表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/35

混乱

「痛い。痛い。痛い。」


若い女が俺の頬をビンタしてる状況で、意識が現実に引き戻された。

いや正確に言うとビンタの痛みが耐え切れず、ぼんやりとした意識が無理やり現実に引き戻された・・ってそんなことはどうでもいい。必死で女の腕を押さえる。


『気がついた? 良かった。 私の言ってる事分かる? 今の状況分かる?』


「ええと、あなたが頬を叩いているので慌てて腕をとって止めようとしたとこです。」


『そこじゃなくて! いい? あなたは本日分の大学の講義を終えて、自宅への帰り道途中に駅前の交差点で信号が変わるのを待っていた。そこで砲撃されたの。今の時間は現地時間で15時35分。襲われたのは15時24分頃。思い出せる?』


「砲撃ってどういう意味? テロって事? 今、駅前の交差点にいるの? 周りがぼんやりとして良く見えない。濃い霧?」


いや。霧じゃあない。

話している最中にも、まるで線画みたいな白い線の輪郭で周囲の風景がイタズラ書きのように表示され始め、歩行者の雑踏がやはり白い線で輪郭が書き込まれ、囲まれた表面に、あわてたように午後の街角の色が落とし込まれる…


そして線画だったものが急に立体的に見え始め、いつもの交差点周囲の雑踏に変化した。

まるで高密度のコンピューター・グラフィックスが現実に実体化したように。


気が付くと歩行者の雑踏の中、歩道のやや奥まった所でお姉さんに上半身を起こされて、ぼんやりとしている俺がいた。周囲のざわめきが聞こえ始める。


親切そうなおばさんが現れて心配そうに声をかけてくる。さっき間近で、白い線画から立体化されて動き出したおばさんが居たのを俺は思い出した。


今は普通のちょっとくたびれたおばさんに見える。

「大丈夫? 救急車呼ぼうか?」


『大丈夫です。彼は貧血持ちなので、たまに立ちくらみを起こすんです。

私が送ります。同じ学科の友達なので。』


「そう? ○○大学の学生さん達なのね。気をつけてね。」


いやいやいや、こんな美人の女友達いねーし。もしかして俺拉致されそうになってる?

この親切そうなおばさんに警察呼んでもらうべき??


俺を拉致しつつある(仮定)綺麗でちょっとワイルドなお姉さんの方は、ジト目で睨んだかと思うと、やや乱暴に俺を立たせて近場にあるコーヒーショップに俺を連れ込もうとする。


はははは、こんなの現実じゃねぇ。夢だ。死にそうになってからいきなり気を失って気がついたら周りがコンピューターグラッフィックスで囲まれてて、お姉さんに連れていかれる現実なんて存在してたまるか。

でもでも。俺の夢の割によくやった。女の子の描写はいいセンスだ。

微妙に年上でちょいエロいお姉さんとか自分のセンスの良さを褒めてやりたい。

そういえば、担がれてる右手にちょっと当たってるんですが。


『余計な事考える余裕あって元気なのは結構だけど、現実から逃避しない!

ここはあなたの生きてるいつもの現実であって夢じゃない。


さっき何もない無から周囲が書き戻されたように見えたのは、修復過程の舞台裏がちょっと覗いただけ。もう今は回復されてる。

取り敢えず何が起こっているか説明するから、そこのコーヒーショップの中にはいるわよ。往来で男担いで話し込むとか人目を惹きすぎるから。逃げないで聞いてよ。さっさと急ぐ!』


お姉さんは、店の前で肩を貸すのを止めて俺を一人で立たせてから、格好良いスタイルを見せびらかすようにして店に入っていく。

勢いに飲まれて俺も続く。


駅前のド○ールはいつも混んでいるが喫煙席は比較的席が取りやすい。

あー喫煙席行きますか。俺はタバコ吸わないんですが。しょうが無いですね。でも窓側がいいな。


幸い売り場に客は誰もいなかったので、コーヒーを二人分買ってから窓側の差し向かいの喫煙席に座ると彼女は再び話始めた。


『私はサキ。あなたを助けた艦隊の一員。契約締結まであなたの命を守るのが私の仕事。

役割名で“プロテクター”と呼ばれる事もあるわ。今回失敗しかけたけどね。


申し訳ないけど、あまり時間は無いの。手短に説明するけど質問には出来るだけ答えるわ。説明の後にあなたに頼み事がある。もう話聞ける位には回復してるよね? 余計なこと考える余裕あるようだし。


まず、あなたに何が起こったのか。そこから説明する。

あなたは、あなた達が月と呼んでいる衛星の軌道上にいた軍艦から特殊な方法で砲撃された。

私は完全には防げなかった。着弾のエネルギーは分散したつもりだったけどかなりの情報が失われてあなたの存在は崩壊しかけた。直撃だったの。

攻撃の余波であなたの周囲およそ100メートルがさっきのような無の状態になった。

霧に包まれてぼんやりとしたような空間を見たでしょ?』


なんと反応すべきか? 彼女の必死な顔が痛ましい。

軌道上からの砲撃って言ってた?

こういう輩はUFO信じてたり、念力とか超能力とか心の底から信じてるから、まともな物理法則とか教えても通じないだろうな。


俺は自分の運の無さを呪った。危ない人に見込まれてしまったらしい。新手の勧誘だ。

信じたフリをして、隙を見てにげだそう。うんそれがいい。押し問答しても拉致があかなそうだし。


でも、霧のようなぼんやりとした空間? って彼女言ったか? 俺確かに見たような。

いやいやいやいや、会話による心理操作だ。気のせいだ。気 の せ い!

突然気絶して幻覚見る病気とか、自覚は無いけどそっちかもしれん。

週末に医者に見てもらおう。そうしよう。


『……思ってる事、私にはだだ漏れなんだけど。勘違いの物理法則とか教えてもらう必要全然無いし、私はオカルト現象の信者とかでもないから。それと言っておくけど、さっき“微妙に年上でちょいエロいお姉さんとか自分のセンスの良さを褒めてやりたい。”とかセクハラぽい思考垂れ流したでしょ。

武士の情けで無視してあげてるのを感謝してよね。』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ