時間の重さ
「おはようございます父上、義母上、姉様」
食堂についてから俺は先に食べていた父上と義母上と姉様に挨拶をする。
ご飯の時間をなるべく合わせる・・・俺がそうお願いしたからこそのこの空間が出来ているが、前は皆時間がバラバラで厨房の人間も大変な思いをしていたようで、これにはかなり感謝された。
まあ、仲良くなるための一歩としての試みだったが・・・定例化すれば意外とすんなりいくものだと思った。
「おはようレオン」
父上が相変わらず渋い声でそう挨拶をくれる。
「あら?おはようレオン!」
姉様はこのなかでは一番元気に挨拶をしてくれるが・・・見た目も一年でぐっと大人っぽくなったように思う。
そして一番大きな変化があるのが・・・
「おはようございます。レオン」
そう挨拶をしてくれる義母上・・・だが、その見た目はここ最近になって激変していた。体型が変わったとかではなくーーー
「ふふ・・・お腹の中の妹もあなたにおはようて挨拶したわよ」
そうーーー新しく出来た家族、俺の妹を現在義母上は妊娠しているのだ。
確かに二人がイチャイチャなのは知っていたがここまでとは思わず妊娠報告で唖然としたのを今でも思い出しますよ。ええ。
皆に挨拶をしてから俺は食事の席につく。
テーブルマナーなんかも最初は面倒だと思っていたが・・・慣れるとかなり楽に感じるし、何より音をたてずに食器を動かすという人間場馴れした芸当ができるようになったのも大きな戦果だ。
「そうだレオン」
そうして食事をしていると珍しく父上が話しかけてきた。
食事中に話しかけられることはあまりないので珍しく思いつつも俺は一度手を止めて父上を見た。
「なんでしょう?」
「明日・・・お前を国王陛下に謁見させることになった」
・・・・・思わずフォークを落としそうになるがなんとか平静を保つ。
「えっと・・・それはどのような御用件で・・・?」
「いや・・・前からお前に興味があると陛下が言っていたのだがな・・・社交界デビューの日に言われなかったか?お前といずれ話したいと」
「確かにそんなことを仰っていたような気はしますが・・・」
てっきり社交辞令だと思っていた。
しかし俺の一体何に興味を持ったのか・・・待てよ。
「それは・・・俺の魔法についてのことですか?それとも去年のあの事件についてですか?」
前者ならなんとなくわかるが・・・後者の去年の事件はアリスとリリアを拾った時のこと・・・いずれ詳しい話をすると言ってかなり延期されていたことだ。
とはいえ今さらそんな前のことを蒸し返すとは思えないし・・・そんな俺の思考を読んだかのように父上は頷いて答えた。
「一番は前者だろう。後者も聞かれるかもしれないが・・・まあ、公にはあれは国で収めた事件になってるからな」
若干5才の子供が大勢の違法な奴隷にされている人を救ったーーーそんな英雄様になりたくなかった俺は父上とマナ師匠にお願いして、公には国がその企みに気づいて未然に防いだ・・・ということにしてもらっている。あの場で助けた人にもこの事を黙っていてもらってるし、俺は公にはなにも関係ないことになっているはずだ。
まあ・・・アリスとリリアはそのことに関しては少し不満そうにしていたが・・・もっと俺が称えられてもいいとか言われた時はどうしたものかと思ったよ。
二人は俺に助けられたことをかなり恩義を抱いているのか過剰なほどの主従愛を示してくれるが・・・それに慣れはじめている自分に思わず苦笑してしまう。
特に、最近のアリスはセリカの教育の影響なのか・・・凄く仕草や行動がセリカに似てきたというか、言うこともだんだん似てきたように思える。
とはいえ、完全にセリカそのままではなく、アリスはアリスのままセリカっぽくなったというか・・・メイドとしてしっかりしてきたと言えばいいのだろうか?
リリアはその辺りは出会ってからあまり変わっていないが・・・それでも1年も一緒にいればそこそこ相手の考えも読めるようになったわけで・・・まあ、主従愛なんだろうと俺は思っている。
無いとは思うが・・・もし二人が俺に男女の好意を抱いているなら俺も答えることはできるだろうけど、自分からアタックはできない。
まあ、結局、俺も肝心なところではチキンになるので父上の血も引いているのだろうと思う。
と、そんなことを考えてから俺は父上に頷いて返事をした。
「わかりました。準備しておきます」
どのみち拒否権はないだろうから俺は大人しくそう返事をする。
「そうか・・・では明日頼んだぞ」
「お父様。私は?」
姉様が父上にそう聞くが・・・父上はそれに苦笑して首を横にふった。
「同伴が許されているのは私だけだからな。明日は留守番してなさい」
「んー・・・わかった。レオン頑張ってね!」
そう言ってあっさり引き下がってくれる姉様。
以前の姉様ならここで駄々をこねてそうなものだが・・・多分この一年で精神的に一番成長してるのはキャロル姉様かもしれないなと思いながら俺も頷いて返した。




