9話 走る死者の研究と部室
マサキたち四人は職員室を出た後、三階から一階まで順に調べていき、今は下駄箱に集まっている。
途中、死者と三体ほど出くわしたが、男たち三人が協力して対処したため、事なきを得た。
外を見ると、見える範囲に死者が二体いる。
わざわざ危険を背負って、こちらから向かっていく必要はない。
マサキが手に持つバットで床を軽く叩き、音をたてる。
音を聞いた死者が振り向き、音源へゆっくりと近づいていく。
「釣れた!」
マサキが小声で言い、満足そうに頬を緩める。
死者はマサキたちの姿を捉えると速度を上げるが、マサキたちに焦った様子はない。
引き寄せた死者に落ち着いて槍を構え、弱点を突いて倒した。
「よし、部室に向かおう」
「待った!」
ジュンが部室に向かおうとしたのをケンタが止める。
「外にランナーがいた。そいつを先に殺っちまおう。その方が安心できる」
ケンタは校舎内を探索している時、グラウンドに走る死者がいたのを見たようだ。
他の皆もその意見に賛成する。
「だが、どうやって倒す? あのゾンビの強さはお前が一番よく知ってるだろう?」
ジュンが問う。
「そりゃあ、これを使ってさ」
ケンタが鍵を見せる。
どうやら、車の鍵らしい。
「どの車のものかも分かるのか?」
「もちろん。高橋の車だ。どれかも分かるよ」
マサキの問いにケンタは自身満々に答える。
四人は駐車場へ向かう。
ケンタがすぐに車を見つけ、運転席に乗り込むと皆も乗り込んでいった。
マサキは助手席へ座る。
マサキが座った時にはケンタは既にエンジンをかけていた。
ふと疑問に思ったことを言う。
「お前、運転できるのか?」
「簡単だ。お前だって親の運転を何回も見てきただろ? 問題ない」
ケンタは割と様になった手つきで車を動かし、グラウンドに出た。
☆★☆★☆★☆
グラウンドに出ると、その存在に気づいた死者たちが一斉にこちらへ向かってくる。
十数体はいるだろうか。
その中で、走る死者は突出して迫ってきた。
ケンタにとって、走る死者に襲われた経験は記憶に新しい。
思わず、冷や汗が流れるが自分を鼓舞するように口角を上げるとアクセルを全開にする。
一緒に乗っている皆の悲鳴とともに加速していき、向かってくる走る死者を撥ね飛ばした。
ケンタは後ろを振り返ると声を出す。
「ハッ! ざまあみろクソが! てめぇなんかに喰われるかよ!」
「前! 前ぇえええええ!」
マサキが悲鳴に近い声をあげる。
後方に続いていた死者たちと衝突して減速したことにより、ケンタの操作が間に合い、車を曲がらせることができた。
もう少し遅ければ、学校を囲う金網に突っ込むところであった。
一番危険な走る死者はまだ動いているが、車に轢かれた時に足の骨でも折れたらしく、這いずることしかできないでいる。
ケンタはその姿に落ち着きを取り戻し、残りの死者を淡々と轢いていった。
まだ動いている死者はいるが、二足歩行で動ける死者はいない。
それを確認すると、マサキたち四人は確実に仕留めるために車を降りた。
マサキとジュン、ケンタとケイの二手に別れる。
「ランナーは殺さないでおいてくれ」
「分かった。気をつけろよ」
ジュンの言葉にケンタが返事をする。
二つのグループは死者にトドメをさしていく。
マサキは、ふとケンタたちの方を見る。
ケイがよく怯えていたことを思い出したからだ。
おぼつかない手つきだが、しっかり死者の首を槍で貫いている。
ケンタも補助をしている様子に安心し、マサキは自分の作業に戻った。
「さて、ランナーについて調べるか」
「ああ、だからさっきは殺すなって言ったのか」
ジュンの言葉にマサキは納得する。
頷いていると、ジュンに走る死者の片方の肩を潰すように言われたので、言われた通りにバットで砕く。
砕くとジュンからバットを貸すように言われたので渡した。
すると、ジュンは走る死者に対してバットを振り下ろそうとしたり、振り上げようとしたりして、走る死者の反応を確かめる。
ジュンはその調子で何回か繰り返すと頷き、走る死者にトドメをさしてからバットをマサキへ返す。
「うん。確かに知性はあるみたいだけど恐れるほどじゃない。一番怖いのは速さだな」
ジュンの結論にマサキはへえと言うと、ケンタたちの方を見る。
向こうも既に終わっているようで、こちらに向かってきていた。
合流すると、走る死者についてジュンが説明していく。
説明が終わると、ボロボロになった車で駐車場まで行き、そこから足で部室を目指す。
部室までは問題なく辿り着いた。
ここで、マサキはあることに気づく。
今から女子の部室に入るということだ。
男として女子の部室というのは興味深く、少なからず心臓の鼓動が早くなってしまう。
こんな時に自分ばかり疾しい気持ちになっているのかと、同じ男の二人の方を見る。
同類だった。
二人とも目が泳いでいるし、挙動不審だ。
二人を本当に友達であり、仲間であると思っていると、
「別に期待しているような物は置いてないし、他の部室と変わらないと思うよ?」
ケイが口を開き、三人はビクリと体を跳ねさせた。
三人は気を取り直して集中する。
今、目の前の不安要素といえば、ドアの窓からの視界がカーテンで閉ざされていることだ。
以前は覗き防止のためだったとしても現状では邪魔なだけである。
鍵がかかっているとはいえ、中を確認できないことは恐ろしい。
マサキとケンタの二人がしゃがんでバットを構えて待機する。
ケイが鍵を開け、大きな音をたてないようにゆっくりとドアを開いていく。
緊張のせいか、二人のバットを持つ手に汗が滲む。
ドアが開かれ、カーテンの閉じられていない下から、二人が中を確認し、ほっと息をつく。
「大丈夫。何もいない」
マサキがそう言うとケイは中に入り、アーチェリーを手に入れ、他の人の物であろう矢も貰っていく。
遂にケイ自身の装備が手に入った。
四人は体育館へ向かう。
体育館に着き、中を確認すると、死者が四体しかいない。
惨事の起きた場所であったが、ほとんどの死者が出ていったのだろう。
「ケイ、やってみろよ」
「え……? 私が?」
ケンタがケイに促す。
ケイは戸惑ったが、アーチェリーを構え、集中していく。
「当たるかどうか分からないけど…………っ!」
放たれた矢が飛んでいき、見事に死者の側頭部を貫いた。
「うわああぁ…………すげえ」
マサキとケンタの二人が口を揃えて言う。
頭蓋骨を貫いたことに引きつつも、その威力の高さに感心する。
残りの死者がこちらへ来るが、男三人が慣れた様子で冷静に倒していく。
体育館の倉庫を開け、拘束された死者も始末した。
これで、校内の死者は一通り片付けたことになる。
体育館のドアは入口が歪んで重たいのでケンタが閉め、他のドアを三人が手分けして閉めていき、中から鍵をかけた。
鍵の閉められた部屋ができ、疲れた四人は死者の警戒をせずに安心して眠ることがてきた。




