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7話 別れと作戦の実行

 辺りは明るくなり、心なしか空気が澄んでいて新鮮な感じがする。

 四人は睡眠を十分にとることができたが、完全に疲れを癒やすことはできなかった。

 やはり、命を危険にさらされるのは、かなりのストレスを与えるのだろう。

 寝起きの乾いた喉を潤おすために四人は貴重な水を消費していく。


「あっ、更新されてる」


 スマホを見ていたケンタが、新しい動画を四人で見ようと画面を拡大させる。

 死者を解体していた男の動画だ。

 ケイだけは、前回の衝撃的な映像が忘れられないようで見ようとしない。


『はーい、どうもー』


 陽気な狂気の男が映る。

 今回は感染についてのようだ。

 前回とは違い、実演なしの口頭だけでの説明であった。

 感染するのは人間のみであり、動物は感染しないらしく、しかも、基本的には襲われないらしい。

 感染の経路に関しては、噛まれた場合と、口や傷口から死者の血液などを一定量取り込んだ場合に発症するとのことだ。

 これだけの情報をどうやって手に入れたのか、この動画を見た誰もが思ったはずだ。

 けれど、真相を求めないことが暗黙の了解となっている。

 それだけ、この男のもたらす情報が貴重というわけだ。

 動画が終わるとケンタがスマホをしまう。

 ケイにはジュンが内容を教えている。

 情報を整理しながら四人は、消費期限が昨日の日付けのおにぎりで朝食を済ませ、今日をどう行動するかを話し合った。



☆★☆★☆★☆



「よし、やるか」


 ケンタが息を吐きつつ、自身の心に気合を入れる。

 話し合った結果、校内の死者たちを殲滅していくことになった。

 高校を拠点にするつもりのようだ。

 金網などで校内が囲われているのはもちろん、その半分はさらに水路が堀のような役割を果たしており、外部から守るのには非常に適している。

 ケンタの役割は、死者たちを屋上へ引きつけることだ。

 他の三人は塔屋の上におり、ケンタを引き上げるのが役目である。

 ケンタは扉付近に何かいないかを確認しつつ、慎重に扉を開けていく。

 近くには何もいない。

 昨日の生者のものらしき肉片と血があるだけだ。

 目を閉じて、今度は深呼吸をすると決心したように目を開く。


「かかってこいやぁぁぁ! 低能の化物どもがぁ!」


 ケンタが声を張りながら、より引きつけるためにバットで扉を叩く。

 校舎内が騒がしくなると、ケンタは扉を開けたまま離れて、縄に掴まり、三人が塔屋の上へと引き上げる。

 作戦通りに死者たちが屋上に集まってくる。

 体育館で見覚えのある者がいたのか、ケイが呆然とした顔をしている。

 そのケイが、いきなりその場に泣き崩れる。


「そんなっ……嫌っ…………。嫌ぁ! マリぃ!」


 集まってくる死者の群れの中に、変わり果てたマリの姿があった。

 どんな最後だったのだろうか……。

 腹から内臓が出て、頬は食い千切られ、腕の骨は複雑に折られており、衣服にはおびただしい量の血がこびり付いている。

 とても醜い姿だ。

 生前の姿を知っているだけにケイ以外の三人も心が苦しくなる。

 ケイが危なげに身をのりだそうとするのを三人が止める。


「あれはもうマリじゃない! やめろ! 下がってろ!」


 ケンタが我を忘れているケイに怒鳴って、安全な後方へと突き飛ばす。

 マリであった者は、他の死者たちと同じように、マサキたち四人を襲おうと上に手を伸ばしている。

 塔屋の付近にいる死者が体勢を崩して倒れると、別の死者がそれを踏み台にして少しづつ上にいる四人に迫っていく。


「早くやれ! ジュン!」

「まかせろ」


 ケンタが話し合った作戦を実行するように、ジュンへ言う。

 ジュンは返事をすると、マッチで教科書に火をつけて死者の溜まっている下へ落とした。

 さらに速く燃えるように、ジュンは火をつけた本を次々に放り込んでいく。

 マリであった者も火の中へと飲まれていく。


「なかなか死なないな……」

「たぶん、脳まで焼かれないと死なないんだろう」


 全身を燃やしながら、なかなか倒れない死者にマサキが率直な感想を言う。

 それに対し、ジュンが推測して答える。

 燃える死者の群れから、煙や焼ける臭いが出ており、それが四人の方へと流れてくる。

 とても息苦しく、そして熱い。

 苦しみながら、時折、顔を覗かせてくる死者の顔をバットで叩き飛ばす。

 しばらく耐えていると、人の焼けたきつい臭いはまだ辺りに残っているが、煙はなくなった。

 四人が屋上を見下ろすと、黒焦げになった死体がいくつも転がっている。

 もう、どれがマリであったのかを判断するのも難しい。

 ケイは、また、すすり泣く。

 塔屋にケイを残し、マサキたち三人は屋上へと降り、槍で黒焦げになった死体の首を刺していく。

 まだ動く者はいない。

 およそ百体ほどの死者を殺すことができた。

 避難してきた人は三百人ぐらいであったはずだ。

 そのうち、百人が校外へ逃げ出したとすれば、もう百体ほど殺せば安全を確保できる。

 ケイも落ち着いてきたようで下に降りてくる。


「さて、残ったゾンビはどうする? まだ、たくさんいるぞ」

「もう一度燃やそう。今度はこれを使ってな」


 マサキの言葉に、ジュンが火炎瓶を見せながら提案する。

 ケンタもこの作戦に賛成のようだ。

 先に焼けた死体を下へ放り捨てていき、屍の山を撤去する。

 上に登って来られる心配を排除し、作戦を再開した。

 何回も死者を焼き殺し、死者の数を残り三十体程度に減らすことができた。

 辺りは、晴れていた天気の天候が悪くなり、今にも雨が降りそうになっている。

 雨に濡れて荷物を駄目にしたり、体調を崩したりするわけにはいかない。


「移動するか」


 ケンタの言葉に一同は頷くと屋上を離れ、一階下の四階の教室へと移る。

 教室に入ると、奇襲を防ぐために、扉付近に机や椅子を置くだけの簡単なバリケードを作る。

 紐などで補強していないため、本当に奇襲を防ぐためだけの頼りないバリケードだ。

 そこで、四人はようやく気を緩める。

 しかし、口数は少ない。

 やはり、マリのことが応えたようだ。

 昼食を摂ると、思い思いに休む。

 休んでいると、教室の扉が開かれる。

 そこには、男の死者が立っており、四人の姿を見据えている。


「ガアアアアァァ!」


 男の死者は獣のような声をあげると、バリケードを蹴散らして突っ込んでくる。

 走る死者だ。

 ケンタはバットを構えると、死者の頭を陥没させようと振り下ろす。

 けれど、ケンタの攻撃は死者の腕の骨を折るだけに終わる。

 死者に防御されたのだ。

 死者は無事な方の腕でケンタを突き倒す。

 勢いのまま、死者が噛みつこうと倒れかかってくるが、ケンタはバットで死者との間に壁を作り、耐える。

 ケイがケンタの近くにいるが、槍を持ちながら体を硬直させている。

 ケンタは未だに耐えているが、バットが死者に殴られてひしゃげていく。

 そう長くは持たないだろう。


「ケンタから離れろ!」


 マサキがバットで死者の頭を強かに打ち付ける。

 しかし、殴り飛ばすだけに終わり、殺せていない。

 だが、マサキから一歩遅れたジュンが槍で死者の首を貫く。

 走る死者を殺すことができ、誰一人欠けなかったことに安堵する。


「ん? うまく抜けないな……」


 首を貫いた槍をジュンが引き抜こうと引っ張ると、首の肉が引っかかって死体までついてくる。

 ジュンは死体の胸を足で押さえると強引に引き抜く。

 槍の穂には死体の血とともに肉片がくっついた。


「お前、一体、何のつもりだ? ケンタを見殺しにする気だったのか?」


 マサキがケイを睨みながら、怒気の孕んだ声を出す。

 ケンタも、もう少しで命を失うところであったため、睨んでいる。

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