎でできた犬に顔は無く、脚も3対、6本ある。

〈ナナメ君!捕獲だ!〉

「は、はいぃ!コマンド・キャンセル!」

犬に対して猫ではなんとなく不利そうだ。黒猫化の魔法を解き、魔法の杖を構えて炎の犬に対峙する。その時。

ガッシャアーン!

ナナメの背後で漫喫ビルの窓が割れて、炎の犬が次々飛び出してきた。そのままナナメに向かって突進してくる。

ナナメは慌てて身をかわすが、犬の群れはそのまま一方向に走り去っていってしまう。最初の一体もナナメの横をすり抜けて行ってしまう。

「コマンド・ターゲット!」

ナナメはギリギリすれ違いざまに、目標を追尾するための魔法をかけるのが精いっぱいであった。むしろ回避しながら咄嗟にこれだけ出来たのだから誉められてもいいくらいであった。

「博士、これはいったい・・・」

〈今のはファイアスターター型、フレイムイーター型だね。MPを燃やして集めているようだ。まずいことになりそうだ。追跡しておくれ〉

「はい!・・・あ、ぼっちの小人が置き去りになってる」

ファイアスターター型MIDと呼ばれた光の小人の一体が、取り残され、ようやく生み出した光の若芽も、フレイムイーター型と呼ばれた獣型のMIDに踏みつぶされてしまっていた。

「なんか放っておけないよね。あ、ガチャガチャのカプセルがあるけど・・・入るかな?」

小人を玩具の入っていたカプセルの半分ですくってみる。不思議と熱くはなかった。ナナメは透明なカプセルの蓋を閉めてポシェットにしまった。

「それじゃあ急いで追わないと・・・うん、杖が引っ張られる感触がある。追尾できてるみたい」

ナナメは改めて直立し、姿勢を正す。足は肩幅に開き胸をはって顎を引いて、お尻も突き出し過ぎないように。肩を下げて腕は杖を水平に掲げて身体の正面。

リラックスして、お腹を膨らませると同時に息を吸い、体じゅうに魔法の力の源であるMPが巡るのを感じて、息を吐きながらお腹をへこませる。数セットの腹式呼吸によって血流とともにMPが活性化したら、杖を回してイメージを固める。

「コマンド・スムーズ!コマンド・チェイス!」

立て続けに魔法を使うと、ナナメの身体は杖に引っ張られるようにして炎の獣たちが駆けていった方向へと飛んでいく。

「よっ、とっ、ととと!」

魔法で摩擦を調節した靴底で、ナナメは上手くバランスをとる。昔テレビで見た水上スキーというのはこんな感じだろうか。

〈コマンド・ターゲットを維持しながら新たに二種類の魔法を・・・ナナメ君、腕を上げたね!でも交通事故には気をつけておくれよ!〉

「はい!力の込め方でスピードは調節できますから!子供のころスピードスケートやってたから、曲がったり止まったりも大丈夫です!」

〈今でも充分子供だと思うよ!・・・敢えて言うまい〉

ナナメは人気ひとけが無くて平坦で広めの道をうまく選んで、杖が導く方角へと滑っていく。

〈あのビルには夜長姫が使った魔法の残滓、残留したMPが相当残っていたようだね。そして認識阻害の魔法の影響も。故に我々が検知できなかった。が、ボヤ騒ぎは氷山の一角に過ぎなかった。このMID群はMPをかき集めて一体何を――〉



4.新たなる力

「博士、着いちゃったみたいです。ここは・・・河川敷です。冬祭り会場の時に来たことがあるだけだから、見慣れないけど・・・」

そしてそこには集結する炎の獣たち。10体以上はゆうにいるようだ。

そしてその中心には、長いコートの人影が。

(もしかしてまた人型のMID!?)

ナナメの足がすくむ。夜長姫という、初めて人語を操りコミュニケーションがとれるMIDとの出会い。そして圧倒的な力。

ナナメの心にトラウマを植え付けその足をすくませるには十分すぎるものであった。

「すみませーん、別の世界から来た方たちですよねー?どうか私たちの保護下に入ってくれませんか~?」

ナナメは、炎の獣たちに囲まれた、フードを目深にかぶったロングコートの人物に友好的なコンタクトを図る。

「ひっ!やっぱり・・・」

振り向いたフードの下にはやはり・・・顔が無かった。メラメラと燃え盛る炎があるだけだったのである。

〈ナナメ君、気をつけろ!そいつはフレイムマスター型!戦闘に特化した魔法を使う危険なMIDだ!〉

MIDのDはデンジャラスのDなのだから危険は当たり前じゃないかとか、突っ込んでいる余裕はなかった。

コートを着た炎人間は、直ぐに獣たちをけしかけ、手から火柱を生じさせて襲い掛かってくるのである。

〈フレイムマスター型は眷属に集めさせたMPを使って、攻撃的な炎の魔法を使ってくるはずだ!慎重に、ゆっくり、時間を稼いでくれ。情けは禁物、自分の身は全力で守るんだ。いいね?〉

「はい!距離をとります!コマンド・フリーズ!」

ナナメは飛び掛かって来ようとした一頭に、魔法の杖の先端に冷気を宿して牽制した。冷気に触れてしまった獣は、脚を失ってジタバタと地面を転げまわる。

(ごめんね、本当に、相手を、気遣う、余裕が、無いんだ!)

獣たちを撃退する間にも、炎人間が花火のように炎の塊を撃ち出してくる。ナナメの魔法少女服は魔法に対しての耐性が高くつくられているが、それでも直撃すればどうなるかわからない。

露出している肌に触れても熱そうである。当たらないようにかわすのが最善策に思われた。

(体育の時のドッヂボールみたいだ・・・僕、かわしてばかりでキャッチなんてできたことないしね)

祐太郎は素早く、的が小さいことも幸いしてうまくボールをかわすのが得意であった。ドッヂボールの授業では、たびたび祐太郎が一番最後まで残ってしまい、逃げ惑う祐太郎オンステージが開催されていた。

しかも、手を出すのが恐ろしいのでキャッチはできず、永遠に勝負がつかなくなってしまうのだった。

(ここで体育の授業が役に立つとはね!)

「ほっ!」

「はっ!」

「やあっ!」

ナナメも小さな良く動く身体をうまく使って、炎の弾をかわし続けていた。しかし――

「あっつ!おしりが!えっ!?後ろが火の海に・・・」

ナナメがかわし続けていた炎の弾は、いつの間にか逃げ場が無いくらい周囲を燃え広がらせていた。ナナメは火の切れ目を探して走ったが、既にぐるりと炎の壁に囲まれていたのだった。

不自然に高く燃え盛る炎で向こう側も見えない。これも魔法の効果に違いなかった。

「コマンド・フリーズ!」

ナナメは今度は、杖の先から冷気を放出して炎をかき分けようとする。だが思ったより効果は薄く、冷気も収まってしまう。

(あれ・・・魔法の力が・・・全然出てこない・・・吸い取られてる?空気も・・・薄くなってるかも、この火のせいかな、ヤバいヤバい!)

炎人間ことフレイムマスター型は、炎で魔法陣を描きナナメをその中に閉じ込め、理素=MPと酸素を奪い取っていたのだ。後は弱った獲物をゆっくり追い詰めるだけでいいのである。

(炎の壁が薄いところを・・・無理矢理突っ切れば脱出できるかも・・・なるべく・・・ダメージが少なくなるように薄いところを探さなきゃ・・・)

魔法が満足に使えなくなったナナメを、炎の獣たちが容赦なく追い立てる。

身を翻して炎をかわし、走る。息が切れているところに加えて酸素が薄くなり、たちまち足がもつれる。

炎の壁や獣にぶつかった手足がジンジンと痛む。それでも、ふらつきながらも、炎人間から逃げながら突破口を模索するナナメ。

(絶対に諦めないぞ・・・!)

ブオオン!その時、ナナメと炎人間たちの間に炎の塊が飛び出してきた。

それは炎の獣より大きく、炎の獣より速く、ナナメに襲い掛かろうとしている獣を何体か蹴散らして走り去ったが、やがて炎を振りほどいて旋回し、ナナメの前に止まった。バイクであった。

そしてバイクを降りた人物は力尽きかけ膝をついているナナメに駆け寄った。

「大丈夫か」

「せんぱ・・・白銀さん!?」

やや焦げ臭かったがバイクも卓斗も平気なようであった。卓斗は手早くシートの下の収納から酸素スプレーのようなものを取り出しナナメの手に持たせて吸入させ、自分はナナメの手から魔法の杖を受け取り、ハンドル脇のスイッチボックスからコードを伸ばしてバイクと杖を繋げた。

〈これぞ『魔特』で新たに開発した、蓄魔力を用いたハイブリッド二輪・武者小路乙乙型!武者ダブルゼータと呼んでくれてもいいよっ!簡易的な障壁魔法を展開できる他、今のようにナナメ君に魔力を補給できるよ。その酸素スプレーは僕の特別製で少量だがMPも補給できるようになっているよ!悪いがナナメ君、早速だがあの魔法を使っておくれ〉

バイクには魔法でシールドが張られていたようで、薄く発光していた。しかしその魔力は急速にナナメの魔法の杖に移されたようで、シールドの光が弱まりつつある。

朦朧としていた意識がはっきりと覚醒したナナメは、右手で卓斗からバイクとつながったままの杖を受け取り、左手で中空に簡単な図形を描き、博士に教わった魔法を発動させた。

「コマンド・エボリューション!」

すると魔法の杖の先から生まれた光が卓斗に向かって飛んでいき、その身体が全て光に包まれた。

「えっ!えっ?せん・・・白銀さん!?」

ナナメは予想しなかった結果に焦る。またしても自分の魔法の誤作動で卓斗を攻撃してしまったのかと思ったのだ。

しかし卓斗は平然と歩きだし、MID達とナナメの間に立ちはだかった。

その姿は、頑強そうな漆黒のボディスーツ。白いマフラーが炎の起こす気流にたなびき、ヘルメットは変形し動物をあしらったようなデザインになっていた。黒いヘルメット本体に黄色のたてがみのようなパーツがついている

「百獣の王の咆哮、轟雷の如し!マスクド雷音ライオン、推参」

そして中国武術のような構えをとり、名乗りをあげた。

「かかかかか・・・かっこい~!!」

子供のころに憧れた変身ヒーローのような姿を見て、ナナメは興奮を隠せなかった。

「博士・・・本当にこれ(ポーズと名乗り)、必要なんですか?」

〈うん、勿論マストだよっ!〉

バイクによって蹴散らされ、怯んでいたが、再び攻撃を加えようととびかかる炎の獣たち。

「フッ!」

その先頭の一頭を、卓斗の拳の一撃がバラバラに砕いた。

「うえっ!?すごっ!」

〈今の白銀君・・・いや、マスクド雷音は〉

「言い直さないでいい!」

〈ナナメ君の魔法で超人的な膂力と、魔法への耐性を得ているよ!これぞ魔法を使う時無防備になりがちな魔法少女ナナメを守護する前衛となるべく開発されたMasked Warriorシステムさっ!〉

長々とした博士の説明の間も、黙々と炎の獣を屠る卓斗の姿は、戦士というよりむしろ暗殺者であった。

襲い掛かる獣に対して、主にカウンターで拳を、掌打を、握撃を合わせて仕留めていく。

時には炎人間の魔法の炎を浴びせられ、獣には体当たりを浴びせられ、噛みつかれ、爪で切り付けられるが、怯まずに確実に敵の数を減らしていく。

「すごい!MIDの攻撃をものともしない!それに無駄の無い動きで次々と!」

〈ふむ・・・〉

そうしてようやく最短距離で炎人間の正面まで進むと、地面を強く踏みしめた。大地をえぐって、真っすぐに駆け出す。ただ一つのターゲットに向かって。

飛びつこうとする獣たちを振り切り、取り残し、スーツの表面にはプラズマ状の光を帯びて、稲妻のように駆け抜ける。最後に残った獣たちが炎人間を庇おうと間に割って入ろうとする。

「うおおおおおおおおっ!!」

轟音とともに、炎人間を庇おうとした獣ごと、貫き、粉砕してようやく止まり、卓斗は膝をついた。

〈これぞ必殺・雷音ライオンズ咆哮ロア!いいね!必殺技もやはり音声認識にするべきだね!〉

「・・・やめて・・・ください・・・」

「やった!すごいです白銀さん!」

ナナメはバイクから杖を取り外して、興奮して憧れのヒーローの元へ駆け寄るが、卓斗は膝と腕を地につけて四つん這いになり、荒い呼吸を繰り返していた。

〈現在の問題点は稼働時間が短いところだね。ナナメ君からのMP供給がきれてしまってはただの重たいスーツになってしまう。あと耐久面でも万能ではないからね。攻撃が効いていないように見えたのはただの我慢と根性だよ。無駄なエネルギーも時間も使えないから、最短距離で、最速でMIDの親玉を倒すしかなかったんだ。現時点での運用としては完璧だったよ、白銀卓斗君!〉

「そんな・・・白銀さん大丈夫ですか?」

「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ・・・」

口もきけないほどに消耗している卓斗を気遣って、ナナメがかがもうとするが、そのまま自分も膝をついてしまった。

「あれ・・・?」

ナナメは我ながらただのドジかと思ったがどうにも様子がおかしい。

身体に力が入らず、視界も曇ってくる。まだ体力が戻っていないせいだろうか。

「げほっ・・・違う・・・これ、煙だ!」

気づけば辺りは黒い煙に覆われていた。

「息を止めろ、吸い込むな!!」

卓斗は、力を振り絞ってナナメを自分の身体の下に覆い隠して庇う。

周囲を見渡す。煙の向こうに、身体の半分以上を失いながらも、同じくバラバラになった炎の獣を寄せ集めて身体を無理矢理形作ったフレイムマスター型の姿が見えた。

〈なんてしぶとい奴だ・・・!奴は、炎の結界の相を変えて、有害な煙で君たちを殺すつもりだ!〉

「このままでは煙の向こうへ逃げられる・・・既に姿も見えない・・・だが奴も弱っているんだ・・・あと一撃・・・」

卓斗はマスクで持ちこたえられているが、生身のナナメは卓斗に口を塞がれ苦しそうである。

〈ナナメ君、またしてもぶっつけ本番だがもう一つの魔法使えるかい!〉

こくこくと頷くナナメだが喋ろうとすると途端に黒い煙に咳きこんでしまう。

(あと一言唱えられれば・・・)

「あと一撃放つことができれば・・・」

〈あと一息呼吸ができれば・・・〉

ナナメは意識が朦朧としながらも、自分を覆い密着した卓斗の身体の上に指で魔法陣を描く。

それを感じながら卓斗は深く深く息を吸い込む。

「フェイス・オフ!」

音声コマンドでマスクを外した卓斗は、人工呼吸の要領でナナメの口から空気を送り込んだ。


一息で充分だった。


ナナメは、呪文を唱えた。

「コマンド・レボリューション!げほっ!」

(あとはお願い・・・します・・・)

再び卓斗の身体は光に包まれ、変態を遂げた。

「カムイに導かれ、奔流迸る!マスクド熊河タイガー、覚醒」

新たな姿で、卓斗は立ち上がった。マスクのデザインはマスクド雷音と同じくネコ科を思わせるが、その胸には躍動感溢れる熊の頭部があしらわれていた。

(クマなのトラなの・・・)

「これ、ほんっとうに必要ですか」

〈マストだね〉

新たな姿で新たな力を得ることに成功した卓斗であったが、フレイムマスター型の姿は既に煙の作り出す闇の中であった。

(僕もなにか・・・)

「ナナメはもうじっとしていろ!」

無理に起き上がろうとして倒れてしまったナナメのポシェットから、カプセルが零れ落ちた。

カプセルから一筋の光が煙の中に伸びていく。

「白銀さ・・・っ!たぶっ・・・、この、さき・・・!」

卓斗はすぐさま大きく振りかぶって、光とナナメが指し示した方向に向かって、拳を振り抜き、水でできた弾丸を発射した。

熊河タイガーズ奔流スプラッシュ!」

〈いいよいいよ!まだ音声認識にしてないのに思わず技名叫んじゃったねえ!〉

手ごたえは・・・あった。

ボウンッ!と何かが破裂したような低い音が響いた。黒い煙はあっという間に霧散し、炎だけが残った。


「ナナメ、しっかりしろ!」

(ん・・・先輩・・・)

一瞬意識がとんでしまったナナメが目を覚ました時には、変身解除された卓斗の腕の中であった。

(またお姫様抱っこされちゃってるよー!)

卓斗はナナメを抱きかかえてバイク――武者小路乙乙型の所まで運んだ後、酸素・MP吸入スプレーを吸わせて、自分はスポーツドリンクで水分を補給していた。

二人がようやく動けるくらいには回復した時にも、魔法の炎はまだ消えていなかったため、ナナメは最後のMPを振り絞って、川の水を使って消化活動を行った。駆けつけた『魔特』の隊員達と卓斗も手伝ってなんとか鎮火することができたのだった。



5.『コウ』

武者小路邸へ撤収する車の中で、ナナメはふと思い出した。

「あっ・・・、カプセルの中の小人さん、君が最後に助けてくれたんだよね。ごめんね、君の仲間たちを皆倒してしまって・・・」

カプセルの中の光の小人はナナメに応えるように手を振る。あまり何も考えていないようだ。

揺らめく淡い光を見ながら、ナナメの意識は深く落ちて行った。


ナナメは夢を見ていた。魔法少女ナナメになってからのことを反芻するような夢だった。

天才で変態な武者小路博士。初めから怪しい人物であった。以前も同じようにMPを使い切って動けなくなってしまったことがあった。恥ずかしいマッサージを受けた。恥ずかしい歯の治療もされた。博士の顔が近かった。母真実那が初代魔法少女だった。今変身すると凄くキツい姿だった。自分の魔法少女姿を見られるのとどちらがキツかっただろうか

白銀卓斗と、またキスしてしまった。お姫様抱っこされてしまった。ナナメは女の子だから、おかしくはない?嫌ではなかった?では、祐太郎は・・・

「わあああああ!」

祐太郎は目覚めると祐太郎であった。

祐太郎の身体に戻っていた。ふかふかのベッドに寝かされていた。夢の中ではナナメだったので違和感がある。なんか色々と恥ずかしい夢を見ていた気がするのであった。

「目覚めたようだね。良かったよ。一日半は寝ていたんだよ」

博士がいつになく穏やかな口調で話しかけてくる。寝起きの身体に優しい湯冷ましを用意してくれたのでゆっくりと飲み干す。そういえば祐太郎自身の身体からいい香りがする。

「MPオイルマッサージの間もまったく起きなくてね。そのままジェネティック・トランス・システムで身体をもどしてね。パジャマは僕が着せてあげたよっ!」

「そこはお母さんでも良かったですよね!?」

「役得役得」

「け、ケダモノお!そうだ白銀先輩は・・・」

「彼は肉体的損耗が激しかったのでまたしても病院で静養中だよ。またそのうち勝手に抜け出してトレーニングに行ってしまうかもしれないがね」

「えっ?」

「前回コマンド・アブソープの誤射で倒れてしまったのがね。かなり不本意だったみたいだよ。しかもその後ナナメ君が危ない目に遭ってヤナギ君に助けられただろう?それを聞いた時の悔しがりようったら無かったね。どうしても戦う力が、ナナメ君を護る手段が欲しいっていうのでちょうどいい実験体になってもらったんだ」

「み、民間人にそんなことしていいんですか!?」

「彼はもう民間人ではないよ。見習いとはいえ『魔特』の一員だ。それに、倫理的なことを言っているのだとしたら・・・私は、魔法少女ナナメの為ならなあんでもするよ。手段を選ぶつもりはない」

祐太郎はゾッとした。いつもの気持ち悪さではない。いつもおちゃらけている武者小路博士のふと見せた真剣なかお。そこになんぴとたりとも立ち入れないような凄みと狂気が見えたような気がしたのである。

「それからは、マスクド・ウォリアーシステムに適応できるように色々訓練しているようだよ。うちで行うテスト以外にもね。これは、彼の意思だよ」

「僕の為にそこまで・・・」

「違うだろう、ナナメ君の為、だろう?」

「そそ、そうでしたね!」

わかっていたはずのことをあえて確認されただけなのに、どうにも動揺してしまう祐太郎。

(あれれ、なんでだろ・・・)

「意識が戻ったことはマッミーナさんには伝えておくよ。私に言える資格は無いがくれぐれもお大事にね。大好きな泡のお風呂にでも入ってリラックスしていってくれたまえ」

「は、はい!」

博士はベッドルームを出て、足早にコンピュータールームを向かう。はやる気持ちがどうしても足取りを軽くしてしまう。

「ふっふっふ・・・ふがみっつ。フハハハハハハハハハハッ!!」

魔法少女ナナメの魔法制御システムや、変身システムを司るスーパーコンピューター『KAMUI』を前に、我慢できずに笑いがこぼれ、舌なめずりする様子は、極上の獲物を目の前にした飢えた獣のようであった。

「いいぞ~祐太郎君、確実に意識しているね、白銀君を!須賀栞君のことも気になっていながら!ナナメ君の時との自らのギャップにも戸惑っているね・・・いい・・・実に自然にことが運んでいる。変に意識することなく生まれたなまの七芽祐太郎の心のデータだ。これぞ『恋う』心、ジンギレイチチュウシンコウテイの『コウ』!完成まであと少し!」

(アト少シ・・・アトヒトツ・・・)









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