第十五話 最終章 ワールドエンズ・デカダンスホール(1)ナナメ、落涙する
ついに最終章。最後までお付き合いいただければ幸いですわああああ!!
第十五話 最終章 ワールドエンズ・デカダンスホール(1)ナナメ、落涙する
登場人物紹介
七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。テレビゲームとお風呂が好き。
白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。マスクドウォリアー・システムで変身してナナメを護る。
須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。
武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。
柳井ミキ(14?) 通称ヤナギ。祐太郎のクラスメイトで人間と魔法生命体のハーフ。変身して強力な魔法を使う。
黒田龍之介(14?) 祐太郎のクラスメイト。クラス一番のひょうきん者のはずが『魔特』を襲撃する。
武者小路秋継博士は宣言した。
「計算では、1999年、7月。地獄の釜の蓋が開く――」
「7月・・・もう来月じゃないか!!」
卓斗が珍しく狼狽した声をあげる。
博士の言葉にまだ半信半疑な者や理解しきれない者もいる中、博士自身のことは気に入らないしそりも合わないが、その有能さは身に染みてしまっている白銀卓斗だからこそ、その絶望的な状況が残酷な真実であることは実感できてしまった。。
それを見た祐太郎(魔法少女ナナメのままであるが)も、(え・・・なんで急にそんな映画みたいな話に・・・!?)と動揺してしまう。
自分達こそが常識外れの変身や戦いを繰り広げていることを棚に上げていることには気づいていないのだった。
重い沈黙が会議室を支配したその時、パンパンと手のひらを打ち鳴らす音が響いた。
「まずはお茶でも飲みながら落ち着いて自己紹介でもしましょ。アッキ君、給湯室お借りするわね」
祐太郎の母真実那が立ち上がり、いつも通りの柔和な笑顔で場を和ませた。
「お、俺も手伝います」
卓斗が続いて立ち上がる。
「わた・・・ぼ、僕も行きます!」
祐太郎も慌てて続く。
「こっちはそういうの苦手だからね、任せるよ」
ヤナギは手をひらひらと振って、祐太郎に目配せする。
かくして割と話の中心である初代魔法少女と当代の現役魔法少女とその騎士が出て行ってしまい、会議室には気まずい空気が流れたが博士は気にせず専門的な話を延々と続けるのであった。
祐太郎はずっと言おう言おうとして言えなかったことをついに卓斗に切り出すことにした。
「先輩・・・ごめんなさい・・・ずっと、騙すみたいな形になっちゃって・・・」
魔法少女ナナメの正体が自分であることをずっと隠してきたこと。
黒田龍之介に急にバラされることになり、あまり良くない形で知らせることとなってしまったが、あくまで自分で説明しなくては誠実ではないと思われたのだ。
「いいんだ・・・七芽も、あの博士に嫌なことも無理矢理やらされていたんだろう?大変だったんじゃないか?あの博士のことだからな」
卓斗が優しく笑い返すので祐太郎はほっと胸を撫でおろす。博士に対してはお互い思うところがある同士ではある。しかし。
――白銀卓斗このように笑う男であっただろうか?
祐太郎はほっとして安堵したくてその違和感から目を逸らそうとしていた。
しかし、祐太郎として、ナナメとして、卓斗のそばに居続けたからこそその違和感に気づいてしまった。
彼は、こんな、諦めたような、自嘲的な笑い方をする人間ではなかった。
「ナナメという女の子は、最初からどこにも居なかったんだな・・・」
そして絞り出すようにに卓斗が口にした言葉。
その声を聞いて祐太郎は胸が締め付けられるようで、鼻の奥がツンと痛み、すぐにこみあげた涙を零してしまいそうになった。
(駄目だ!僕が泣くなんて!被害者は先輩なんだから!自分が傷ついたみたいな顔を見せたら駄目だ。先輩に気を使わせたら駄目だ。僕だけが泣いてすっきりなんてしちゃいけないんだ!都合が悪くなれば泣いて誤魔化すようなやつだと思われたくない!)
「すすすみません、お花を摘みに!」
くるりと踵を返し脱兎のごとく駆けだす祐太郎。
走りながら顔はぐちゃぐちゃで、涙はぼろぼろと流れ出していた。自分でもひどくみっともないと思ったが、卓斗の前で泣くのだけは避けられた。
一方卓斗は、祐太郎のただならぬ様子には気づいていたが、何かしてやるような心の余裕を失っていた。
「ナナメちゃんはいたと思うわよ」
一部始終を黙って見ていた真実那が言う。
「?」
「頑張り屋さんで一所懸命、友達想いで泣き虫なうちの自慢の魔法少女ナナメちゃんは確かにいたんだと思うわ。そして、今もそれは変らないわ」
「すみません、俺にはよくわかりません・・・」
卓斗はやはり、真実那の言葉の真意を測るだけの余裕が無くそんな自分に対しても苛立ちを募らせるばかりだった。
「ううぅ・・・ヒック、ぐすっ・・・」
涙を止めよう止めようとしても止まらず、ナナメ祐太郎は走り続ける。
「ふもっふ!」
廊下を曲がったところで急に目の前に現れた大きな毛布に弾かれ、大きく宙を舞い床にたたきつけられそうになったところを大きなモフモフの翼に抱きとめられた。
大きな毛布のようにナナメを包み込んだものは守護獣体の父宏実であった。
「お父さん!ふええ・・・」
モフモフの中で泣きじゃくる祐太郎。父がこんな姿だからこそ涙も見せやすいのかもしれなかった。
父宏実はフカフカの体毛でもって、泣いている魔法少女を黙って静かに受け止めてくれた。
魔法少女姿で泣いている息子に、獣の姿でかける言葉が見つからないだけかもしれなかったが。
少し落ち着いた祐太郎が宏実と一緒に会議室に戻ると、真実那と卓斗がお茶と茶菓子を配膳しているところだった。
「ダンケ、真実那さん」
「おおきにやで~」
「フンッ」
「ありがとう、白銀氏」
「すみません先輩、僕結局手伝いもせずに・・・」
「構わない。それよりも・・・悪かったな」
「先輩は謝らないでくださいっ」
泣き腫らした顔に気づかれたかもしれない。祐太郎の方はまともに卓斗の顔を見ることができなかった。
「丁度良いところに戻って来たよナナメ君!争っている場合では無いということで良い感じにここにいるメンバーで共同戦線を張って世界的危機に立ち向かうことに丸く収まったよ!まあ私が収めたと言っても過言ではないけどね!」
祐太郎と卓斗の気まずさを知ってか知らずかいつものテンションの高い武者小路博士が話し出す。
「それは良かったです!じゃあこの場はもう僕たち一家がこんな格好してなくてもいいんですよね。
僕の身体はなるべく早く元に戻してほしいなあなんて・・・」
「祐太郎君!言いにくいことなんだが戻れないんだよ、男の子にね!壊れてしまったからね!僕の可愛いジェネティック・トランス・システムがね!黒田君のヨグ・スオートス型が落ちたのが装置の真上だったからね!」
「え・・・」
凍り付くナナメ祐太郎。
「えええええええ!?」
(そうだった・・・あの目玉の塊が屋根を突き破って現れたのはジェネティック・トランス・システムの場所だった・・・なんで今まで気づかなかったんだろう)
「黒田君!君の魔法で直せないの!?」
「言っただろう、吾輩が傑作と自分で思えるような内容でなくては事象改変は発動しない。つまり都合のいいだけの世界にはできかねるんだ・・・そう便利で万能というわけではないんだ。吾輩の『ネクロダミコン』もな」
「勿論!装置を再構築して責任をもって祐太郎君の身体は元に戻させていただくよ!だけどね!大穴に対処するための魔法少女ナナメの理外魔法の構築が最優先だからね!これが完成しないと確実に地球が滅ぶからね!重ね重ね申し訳ないがジェネティック・トランス・システムの方は後回しになってしまうよ!このまま直撃すれば文明が後退するほどの大災害になることは必至!この世界の終わりをもたらすほどの次元大穴・・・『ワールドエンズホール』いや、『ワールドエンズ・デカダンスホール』とでも呼ぼうか!」
「かっこええな!」
「ワールドエンズ・デカダンスホール・・・長ったらしいから『クソデカホール』じゃあダメか?」
龍之介が横槍を入れる。
「世界の危機だからね!それなりの格式と深刻さと品格のある名前であって欲しいと思うよ!」
「チッ・・・」
「そこ安易に事象改変魔法使おうとしてるでしょ!だったら僕の身体戻してよお!
皆穴の名前より僕の身体のことを考えてよお!」
ネクロダミコンを取り出そうとする龍之介に食って掛かる祐太郎。に戻れないナナメ。
「ななめ、なんか臭くないかい瀬戸内海?」
「誰のせいだよおおおお!」
地球の未来は君の手に。
頑張れ、魔法少女ナナメ!




