戦闘準備
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アレックスが敵艦隊の説明を続けている。
俺の悪夢の定番は準備出来てない試験を繰り返し受けるって夢だが、今日からは今の状況に内容変更だ。
エリが太陽系内における各艦隊の配置図と、その他の情報をとりまとめて俺の視覚内に投影する。
==現在の状況は下記のとおり==
<<味方増援艦隊と敵艦隊1番>> 火星公転軌道 周辺
・味方増援艦隊:戦艦3、巡洋戦艦2、重巡10、駆逐艦18
・敵艦隊1番(増援足止め艦隊):巡洋戦艦3、重巡10
追記:間もなく敵主砲の有効射程圏内に入る。
<<敵艦隊2番 >> 金星付近
・敵艦隊2番(地球侵攻艦隊):艦種の構成不明、詳細位置不明
・味方重巡1が付近で索敵中。索敵ドローン射出済み
<<地球防衛艦隊>> 月軌道上
・味方艦隊:重巡2(旗艦アレックスを含む)
追記:迎撃待機中
*その他に味方重巡2隻が哨戒中だが、戦闘エリア範囲外のため今回戦力外。
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『司令官。聞いているのか?
敵艦隊1番は増援艦隊より大型艦の数が少なく戦力が小さいが、足止め目的で特に我が方の戦艦3隻を釘付けにするつもりだと考える。
敵艦隊2番が恐らく敵の本命だ。重巡1隻に命じて詳細を探らせている。間もなく構成が判明するだろう。戦艦の警戒システムのおかげで早めに探知出来たのは助かった。敵の狙いは敵艦隊1番で陽動して、その間にステルス艦隊である艦隊2番で地球を不意打ちするつもりだったと推測する。』
俺は必死になって状況を理解しようとする。
「地球本体の防衛に割けるのは、時間を考慮すれば本艦を含め重巡2~3隻になるのか。戦力足りるかな?」
『防衛に間に合うのは、待機中の本艦を含む重巡2隻だけだ。
残りの重巡は哨戒中で間に合わない。
敵艦隊2番の艦種構成はまだ判明していないが、こちらの戦力は折込済みと推測するのが妥当だろう。当方の戦力は有体に言って足りてないと思う。
増援艦隊のうち巡洋戦艦2隻を前進一杯(非常速度。推進機関の破壊の可能性あり)で地球に急がせる。
戦艦3隻を盾にして援護させれば脱出可能かも知れない。
戦艦自体を地球に呼び寄せるのは、鈍足だし無理だ。高速な巡洋戦艦に期待する。
悔しいが、戦艦の方は足止め目的の敵に付き合わせて、相手をさせるしかない。』
戦艦の火力&防御は圧倒的だが、その代償に速度が遅い。
地球に戦艦3隻が展開出来ていれば今回の敵の侵攻はなかっただろう。少なくともこんなに早くは。
それでも巡洋戦艦2隻が間に合ってくれれば、なんとかなるかもしれない。
サキが話を始める。
『アレックスの船体の大きさなら、私の物理無効、及びエネルギー攻撃無効の領域で船体全体を包める。シールドにかけるエネルギーを主砲にまわして。
それと私の情報攻撃減衰フィールドをアレックスの減衰フィールドと重ねる。』
コストは大丈夫?
『司令官と同乗しているから、コストは制限無く使える。
司令官への直接攻撃に対する防御扱いになるから、コスト使用条件が緩和される。』
じりじりしながら、敵の情報が集まるのを待つ。
一番気になるのが敵主力(敵艦隊2番)の構成と厳密な位置だ。味方の戦艦からは遠すぎて大規模警戒システムでもはっきりわからない。
該当地点に向かっている哨戒中の重巡の報告を待つ。
『増援艦隊と敵艦隊1番が交戦を開始した。味方の巡洋戦艦2隻は離脱を試みて、こちらに向かっている。』
『敵艦隊2の艦種構成が判明。
内訳は、巡洋戦艦3隻(ステルス&高速タイプ)、対惑星砲艦1(対惑星質量弾装備の砲門特化艦艇)』
最悪だ。こっちは重巡2隻なんだ。なんでここまで巡洋戦艦を辺境にぽんぽん投入する? 辺境くんだりに、何故ここまで固執する?
対惑星砲艦の重質量弾は、1つで直径数キロの隕石が落ちたのと同等の被害を地球にもたらす。砲艦が地球への攻撃範囲に来た時点で少なくとも人類はお仕舞だ。
アレックス。味方の巡洋戦艦2隻は間に合いそうか?
『推進機関が焼付かなければ、ぎりぎりというところだ。』
間に合えば味方巡洋戦艦2隻に、敵の巡洋戦艦3隻の相手をしてもらって、アレックス(俺ら)が砲艦をやっつける手筈で良いんだよね?
『妥当だと思う。』
また、じりじりしながら時間がたつのを待つ。艦隊戦は待ち時間で神経をやられる。
巡洋戦艦が間に合わなかった時どうするんだ。俺ら重巡2隻だけで砲艦に突っ込むのか? サキの物理・エネルギー攻撃無効で本艦は敵の通常攻撃は防げるが、情報攻撃は完全には防げない。減衰シールド2枚がけ(アレックス&サキ)でも、20%~30%程度の攻撃は減衰できずにダメージとして蓄積される。相手は巡洋戦艦3隻だ。駄目駄目だ。その場合、地球も守れないし、俺たちも死ぬ。
アレックスに随伴する重巡1隻にいたっては、紙みたいに引き千切られるだろう。
勝つ見込みが無い無益の戦いにサキ達を道連れにしていいのか?
その時は戦線離脱すべきか? 地球を見捨てて俺だけ生き残るのか?少しでも地球の人間を救って一緒に逃げるか。
敵艦隊2番の主砲の有効射程範囲内に入るまで、後1時間程度。
艦隊戦なんて大嫌いだ。
エリがこちらを見てにっこりほほ笑む。しまった考えていることがだだ漏れだ。
『増援間に合いますよ。司令官は運がいいんだから。』
サキが不服げに呟く。
『司令官はもう少し私を信頼してくれていい。』
いやいやいや。信頼とか下心なら沢山持ってますぜ。見る?
アレックスが驚いたように告げる。いや俺の下心に驚いたんじゃない。
『司令官。地球から司令官宛に暗号通信だ。知り合いだと言っている。受けるか?』