表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

6話 長い一日の終わり

5話まででPV1000を越えました。

楽しんでもらえてるでしょうか……?

 マサキたち三人は悲鳴の原因を探ろうと、開けられている二階の窓という限られた視界から必死に中の様子を窺う。

 だが、限られた視界からでは何が起こっているのかが分からない。

 どうやら、マサキたちにとって死角になっている所で事が起きたようだ。


「なんだよ! 何も分かんねぇじゃねえか!」


 マサキが焦りを含んだ声をあげる。

 三人が探っている間にも新しい悲鳴があがり続けている。

 体育館の中は混乱状態に陥っているようだ。

 そこで、マリのよく通る声が聞こえる。


「なんで開かないの!? 鍵はかかってないのに! なんでよぉ!」


 マリが体育館の扉を開けようとしているらしい。

 状況からして外に逃げ出そうとしているのだろう。

 しかし、扉が開かないのは無理もない。

 大の大人、それも男が重そうに開けていたほどだ。

 非力な高校女子が開けるには酷なことだろう。

 扉を開ける人がマリから別の人へと変わったのか、扉が少しづつ開いていく。


「見えた! 人が人を襲ってる……、いや、ゾンビが人を襲ってる。噛まれてた奴だ。しかも、走ってやがる!」


 ケンタが中の状況を告げる。

 ジュンにも見えたのだろう。

 走る死者を見て、体を硬直させている。

 しかし、ジュンは何か考えている顔をしている。

 どう対処するか思案しているようだ。

 マサキが二人の様子を確認している間に、体育館の扉が開いたようで、中にいた人たちが飛び出していく。

 マサキはその動きを見ると、突然、走り出す。

 ケンタとジュンは、マサキの急な行動に思わず身構える。

 マサキは屋上の扉まで移動すると鍵を閉めて戻ってくる。


「驚かすなよ……」

「ごめん」


 ケンタが文句を言う。

 マサキは二人に気を張らせたことを素直に謝る。

 外へ飛び出した人は四方八方に散って逃げている。

 広い運動場に行った人や校門を乗り越えて外に出た人、校舎内に入ってきた人がいた。

 マサキは、その人たちが屋上に入ってくるのを阻止したかったようだ。

 死者が入ってくる可能性、そして、感染者が入ってくる可能性があるためだ。

 パッと見で、走る死者は二体ほどで、それ以外は歩く死者である。


「パンデミックの始まりか……」


 マサキが目の前の惨状を見て呟く。

 ふと、閉じた校門へ視線を送ると、そこまで逃げてきた老人が筋力不足のために乗り越えられず、死者に追いつかれて襲われている。

 その光景を見て、マサキはやるせない気持ちになるが後悔はしていない。

 これ以上の校内の死者の増加を防ぐためだったからだ。

 すると、何者かが屋上の扉を叩く。


「ケンタ君たちいる!? 今、大変なことになってるの!」


 扉を叩いたのはケイだったようだ。

 声質から焦っているのが伝わり、余裕のない様子が分かる。

 その有様でありながら、この緊急事態で屋上にいるであろう三人を助けようと行動したケイは優しい性格であることを理解できる。

 マサキがケンタとジュンの二人を見ると、二人は頷く。

 どうするかはマサキに任せるらしい。

 マサキは扉の前に立つ。


「いるよ。……一人か?」

「そうだよ!」


 マサキは答えて、所在を明らかにする。

 気持ちが興奮しているせいか、ケイの声は大きい。


「ケガしてたりする?」

「特にしてないけど……」


 軽い問答の後、マサキが扉を開ける。

 しかし、完全には開かず、少しだけ開いて、ケイのいる校舎内側を覗く。

 ケイはそんな行為をするマサキにきょとんとしている。

 ケイ一人であることを確認すると扉を完全に開く。


「入って」


 マサキが屋上に入るよう促す。

 ケイは促されるままに屋上へと入った。

 ケイが入ると、マサキはまた扉を閉めて鍵をかける。

 ケイは三人が武器を持っていることに驚く。


「おい、マリはどうしたんだ?」


 ケンタがケイが一人であることを不思議に思い、問いかける。


「わかんない。逃げるのに必死になってたから……」


 ケイは首を横に振りながら答える。


「おい、体育館で何があった?」


 マサキが聞く。


「怪我をしていた人たちが他の人を襲い始めたの。それまでは苦しそうにしてたのに……」


 ケイが起こった時のことを思い出したのか、体を震わせる。


「おい、本当に噛まれたりしてないだろうな?」


 今度はジュンが質問する。


「……噛まれてないよ。もう、おいとか言ったり、質問攻めにするのやめて! そんなことよりも早く逃げないと!」


 耐えきれなくなったケイが声をあげる。

 そして、三人に早く逃げるように促す。


「逃げるってどこに? 言っとくが校外の方が危険だぞ? ここにいた方が安全だ。それにあいつらは、人間じゃなくて化物だ。ただの異常者じゃない」


 ジュンが警告する。 

 ケイはジュンの言葉に顔をしかめた。

 ジュンの言葉を理解できていないようだ。

 ジュンはケイに動画やニュースを見せて、一から説明していく。


「そんな……」


 事態を理解すると、ケイの顔が青くなる。

 動画を見せた時はひどかった。

 動画の投稿者である男が死者の胸を切り裂き、肋骨を開いて肺を押しのけ、心臓を取り出した時には吐きそうにしていた。

 そんなケイへマサキは、自分でしっかり守れと槍を渡す。

 ケイは疲れ切っているようで今にも倒れそうだ。


「マリ、無事でいて……」


 ケイはここにいない友人の安否を気遣う。

 校内では悲鳴があがり続けている。

 日が落ち始め、辺りが暗くなり始めた。


「何か動くにしても日の出てる明るい内の方が良いな。今日は休もう」


 ケンタの提案に三人は賛同する。

 完全に暗くなり、外灯がつき始めた時に夕食を摂った。

 ケイは三人の食料を分けてもらった。

 四人は屋上の扉から離れた所で休む。

 途中、死者に追い詰められたらしき生者が屋上の扉にまできた。

 ケイが助けようと扉に近づくのをマサキたち三人が止める。

 近くであがる悲鳴にケイが耳を押さえて泣く。

 暗闇は深くなっていく。

 四人は疲れていたせいか、存外眠ることができた。

 そして、ついに夜が明け、朝日が昇る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ