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逍遥恋歌  作者: あんかけ
5/6

5.

机の上の可愛らしい便箋を見つめ、腕組みをしながらううむと唸る。ただの紙切れと言ってしまえばそれまで、そこに綴られた言葉への対処に僕はひどく悩まされている。


発端は先輩のいらぬお節介。グラウンドの整備を終えて着替えている最中、遥ーと呼ばれたかと思えば鞄にかわいらしい便箋を押し込まれた。

「先輩、なんですかこれ。趣味悪いですよ」

「俺からなわけねぇだろ、かわいい後輩ちゃんからの届け物だよ。いやー罪な男だねぇ。俺にも分けてくれよまじで、なぁにがダメなんだろうなー……」

言いたい事は分からなくもないが、そういうところがダメなんじゃないかと心の中で突っ込みを入れたーー


そんなこんなで今、机の前で唸り声をあげているわけだ。好意を向けられる経験がないわけではない、けれどこう"ラブレター"という形で受け取るのは初めてだ。

返事なぁ、やっぱり直接がいいだろうな。せめてクラスと名前がしっかり書いてくれてればいいが、と手を伸ばしたタイミングでコンコンとノックの音。僕の部屋に入る時ノックをするのはユウだけだ。

「ちょっと着替えてるー!」

僕のしようもない嘘などお見通しなのか彼女は何食わぬ顔で部屋に立ち入る。

「ダウト。やっぱり着替えてないじゃない。これケーキ、新しいの出てたから、……?」

新作らしい手土産を机へ置こうとして机上の便箋に気付き、ぴたりと固まる。

「……後輩の子から?」

「ハイ」なんで知ってるんだ。

「別に隠さなくてもいいじゃない」

「ほら、プライバシーがね」

「ふぅん、そう」実に10秒ほど、じっと僕の目を見つめたあと一時停止が解けるように包みを机に置いたフォークとってくる、と部屋を出た。いたたまれない気持ちになりそそくさと便箋を再び鞄へと仕舞う。


夕食時、にやにやとこちらを見る母さんを見て軽くため息。ユウが話したらしい。ユウの両親とは学生時代からの付き合いだという母さんはどうやらユウとも波長が合うようで、大きくなってからは益々年の離れた友人のように見える。

「遥がねぇ、ふーん」

「何、父さんそれ聞きたい」

「今日ねぇ……んふふ」

自分をダシにしてじゃれあう両親の姿を見て今度は少し大きめのため息をついた。


昼休み、用を済ませた僕は少し遅れてユウの待つ図書室へ。定位置に着いたところで彼女が本から顔を上げる。

「お疲れ様、お帰り」

「ありがと、ただいま」

いつもの何気無いやりとりでやっと人心地着いたように思える。

「それで、どうだった?」

箸を弄びながら控えめにと尋ねる彼女に笑って答える「ファンですこれからも応援してます!だってさ」

「ファン?」

「そう。憧れとかそういう話、ああいう子もいるんだね」

「ふぅん……?」小首を傾げしばらく考えた後、そういう事ね、と呟きながら箸を持ち直してお弁当に手を付け始める。

「ところで今日さーー」


放課後、今日は部活が休みだというハルと帰る事にした私は先に図書室へ期限の迫った本を返却しに行く。司書さんの世間話に捕まってしまい遅れて教室へ向かうと窓際の席で1人こくりこくりと舟を漕ぐハルを見つけた。人がいないとはいえ他所の教室に立ち入るのは少し変な気分だな、とそろり彼の元へ向かう。

涼しくなってくるこれからの時期は特等席だろう。ひらめくカーテンの隙間から入る陽射しをくすぐったそうにする彼を見て、くすりと笑みを1つ零し「不器用な人」と呟いた。

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