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仲間達 1


翌日、俺は現地の(つまり地球だ)艦隊本部出張所に出向く為に自宅から駅に向かった。

今日はそこで艦隊メンバーとの顔合わせがある。


つまり艦隊司令官の件は引き受けたって事だ。引き受けなきゃ地球ごと“敵”に滅ぼされる。

他に選択肢があるなら教えて欲しい。

(講義のテストはバックレた。テスト勉強の一夜漬けなんて当然全く出来無かった。卒業出来るんだろうか。)


ホームに止まっていた電車に乗り込み空いていた席につくと、つらつらと昨日の出来事を思い出す。サキ姉さんを怒らせたんで気が重い。どう考えても理は俺の方にあるが、女性の怒りをそのままにしておいて良いかどうかはまた別の問題だ。

休戦の意志表示にケーキでも買って行くべきか。


周囲は忙しそうなビジネスマンやスマホを覗きこむ女子高生とか、見慣れすぎた日常が平常運転中だ。自分の身に起こっている事が今一実感出来ない。


昨日、俺は本部と地球防衛艦隊司令官業務の請負契約を結んだ。(具体的には、脳内で自らの自由意思で契約に従う事を宣誓すると艦隊のシステムが自動的に契約処理を行った。)


契約が承認されるとめでたく(!)艦隊司令官の身分となった。俺の強い希望で3か月間は見習い期間扱いにしてもらう。期間中は補佐がついてアドバイスやら、ある程度の代行をしてくれる。可能な限りの研修も込みだ。

実戦やれば慣れるわよ。とか言われて見習い期間無しで全部押し付けられそうになったんだがブラックにも程がある!流石にいきなり実戦は勘弁してもらいたい。


地球人なんて70億人以上の人がいるんだから俺以外の誰かを後継に任命してとっとと引退出来ないだろうか。自慢じゃないが俺は軍人なんて向いていない。

契約内容には守秘義務が含まれるので、日本国政府の偉い人やら警察やら自衛隊とかには相談は出来ない。守秘義務違反で軍法会議を受けたら何が起こるのかなんて考えたくもないし。


艦隊本部は地球の人間には知られずに(俺を除く)陰でコソコソ地球防衛業務をやってもらいたいようだ。これは絶対何か後ろめたい事を隠してる。俺は確信したね。

もう既に悪の手先の一員(仮定)になってしまった俺としては、悪い企みの内容とか知りたくもないが後でいろいろ知る事になっちゃうんだろうな。


俺の事を砲撃していた敵の軍艦(正確には巡洋戦艦でしたね)はどうなったかって?

結論から言えばさっさと逃げていった。


つまり俺が司令官(見習い)として着任したことで、“どうして呼ばれてもいないのにそこにいるんだ的な味方側の怪しい艦隊”は正式な地球防衛艦隊として認められた事になる。

正規艦隊になって早速、敵本星に対する正式な抗議(我が正式の純然たる正規艦隊に手を出したらどうなるか分かってるんだろうなあ。仲間黙ってねーからな。あん?って伝えたんだと思う。恫喝とも言うが)を受けて敵の“契約前に契約者を消せ!巡洋戦艦発進だの巻(ハート)”が失敗したらしく、今回は大人しく撤退していった。


念の為に予備艦隊の使用許可がおりたとのことで、防衛用に再配備中とのこと。

増援の艦は地球に向けて現在航行中だ。彼らから見たら辺境である地球(!?)にもかかわらず我が艦隊はそれなりの規模になるそうだ。


考えごとをしてる間に現地出張所の最寄り駅に着いた。東京都の郊外にある某都市だ。駅を出て目的の出張所に向かう。

グー○グルマップで事前に場所を確認しておいたんだが、地味な賃貸マンションぽい。


20分程歩き(ところで交通費は出るんだろうか?金に余裕は無い。)

住宅地の中にある安普請なマンションの一室に着いた。チャイムを押す。


(鍵は空いてるってさっき伝えたでしょう。)

不機嫌そうな声が脳内に響く。サキさんだ。


聞こえないフリをしてチャイムを鳴らし続ける。脳内に割り込むなっつうの。

健康な20才男性の考えを盗み見るな!いや見ないで!


しまった意地を張った、仲直りするつもりだったのに。


『はい。司令官ですね?どうぞお入りください。』

優しい声がインターフォンから聞こえる。多分エリさんだ。


「お邪魔します。」


ドアを開けると玄関にはエリさんらしき女性と、引っ張ってこられたサキさんに出迎えられた。応接室に通される。男の声がどこからか聞こえるが姿は見えない。

昨日、契約処理中に必要な事柄を教えてもらった時に聞いた声だ。


『昨日司令官とは少し話をしたと思うが、あらためて俺はアレックス。実体化出来る肉体は持ってない。あえていうなら船全体が俺の体になる。現在、本体は月の軌道上にあって声だけこちらに参加させてもらっている。

役割は旗艦で指揮下艦隊の全体制御をしている。


イメージとしては艦付属の人工知能って表現するのが、現在司令官が持ってる知識で理解し易いと思う。ただし俺自体は人工知能と呼ばれるのは好きじゃない。

いずれにしろ、これからよろしく頼む。


さっそくだが艦隊の配備計画を相談したい。都合がついたら後で時間を割いて欲しい。』


司令官(見習い)です。こちらこそよろしくお願いします。相談の件、了解です。


続いてエリさんが微笑む。こちらはサキ姉さんとは真逆な感じ。

美人なところは同じだが、清楚で育ちが良いお嬢さんぽい印象だ。ビジネススーツを着ている。


『私はエリと言います。司令官、どうぞよろしくお願い致します。

サキと同じ星の生まれではないけれど、私も司令官から見たら異星人という事になります。


役割は、“コミュニケーター”です。“遠方”にある艦隊本部との非定型的な折衝や命令意図の解釈を行うのが仕事です。“本部”の“お偉方”は私達やあなた方のようなタイプの生物とは考え方や価値観、思考能力自体も全く異なるので意志の疎通はそのままでは難しいものとなります。


他意はありませんが、例えば人間が昆虫と会話を試みようとした場合に発生する問題点を考えていただければ、なんとなくニュアンスはお分かりいただけますでしょうか?


論理体系が異なる概念を我々の解釈可能なものに変換する必要があり、それが私の仕事の中心となります。

そういう事もあって、口が悪い仲間達は私達“コミュニケーター”を“巫女”とか“シャーマン”と陰で呼びます。ただ、“本部のお偉方”を神様に例えるのは例として相応しくないと個人的には思います。


なお本部とのやりとりの中でもフォームが決まっている定型業務の大部分は旗艦のアレックスが行っています。 命令の発動要請とか経費や交通費の申請とか。』


よかった!交通費出るんだ。ってかエリさんも俺の考え読むのね。ははは。

俺は得体のしれない“艦隊本部”の事は極力考えないようにした。頼み事があればエリさんに本部の代わりで聞いてもらえるようだし。


『そういえば、サキ、昨日の契約の時にお給料の話はしてるよね?』


きまり悪げにそっぽを向くサキ姐さん。『そんな時間無かったし。』


うん。勿論給料の話なんかしていません。俺が断言します。も、もらえるんですかっ?

エリさんは、サキ姉さんを睨むと話を続ける。


『本来契約時にお話ししておくべきです。失礼しました。

私の方から説明させて頂きますが、その前に“本部”の基本方針について理解頂く必要があります。


給与に限った話ではありませんが、“本部”の“お偉方”は防衛対象に対する過度な干渉や不必要な影響力の行使を嫌います。また基本的に自由意志を尊重します。


お金の話で言うなら、例えば艦隊が司令官に対して月給10兆円の給料を支給した場合、日本国経済に対する影響はどのようなものになるでしょうか?』


俺は不穏な空気を感じた。この話の流れはマズイ。


『国がもう一つ出来た位のお金の流れを生み出すことになり、結果として多大な影響を地球外から与えてしまうことになります。ですので我々の“本部”のとるべき方法は、その逆になります。つまり外部から払うお金は少なければ少ないほど良いって事になります。

過度な干渉はしたくない訳ですから。』


『とは言っても司令官の意欲維持の問題はありますので、必要最小限の給与の支給は行われます。それで、ご相談ですが給与の支払は現在から数えて30年後から開始で宜しいでしょうか? いえ、諸経費や交通費は月極で即支払います。ダメでしょうか?』


給与は年金じゃねー。30年後から給与支払い開始ってブラックさも宇宙規模かよ。

エリさん、その下から覗き込むように見上げる表情って狙ってやってますよね? “不必要な影響力の行使を嫌う”って表現になんとなく不信感を感じてきました。


『司令官、私やサキを呼ぶのに“さん”付けは不要です。任務遂行中は部下に“さん”付けは不適切です。』


あ、はい。気をつけます。エリさ、いやエリ。


さて給与の話は後回しにして(納得はしていない!)、次はサキさん、いやサキの番。

もちろん初対面じゃないけど、昨日時間無かったし。正直興味もある。

しかし喧嘩したのは気まずいところだ。


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