相談
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アレックスとサキ&エリ コンビの自己紹介が終わってから、俺は自分の紹介を開始した。
ぐたぐたとその内容をここに記すのは省略する。興味ないだろ? 彼女らに比べればごく普通の(俺はそう信じるが)人間だ。
予想はしていたが、彼女達は俺に関する情報を既に大部分持っていた。まあ当然調査はしているだろう。
自己紹介を終えて、アレックスに、“配備計画の件で相談の時間を取って欲しい”と言われてた事を思い出す。
サキ&エリを通常業務に戻し、席を外してもらう。
サキは“司令官の護衛が私の仕事なんですが何か?”とか言って一緒に居たがったが、こっちにも色々都合があってサキ達がいない間にアレックスに聞きたい事もあったりする。
主に個人的な事で。
いや彼女らに彼氏がいるか、いないか、とかそういう事じゃないからな。
アレックスと話をしながら、いろいろ教えて貰う。
さきほど“相談”とアレックスは言ってたけど、実際は艦隊指揮に必要な前提知識の授業のような感じだった。“教えてやるから時間を取れ” じゃなくて“相談”と言い換えるとこなんか見ると苦労人なんだろうな。
後から分かったけど実際苦労人でした。人扱い的なとこで。
彼の話を簡単にまとめると、現在の我が艦隊の状況は以下のとおり。
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1.増援の艦隊が地球に向かって進んでいる。現在、天王星軌道周辺を順調に航海中。後7時間程で地球に到着予定。
2.増援の内訳は戦艦3、巡洋戦艦2、重巡10、駆逐艦18、ただし重巡と駆逐艦は増援艦隊の護衛なので半分以上は艦隊が地球に到着したら本部に戻る。
3.現在アレックスの指揮下にある重巡5隻のうち3隻は太陽系内を分散して哨戒中(見張り中)。旗艦を含む2隻は月軌道上で地球本体の防衛についている。
但し増援の戦艦が持つ大規模警戒システムが稼働しだい、アレックス下の哨戒中の3隻の重巡は合流のため一時地球に戻る。
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そんな感じ。
前にも書いたけど、辺境の艦隊としては十分な戦力だそうだ。そう簡単に侵略出来るものではないので、敵も様子見をするだろうとのこと。
心強い。俺は学生なんで、司令官の仕事はパートで済ませたい。
暇なのは大歓迎だ。
ただし、お偉方が何の予告もなく急に配置した艦隊だから、周囲の星系から領土拡張の為の侵略意図があるんじゃないか、とか邪推されるだろうとの指摘あり。
苦労するだろうけど、ごちゃごちゃ言ってきたら対応よろしくと頼まれました。
いや、俺 まだ見習いですし。(にっこり)
まあ後、艦のそれぞれの性能教えてもらったり、勉強のため戦術シュミレーションをやれとかハッパかけられたりしたけど、頑張ります。とその場は流した。全部言われても対応追いつかないし。
しばらくアレックスにまかします。見習いなんで。(ハート)
俺は、本日最重要の議題を持ち出すことにした。
「アレックスさんを男と見込んでお話があります。」
『俺を呼ぶときにも、さん付けは止めて欲しいが、何の話だ?』
「非常に重要な事なので、サキ&エリにも心を読まれないようにして欲しい。可能ですか?」
『可能だ。今の要望も秘話通話に指定した。俺と司令官にしか聞こえないし心も読めない・・・あーー。しかし、なんとなく予想がついてきた。』
さすがアレックス。艦隊旗艦!
「いやあのですね、健康な男性の持つ考え(妄想じゃないぞ)がテレパシーによって漏洩する事に関するプライバシー権という非常に需要な問題について議論したいのですが。」
『いやもう分かったから、説明しなくていい。司令官。
サキ&エリに考えを読まれないようにする事は可能だ。後で暗号化してやり方を送る。教えなくても、そのうち分かったとは思うがな。
但し戦闘時は、心は解放して読めるようにしてくれ。声で一々通達してる間に、沈みたくないだろう。』
よし、今日の最大懸念事項が解決した。感謝致します。これで我が妄想力全開可能です。
『俺からも、サキ&エリに聞こえない今、ちょっと相談したい事がある。』
「なんでしょうか。も、もしや。まさか?」
『いや、今の司令官の考えは敢えて読まなかったが、多分その内容じゃない。
相談したい事は今度配属された戦艦の事なんだが。』
「はい。」
『戦艦のうち1隻の話だ。優秀な奴だが問題児でな。
新米だが戦闘能力は高いので、能力自体の心配はしなくていい。
ただ、まあなんと言うか、”せっかく地球に配属されるんだから、綺麗な南の島とか行って自分の目で楽しみたいし、食事というのもしてみたいし、綺麗な服着てみたいと”か言い出してな。 サキ&エリだけ身体もらってずるい。とか言われている。』
「宇宙戦艦なんですよね?」
『優秀な正規戦艦だ。 とりあえず“戦果もあげない新米が、高コストな生身の身体を持とうなんて100万年早い”と一喝しておいたが、そのおかげで“じゃあ戦果上げれば良いのね”とやたらテンションが高くて、やる気満々だ。
で・・・言ったように優秀な奴でな。戦果あげるんじゃないかと思う。』
「いや、まあ、その。なんと言うか。戦果上げていただく分にはよろしいんじゃないでしょうか。」
『了解。じゃあ、その時は彼女の身体の実体化の要望をどうするか考えて欲しい。
ただ老婆心ながら注意しておく。 見た目に対する司令官の好みを聞いてくるぞ。
見える部分を相手の好みに合わせるのは、人工の知性体としては別に変なことじゃなくて普通の欲求だ。』
「(やったー)あくまで確認の為ですけど、女性のパーソナリティを持った艦ですよね。」
アレックスは天を仰いだ。顔は無い筈なんだけど何故か俺には見えた。
『間違いなく女性だが。
後で司令官から恨まれない為に、重ね重ね老婆心から忠告しておく。
サキ&エリの身体を造った時は、司令官はまだ決まっていなかった。好みに合わせることは出来なかった。』
「十分好みですが。」
『一人だけ司令官の真の好みのタイプの女性が出現した時に、サキ&エリの方の感情がどうなるのか、よく熟慮の上決定を願う。
報告終了だ。時間をとってもらって感謝する。 秘話通話を解除する。』
言いたいことだけ言ってアレックスは会話を打ち切った。