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逍遥恋歌  作者: あんかけ
4/6

4.

休憩時間中、次の授業の支度をしながら少し涼しくなってきたかなと窓側へ顔を向けると偶然目のあった級友が「あ、そうだ」と何か思い出すしたようにこちらへやってきた。

「ゆっちゃん、今日放課後空いてる?」

「うん、大丈夫。いつもの?」

「そー!それじゃ帰りにー!」

うんうん、と人好きのする満足そうな笑顔を残して彼女は軽やかというよりはふわふわという表現が似合う足取りで席へ戻る。

友理との付き合いはもう8年、深く付き合う友人の少ない私にとってはハルほどではないが幼馴染である親友と呼べる存在なんだと思う。


”いつもの”とは定期的に開かれる二人きりの女子会みたいなものだ。

学校前の大きな坂を下り踏切手前の電柱が立っている角を曲がると小さなウェルカムボードに迎えられる、その少し先がお目当てのカフェ。

こじんまりとしたお店だが経営している夫婦の人柄と純喫茶を今風にアレンジした店作りが評判になり地元の人たちの出入りは多い。

目玉は元パティシエだという奥さんの手作りケーキで

手土産にテイクアウトされる様子もよく見かける。ハルもうちに来る時はよく持ち込むものだからすっかり私の舌もファンになってしまったというわけで。


「それで今日のテーマは?」

頼んでいた季節のケーキ――桃と桃のピューレで着飾られたレアチーズケーキ――と紅茶のセットが届いたところでそう切り出した。

かき氷はどの味が一番かなんて事から気になる人ができたという女子会らしいテーマまで。会話無精というか、日常的に雑談みたいな事をしない私にとっては一番口を動かすに時間になっている。

「むー、うちらも2年生になって後輩もできたわけですがー」

「えぇ」

「今!はるっちが1年生から!モテている!」

「えぇ、……そう」

「モテている!」

「聞こえてるわ、ハルがね」

「おたくのはるっちがですよ!」

「べつにうちのじゃないけれど」

「そこはーちょっとぐらい照れが入ってもいいと思うんだけどなー」

ストローを咥えたまま頬を膨らましアイスティーをぶくぶくとさせ不服ですよとアピールされる。

そもそも誰かの所有物ではないしうちの家族というわけでもない。掛け替えのない幼馴染、それだけなのだから。

「そもそも誰から聞いた話なの?」

「んーとね、部活の後輩!夏の大会うちの生徒応援多かったもんねー」

ハルは中学から陸上部に入っているのだが、ここ2年背の伸びに比例するように記録も伸びているらしい。先日の大会のレギュラーに選ばれたものその成果だ。短距離を専攻し大会では100m競技で他の選手から体1つ以上空ける形で1位をもぎとった。

壇上から私をちろりと見遣りとろけるような笑みでメダルをひらひらとさせた彼は記憶に新しい。

「同学年ならともかく先輩後輩はゆっちゃんの存在を知らないわけだし。しばらくは騒がしいんじゃないかなー」上目遣いでいいの?と問われる。

「ハルが困ったりしてるなら何かしようはあるけど今は何もないわけだし」

「もーゆっちゃんクール。ま、今に始まった事でもないもんねぇ。……それに比べてはるっちときたら、うくくく」何がツボに入ったのか頬を抑え乙女らしくない笑い声を上げる友里を放って紅茶を口につける。

少し冷めて強調されたミルクの甘さがじとりと舌に残った。

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