プロローグ
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<<警告>>
当文章は、Confidential 区分A-100-G5435-01に属する。
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直ちに閲覧を停止し、その後本部に出頭して不適切な閲覧が発生した旨を
報告すること。
閲覧有資格者は、読了後に当文章の完全消去を行うこと。
以上
地球防衛艦隊本部 文書管理責任者”コミュニケーター”エリ
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俺は東京の大学に通う学生だ。工学部の二年生になる。就職まではまだ間もあり必須科目以外は適当に流して、まあ大学生活を楽しんでいた。ちなみに彼女はい・な・い。
自慢じゃないが何処にでもいる普通の学生だった自覚は十分すぎるほどある。
だったと過去形なのは、現在は普通の学生だとはとても言えないからだ。
実は俺は地球防衛艦隊の司令官をやっている。
頭が残念な奴と思いたく成るのは理解できるが、その前に俺の話を聞いてくれ。
◆
その日、俺は大学の講義が終わると家に向かった。いつもは友人達と何処かに立ち寄ってから帰宅するんだが、翌日は苦手な科目のテストの日であり、単位が足りない俺としては少なくとも今日のところは遊んでる訳にはいかなかった。テスト勉強の為の一夜漬けというやつだ。
帰宅途中に駅前の交差点で信号待ちをした….筈だった。良くわからないが、そこで一時気を失った・・じゃなければ意識が混濁した状態に陥ったんだと思う。
若い女の叫び声が近くに聞こえた。
『契約して!今すぐ!
あなた消えかけている! 生きたいのなら、死にたくないなら今すぐ!』
倒れている男がそれに応え、もごもごと何か喋っている。この倒れている男は俺だな。何で俺自身を俺が上から見降ろしているんだろう? 輪郭がぼやけていて良く見えないけど、こいつは俺だ。
続いて遠くから知らない男の声が聴こえる。
こちらは艦隊旗艦アレックス。防御失敗を認む。対象の存在情報拡散。
保護対象は意識が維持出来ない、間もなく崩壊する。
もう遅い。サキ、お前まで巻き込まれる。すみやかに帰還しろ。
「いややっぱ眠らせてくれ。あーしかしあんた美人だな。学生?」
サキと呼ばれた若い女が何か喋り始めた。さっき耳元で叫んでた女だな。
気が強そうだが綺麗な顔をしている。好みだ。俺は彼らの会話をぼんやりと聞いている。
『まだよ。一体あんたを見つけるのにどれだけ手間かけてると思ってるの。こっちは諦めが良くないの。
旗艦アレックスに要請する。緊急避難条項 補足12-3項に基づく特権命令発動をリクエスト。当方は、所持分全部のコストを負担。
命令種類:対象と周囲の状態回復
発動時間:即時
実行!』
旗艦アレックスよりリクエスト了承。申請を本部に送信。・・・結果は否決。要請は却下された。
もう満足しただろ! バカやってないで戻れ!
強制リターンプロセスを開始した。27秒後に発動する。サキお前は失敗したんだ。潔く認めてすぐに戻れ。消えたいのか?
『エリ、そこに居る?聞いてる? 私はこいつを助けたい。協力してお願い!補足12-4項を申請する。発動申請に同意して!』
旗艦アレックスより確認要求。おい本気か? おいエリ??
……分かった。”コミュニケーター”コード名エリ、及び”プロテクター”コード名サキ両名の補足12-4項に基づく特権命令発動要請を確認。本部に送信を完了。
……発動許可が下りた。こいつは驚いた。本部が許可するとはな!
よろしい。10秒後にリカバリープロセスを発動して保護対象の情報を再構成し復元する。”プロテクター”サキはその場で待機しろ。
なお艦隊への帰還プロセスはキャンセルされた。繰り返す。お前単独での帰還方法は失われた。対象者を助けて契約するんだ。
サキ、幸運を祈る。
こちらはもうしばらく時間を稼ぐ。
俺は、自分が急に透明になったように感じ存在感が失われていく感覚に襲われた。
必死な女の顔を最後に見た気がする。
「死ぬのか? なんでここで?
出来ればあんたみたいな美人と一回つきあってみたかった…」