第十六話 最終章 ワールドエンズ・デカダンスホール(2)ナナメ、登校する
今回はラブコメです(?)
第十六話 最終章 ワールドエンズ・デカダンスホール(2)ナナメ、登校する
登場人物紹介
七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。テレビゲームとお風呂が好き。
白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。マスクドウォリアー・システムで変身してナナメを護る。
須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。
武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。
柳井ミキ(14?) 通称ヤナギ。祐太郎のクラスメイトで人間と魔法生命体のハーフ。変身して強力な魔法を使う。
黒田龍之介(14?) 祐太郎のクラスメイト。クラス一番のひょうきん者のはずが『魔特』を襲撃する。
1.ナナメ、戻れない。
黒田龍之介の開催したMID総会議は、いつしか地球の危機対策会議とMID『魔特』講和会議に変わっていた。
「吾輩も、お前たちの言うところのMID案件にはアンテナを張っていた。だが、『魔特』の組織力の前にはディオクレティアヌス、いや、出遅れることも少なくなかった」
「・・・!」
うつむいた卓斗の肩が震えている。耳も赤い。
どうやら龍之介の冗句が、ツボにはまってしまったようだ。中学生の祐太郎にはいまいち理解できなかったのだが。
(黒田君、こういうところあるんだよね・・・)
「グレムリン型やホワイトデビル型の時は――」
卓斗にとって不幸なことに、この後も龍之介の不意打ち冗句を交えた話は続いたのである。
「地球の危機はわかったんですけど!僕の身体はいつ元に戻してもらえるんでしょうか!」
流石にしびれを切らして祐太郎が声をあげる。
「すまないねナナメのままの祐太郎君!私ほどの天才でも身体は二つ無いわけだからねっ!どんなに急いでも決戦用理外魔法の開発がぎりぎりなんだよ!勿論ジェネティックトランスシステムの再構築も並行で急いで進めるけどね!どうしても8月になってしまうんだ!なあにそれまではナナメとして学校に通えばいいよっ!こちらで手筈は整えておきますねマッミーナさん?ああ礼には及ばないよ祐太郎君!武者小路家としてもそれくらいはさせてもらうよ!不自由などさせはしないさっ!」
(そうだ・・・学校・・・・)
祐太郎は血の気が引いて力なく椅子に座り込んだ。
2.ナナメ、夢想する。
会議の後、シャワーを浴びて、念のため生き残った装置でバイタルチェックを受けたナナメ祐太郎と卓斗。
検査・実験に闘いに会議とあまりにもめまぐるしい一日で二人ともへとへとである。思わず休憩所のシートに座ったきり動けなくなってしまった。
二人とも、頭を空っぽにして一旦リセットする必要があったのである。
「・・・今日は疲れたな」
「今すぐにでも眠れそうです・・・」
「七芽、大変なことになってしまったな」
「先輩・・・」
「学校も女子として通うのか。困ったことがあったら・・・まあ、俺には話を聞くぐらいしかできないだろうけどな」
(先輩、ナナメの正体が僕だってわかってショックだったはずなのに、僕のことを気遣ってくれるなんて・・・なんて人間のできた人なんだ!)
「先輩は、どうして僕にもナナメにも、こんなに親切にしてくれるんですか?危ない目にあったり、その・・・騙されたりまでして」
「まあ・・・色々あったしな。放っておけないというか。見て見ぬ振りができなかったというか。七芽も大事な後輩だしな」
『色々』という言葉で何故か卓斗とキスしてしまったことやお姫様抱っこされたことを思い出してしまうナナメ祐太郎。
「そそうですね!キスまでしちゃった仲ですもんね!僕たち、ハハハ・・・」
恥ずかしさを誤魔化そうと思っておどけてみせたつもりの祐太郎だったが、卓斗は思いのほか真剣な顔で祐太郎を見つめていた。
そうして、複雑そうな表情をして、黙って視線を落とした。
(先輩のこんな表情、昔のままなら見たこと無かった。きっと、先輩はナナメのことを見つめていたんだよね・・・)
「でもでもでも!不可抗力でノーカウントですよね!
だってだって、一度目のキスは僕が正体ばれるかもってテンパってしてしまったし、二度目は息ができなくなったナナメのために人工呼吸でやむを得ずだし!」
一度目のキスはテンパって。二度目は人工呼吸でやむを得ず。では、三度目は?
「じゃあ、ちゃんとやり直してみますか?・・・キス」
「!?」
「うそうそうそ!い、今の無しで!忘れてください!」
驚きに眼を見開く卓斗を残して、祐太郎はダッシュでその場から逃げ去ってしまった。
(なんで?なんであんなこと言っちゃったんだろう僕!わー!うわー!)
一度目のキスはテンパって。二度目は人工呼吸でやむを得ず。では、三度目は?
3.ナナメ、登校する。
「七芽の代わりに交換留学生でやってきた、ナナメ・シチガヤさんだ。七芽祐太郎とは親戚にあたるそうだな?」
市立大波中学校2年C組の教室に、制服を着たナナメの姿があった。祐太郎ではなく。
祐太郎には戻れないのだから仕方がない。
「・・・はい(大丈夫かなこの設定~?博士何が『手筈は整えておく』だよー!雑過ぎるでしょ!僕だってバレてない?)」
女の子の身体、服装で自らの学び舎に訪れることに強い違和感を感じるナナメ祐太郎。
汗が止まらず頭と腋から雫が垂れる。頬も耳も紅潮している。。
「・・・」
一瞬教室が静まり返りナナメは更に冷や汗を流す。
(ほら皆変な目で見てるよおばれてるばれてる!)
「・・・」
「かわいい!」「ななめ君にそっくり!」「紛らわしくない?」「ちっちゃくてかわいー!」「アタシもツインテにしよっかな?」「外国から来たの?」
「面倒くせーから質問とか感想は休み時間にするように。席も七芽のそのまま使ってくれ。以上」
「ええ・・・」
担任石巻はそそくさと教室を出ていき、ナナメはクラスメイトに質問攻めにされる。
ナナメは設定と齟齬が無いように悩みながらたどたどしく答える。
「聡樹、ななめそっくりだけどどう、かわいくない?」
サッカー部の安倍和也が後ろの席に振り返り声をかける。
「・・・可憐だ」
野球部の増田聡樹は、転校生を凝視しながら思わず零したように呟いた。
(おいおい一目惚れしてるじゃん~!
ななめのことは目の敵にしてたくせにそっくりなナナメちゃんにはベタ惚れじゃーん!)
和也は笑いを堪えきれなかった。




