常識にとらわれないこと
「魔法は女しか使えないーーーというのがこの世の共通認識なんだけど、これは大きな勘違いなの。魔法の源である魔力・・・これを与えてくれる精霊から恩恵を与えられやすいのが女ってだけで、理論的には男でも魔法を使うことができるはずなの」
マナに魔法を教わるようになってしばらくたつが、色んなことがわかるようになった。
基礎的な魔法の座学からはじまり、マナから語られる魔法についての理論は色々あってどれもおもしろい。
そんな中で、マナが一番重要だと言っていたのは「常識に縛られるな」ということらしい。
「魔法は女しか使えない・・・そんな風に皆が思っているうちはそうとしかならかいの。精霊との親和性が高い女の方が確かに魔力の恩恵を受けやすいけど、君みたいに例外的に魔力の恩恵を貰える人もいるのだから、一番大事なのは常識にとらわれないことなの」
マナいわく、思い込みというのはその物事の側面しか見てないことらしい。物事を多面的に見ることが、魔法を覚える飢えでは重要らしい。
「魔法には詠唱が不可欠・・・これもこの世の常識になってるけど、本来魔法に詠唱なんて必要ないのよ。魔法を使うのに必要なのは魔法のイメージがいかにしっかりしてるかということ。詠唱というのはイメージを具体的に纏めるためのパーツの一分でしかないの」
発動する魔法のイメージがいかにしっかりしているかで魔法の強度は変わるらしい。詠唱はそのイメージの組み立ての補助的なもので、イメージさえあればどんな魔法でも使えるというのがマナの意見だ。
「まあ、もちろん、与えられる精霊の恩恵によっては無理な魔法もあるかもしれないけど・・・でも、それでもこれを知ってるのと知らないのでは魔法の威力も効果も桁外れに違ってくる。まあ、とはいえ私のこの意見はなかなか理解されないのだけどね」
マナが言うには自分はエルフという種族特性的に魔法が使えると思われているからなかなかこの理論を信じてくれる人がいないのだという。
マナいわく、常識にとらわれないことが魔法という力を最大限発揮させるそうだ。
「あなたは何故かはわからないけど物凄く精霊に愛されてる。だから私の理論の意味もわかると思うけど、とにかく何事も多面的に見ることにしなさい。それが時にはあなたを助けることに繋がるから」
そう言って微笑んだマナはどこか寂しげな表情だった。
マナから魔法を教わることになって1ヶ月がたった・・・最初は大変だった山道の往復もここ最近ではかなり楽に感じるようになってきた。その成果なのか、平行して剣術や体術のレベルも格段に上がってきて、これには剣の師匠もかなり驚いていた。
そして、魔法の方はといえば・・・
「よし、じゃあやってみようか」
「はい」
マナ師匠のその言葉に頷いて俺は机の上にいる怪我をしている兎に手をかざすーーーイメージするのは傷が癒えるイメージ・・・そうして魔法を発動させるとーーー
「きゅう!」
「で、出来た・・・」
机の上には俺の回復魔法で癒えた兎。
俺は隣にいるマナに視線を向けるとマナは満足げに頷いていた。
「上出来だよ。回復魔法はもうマスターできたかな?」
「はい。お陰様で・・・」
そう・・・こんなに早くマスターできるとは思わなかったが、マナ師匠の言うとおり、常識に縛りないで試行錯誤した結果ーーー俺は命を削ることなく回復魔法を発動できるようになった。
だが・・・
「人間にやるときも同じような要領でやれば大丈夫だから。ただ・・・病とかならこれで大丈夫だろうけど、寿命的なもの・・・遺伝的なものに関してはやっぱりこの方法では足りないね」
「そうですか・・・」
そう・・・回復魔法を覚えたとはいえ、普通の怪我や病に使えるだけのものでーーーセリカの延命に使える魔法にはまだ程遠い。
「とはいえ、私の知ってる方法ではこれが限界なだけだから。あなたはあなたなりに工夫すれば出来るようになると思うよ」
「はい・・・ありがとうございます」
とはいえ、あまり猶予はない。
俺は焦るなと励ましてくれるマナ師匠にお礼を言いながらもどうしたものかと考え込んでいた。
もっと頑張ろう・・・そんな気持ちと焦りを覚えながらも前に進むしか選択肢はないと確信していた。