5話 死神の鎌は既に……
またせた分は字数で謝罪を……。
マサキが屋上に戻ると、既にケンタがいた。
「おう、マサキか」
ケンタが戻ってきたマサキに声をかける。
ケンタは座りながら、何やら作業をしているようだ。
マサキが近づいて手元を覗いてみると、包丁と棒を布ガムテープで固定し、お手製の槍を作っていた。
ちょうど、最初の一本目ができたらしく、ケンタは嬉しそうにマサキにみせびらかす。
棒があと二本残っているところをみると、全部で三本の槍を作るようだ。
マサキとジュンのこともしっかりと考えていてくれたらしい。
しかし、包丁の数には余分がある。
聞いてみると、殺傷力が高くて使えそうだったから多めに持ってきた、とケンタは答えた。
さらに話し合っていると、槍の穂として使う以外に、近づかれた場合に備えて近距離用の武器として相手の首や頭にねじ込むために用意したことが判明した。
なかなかに恐ろしい奴である。
マサキも持ってきた金属バットを広げて、お互いの武器の使い道について話を盛り上げた。
話し終える頃に、ジュンが鍵を指で回しながら戻ってきた。
「遅かったな」
「何、持ってきたんだ?」
マサキが待ちくたびれたように言い、ケンタは持ってきたものを楽しみに言う。
「俺か? 火炎瓶だよ」
ジュンがしたり顔で答える。
「「火炎瓶!?」」
マサキとケンタが同じ言葉を言いながら驚く。
だが、そんなものが学校に置いてあるはずがない。
二人はジュンに実物を見せるように言う。
そして、ジュンがリュックから取り出したものは火炎瓶ではなく、アルコールランプであった。
「いや、これは……」
マサキが否定しようとして、ハッと気づく。
ケンタも気づいたようで顔を見合わせる。
中にアルコールが入っており、容器も割れやすい硝子製。
後は、投げられるように火をつける紐を何かで固定してやれば良いのである。
二人はジュンを尊敬の眼差しで見つめる。
二人が期待通りの反応を見せたのが嬉しいのか、ジュンはウザいほどに得意げな顔をしている。
「よくこんなの気づけたな」
ケンタが感心しながら言う。
「ああ、偶然だよ。こいつのおかげだな」
ジュンはそう答えると、手に持つ理科室の鍵を見せた。
二人と別れた後、ジュンは武器になるものを考え、理科室の鍵を持っていたことを思い出し、薬品を武器にすることを思い付いたそうだ。
最初は、塩酸や青酸カリといったものを手に入れようと思っていたそうだ。
理科室に着いてから、何とは為しに棚を開けていき、火をつけられる手段は多い方が良いだろうとマッチやライターをたくさん詰めていった。
さらに、火力を高める方法としてアルコールを探し、これらのものから理科室という場でアルコールランプを火炎瓶として使うことに思い至ったそうだ。
まさに偶然の結果であった。
「それより、ケンタのことを心配したんだが……。 なるほど、槍か。 その棒って、モップの柄の部分だろ? 掃除用具入れを開けている時は、自在箒を振り回したり、バケツを盾かわりに使うのかと思ったぞ」
「ハハハッ、馬鹿にしすぎだろ。 そうだよ。 モップの柄だよ。 金属で出来てるし、長さもちょうど良いしな。 後は、相手が化物でなければ、中が空洞なのを利用して出血死を狙えるのにな」
ジュンとケンタが言葉を交わす。
相手が化物でなく、人間であるならば、ケンタの武器は脅威的な力を発揮するだろう。
しかし、その相手がまだ人間なのか、化物なのかが分からないのである。
「それと、マサキ。 倉庫の扉を壊すのは、やりすぎじゃないのか? 窓から見えたぞ」
「まあ、確かに冷静に考えてみれば、やりすぎだったな。俺自身、自分で思っている以上に余裕がないのかもしれない。今度からは気を付けるよ」
マサキが答えると、ジュンはそうかと話を切った。
ジュンだけが近距離で異常者と争っていないので、ジュン自身、襲われた者にしか理解できないのだろうと納得した。
それからも、無駄話を交えながら話をし、三人は自分たちの想像した危険が杞憂に終われば良いと願った。
「腹減ったなぁ……」
マサキが空腹を感じ、言葉をこぼす。
既に午後三時頃であり、他の二人も空腹だったようで、ケンタが三本の槍を作り終えた所でコンビニ弁当で昼食をとった。
昼食を終え、腹も膨れたところで、マサキは二人の様子を見る。
ケンタはスマホをいじり、ジュンは寝ている。
一時間ほど経っただろうか。
「そういえば、ニュースはどうなってる? 国家とか行政の動きも気になるんだが」
起きたジュンが周りを見て、スマホをいじっているケンタの方を向き、質問を投げかける。
ケンタが今の現状について調べていると思ったのだろう。
「ん? ニュース? そんなの俺が知るわけないだろう」
ケンタは、何を言ってるんだという顔をする。
「は? じゃあ、お前、何やってんだ? もしかして、ゲームでもやってんのか?」
ジュンは、こんな時にケンタがスマホで長い時間遊んでいたと思い込み、怒り気味に言う。
けれど、ケンタはこれから使えそうなアプリをネットが繋がる間にスマホに落としていたようだ。
ジュンはそれを知るとケンタに謝った。
「俺が自分で調べるわ」
ジュンはそう言うとスマホを取り出し、いじり始めた。
そして、その顔色をみるみるうちに悪くさせていく。
「お、おい……。 どうしたんだよ?」
「どうやら、国は無能どころか優秀すぎたみたいだな」
心配して声をかけたマサキに、ジュンはそう答えると調べた内容を見せた。
起こった地震が大地震であったこともあり、国はすぐに動き、自衛隊から救急に至るまで全てを出動させたらしい。
そこで、錯乱した被災者たちにたくさんの人が傷を負わされたそうだ。
被災者は無傷の人もいれば、致命傷の人もおり、その人たちが錯乱して襲ってきたと書かれていて、他の人も警戒するようにとのことが書かれている。
さらに、地震はこの辺りだけでなく、全国どころか世界各地で起こったと書かれていた。
最新の記事を見ると、錯乱した被災者たちから傷を負った人たちが数時間後に同様に錯乱し、暴れたとなっている。
凄まじい速さでこの症状が拡大し、国が対策を立てられずに、現在、指示系統が麻痺して混乱状態に陥ってしまっているようだ。
しかし、人が錯乱した原因の一端は突きとめたそうだ。
地震の時に地球から未知の物質が噴き出したのが検知されており、おそらくその未知の物質が人体に影響を与えたのだろうと推測されている。
特に高齢者に影響を与えていることから、体の弱った人が影響を受けやすいのだろうと考察されている。
その未知の物質は地震の時に検知されたものの、今は検知されていないらしい。
どうやら、地震の時のみの一時的なものだったのだろう。
けれど、少子高齢化社会である日本に、未知の物質が与えたであろう影響のことを考えると、良かったなどというポジティブな発想はできない。
「マジかよぉ……」
「くそ! 自衛隊や警察の被害が甚大なのが痛手だな」
マサキが落胆し、ジュンが思わず悪態をつく。
「お前ら、これを見てくれ」
アプリは落とし終わったのか、ケンタが動画を見せてくる。
動画には、二人の男と拘束された異常者が何体か映っている。
『どうもー、皆、見てくれてるかなぁー?』
男の一人の陽気な言葉から動画が始まった。
その動画の内容は異常者の殺し方に関するものであった。
脳を損傷したり、首を斬り落としたりすれば死ぬと解説していた。
そして、それ以外では死なないと言い、かなり残虐な行為をするが異常者は動き続けた。
ただ、注意事項で首の骨を折っても個体差で生きていることがあるらしく、そこに気をつけてくれと言っていた。
マサキたち三人は首のことを調べ、頸髄が関係しているのだろうと予測を立てた。
「しっかし、すごい動画だったな」
「もう、異常者じゃなくてゾンビで決まりだな」
「為になる情報だったが……。 こんな奴らがいるのか。 人間にも警戒しないとな」
ケンタが動画の感想を言い、マサキが化物認定し、ジュンがさらなる不安要素を想定する。
三人は荷物と武器を再確認する。
危険の想像が杞憂に終わらなかったことを三人は嘆く。
マサキは体育館の方を見やる。
あの中には、死者だけでなく、噛まれている人もいる。
いつ発症してもおかしくない。
マサキは体育館の中を見ようと移動する。
体育館の入口は閉じられているが、二階の窓が開けられている。
そのため、屋上から体育館の中を少し覗くことができるのだ。
ケンタとジュンも気になるらしく、体育館の中を見ている。
そして、体育館から悲鳴があがった。