エルフさんでした
翌日、俺が連れてこられたのは山奥の小さな小屋。
馬車では通れないほどの獣道をすいすいと進んでいく父上に驚愕しつつも俺もなんとかついていく。
・・・3才の子供が本来行ける道ではないが、ここで体術やら剣術で鍛えた体力が役にたってギリギリ離れないようについていく。やっぱり何事にも体力って重要なんだなと思いつつも、こんな山奥に住むこの国で一番の魔法使いってどんな人なのか俄然興味がでてきた。
そうしてついた場所は人どころか生き物の気配が不自然なくらいない不思議な場所。
父上は俺が後ろからついてきたのを確認すると二度ほど小屋の扉をノックして声をかけた。
「マナ。私だ」
トントンと父上はもう一度ノックをするが・・・まったく小屋から反応はない。
父上はその反応が想定通りだといわんばかりにため息をついてから小屋の扉をあけた。
鍵がかかっていないのか簡単に開く扉・・・こんな不用心で大丈夫なのか?と、思いつつも手招きする父上について小屋の中に入る。
真っ暗な部屋の中は外見よりも広く感じるが・・・様々な本や瓶に入った不思議な液体などが散乱していてーーーいかにも魔女の工房といわんばかりの内装に若干感動しつつ俺は父上に聞いてみた。
「ここなんですか?」
「ああ。多分そのあたりに・・・」
そう言われてざっと辺りを見回してみて・・・・ある一点でぴたりと俺は視線を止めた。
散乱している物のなかで毛布にくるまった謎の物体・・・というかおそらく人が丸まってると思われるそれを指差して俺は父上に聞いてみた。
「・・・あれですか?」
「・・・そうだ」
ため息をついて父上はその毛布に声をかけると、毛布はもぞもぞと動いてーーー俺は思わずフリーズしてしまう。
毛布から出てきたのは真っ白な肌と鮮やかな金髪碧眼の美少女だが、それ以上に気になったのは彼女のその耳だ。
普通の耳とは違う所謂エルフ耳と呼ばれるそれを見るからに彼女が人間ではないことは一目でわかった。
エルフーーーファンタジーなんかでは定番の種族だが、この世界にも所謂、他種族と呼ばれる存在がいることは知識としては知っていた。
しかしその圧倒的な美しさを目の当たりにすると思わずフリーズしてしまうことは仕方ないだろう。
そんなことを考えていると彼女はぽけーと寝ぼけたように目をこすりながら父上見て首を傾げた。
「ふぁー・・・・ライル?・・・何か用?」
「ああ。前に話しただろ?私の息子が魔法を使えると。それで君にうちの息子に魔法を教えて欲しいのだが・・・」
そう言って手招きする父上に近づいて俺は頭を下げた。
「レオンです。こんにちは」
「・・・うん。マナです。よろしく」
眠たげに目を擦っていた彼女は俺の方をしげしげと眺めてから興味深そうに呟いた。
「・・・なるほど。精霊から凄く愛されてるね」
「そんなこと分かるんですか?」
「私はエルフだもん。それくらい見ればわかるよ」
エルフスゲーと思っていると彼女ーーーマナは父上の方をみて聞いた。
「それで・・・この子に魔法を教えればいいの?」
「ああ。基礎的なものは教師に習ってるが・・・君から見て教えられそうなことは全て教えてあげてほしい。レオンには週に4日ほどはここに通ってもらう予定だから頼む」
「うーん・・・確かに面白そうな子だね。男の子なのにこんなに精霊に愛されてるなんて・・・わかった。ただし助手として色々手伝ってもらうけど問題ないね?」
確認するように俺に視線を向けてくるマナに俺は頷いて答えた。
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあ、早速やろうか・・・ライルはどうする?」
「今日は帰り道を教えるからしばらく待たせてもらうよ」
「わかった。じゃあ・・・始めようかレオン」
こうして、俺はこの日からエルフに魔法を習うことになったのだった。