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最終章

1年が過ぎ、再び元日を迎えた。


結婚して初めて迎える正月だが、実感は薄い。

ぼくは今年も、年明けを群馬で迎えた。

嫁さんは東京に残って、新年早々からトレーニングだ。

テレビ中継はリアルタイムで見たいと、嫁さんは言っていたが、今年もぼくは、ほとんど映っていないかもしれない。



群馬県庁のゴール地点付近。

『お疲れ様です』の言葉を添えて、男女二人組が、ぼくに近付いてきた。

全く見知らぬ人物。

駅伝のファンの方なのだろう。

女の人のほうは、おなかがふっくらしている。もうしばらく月日が経つとお母さんになるのか。


ぼくたちがママとパパになるのは、当分先のことになりそうだ。 

嫁さんが、現役選手でいる間は競技生活を中心にして、競技者としての一線を退いた時にじっくり子育てをしたいと望んでいるからである。


「妻が、あなたの奥さんのファンなんです。ぼくは、マラソンや駅伝にはあまり興味がありませんでしたが、妻と付き合うようになってから、一緒に見るようになって、今ではあなたのことも応援しています」

「それはそれは……ありがとうございます。ぼくのことまで応援して頂けるなんて」

ぼくは、照れながら礼を言った。


奥さんのほうは、ニッコリと笑みを浮かべている。

「実は、結婚したのが、同じ日だったんですよ。わたしたちが役所に婚姻届を出した日の夜に、由梨絵さんのブログを見たら、ご結婚されたことが書いてありました」


嫁さんのブログでは、結婚したことと、今後の各大会も旧姓で出場することを発表していた。

相手の名前は明らかにしなかったが、これまでの嫁さんのブログの文面に加え、ぼくも当日にブログで自分の結婚について少しだけ触れたために、夫になったのがぼくであると察した方もいたようで、ぼくに対しても多くのコメントを頂いた。


「偶然、同じ日になったことがうれしくて、由梨絵さんのブログに、

『いつも応援しています。わたしも、今日、お嫁さんになったんですよ』

って、コメントを残したんですけど……。たくさんの人が書いてたから、覚えて頂いてないでしょうね」


「ああ、思い出しましたよ!ファンの方と同じ日にだなんてって、嫁さんと喜んだものです。お会いできてよかったです」

ぼくが言うと、二人は声を揃えた。

「こちらこそ!」


握手をして、一緒に写真を撮って、差し出された色紙にサインも書いて……。

サインと言っても、ぼくは普通に名前を書くだけなのだが、それでも大事そうに色紙を抱えて下さった。


「来年は、子供を連れて応援に来ますって言いたいですけど、産まれたばかりなのに寒空の下に長時間もいることになってしまうから、たぶんテレビで見ます。再来年は連れて来たいです。今年1年、頑張って下さいね」

ご主人の言葉に、ぼくは応えた。

「再来年の再会を楽しみにして、頑張りますよ!」



自宅に帰ってから、嫁さんに、今回の出来事を話すと、

「再来年は、わたしも応援に行きたーい!」

なんて言い出した。

そして自分のブログを更新。


「駅伝に出場された方、応援に行かれた方、お疲れ様でした。

主人の応援に来て下さった、わたしたちと同じ日にご結婚された方、元気な赤ちゃんを産んで下さいね。

いつかわたしもお会いできるのを、楽しみにします」

と、明るく声に出して、パソコンのキーをたたく。


ところが嫁さんは、急に声のトーンを落とした。

「わたしも早く、赤ちゃんがほしいな」 

入力の画面を見ると、これまで口にしたのと同じ言葉が表示されていた。

嫁さんはすぐに、送信ボタンを押した。


「もしかして、『赤ちゃんがほしい』まで送っちゃったのか?」

「うん」


「結婚する時に、子供は引退してから産んで、愛情をめいっぱい注いで育てたいって、言ってなかったっけ?」

「なんか、ちょっとだけ、うらやましくなったの。普通の女の子として生活して、大好きな人との子供もできて……。でも、大好きな人と同じスポーツをして、お互い励ましあえるのも楽しいね」

嫁さんとぼくは、微笑みながら、見つめあう。


「そうだな。友達は続々とパパになってるけど、ぼくたちはぼくたちなりの家庭を作っていけばいいんだ」すると、嫁さんは、

「ねえ」

と言ってから、少し間を空けてつぶやいた。

「心の底から、そう思ってる? 本当は早く子供をつくりたいんじゃないの?」


「由梨絵は、中途半端な形で一度辞めてしまったから、やり尽くしてから引退したいとも言ってたよね。それでいいよ」

「わがままを通してごめんなさい」

嫁さんは、うつむいてしまった。


「わがままじゃないよ。輝いている姿を見て、ぼくの励みにもしたいからさ。今、お互いが頑張ることが、未来の息子か娘のためにもなるよ」

ぼくは、嫁さんの両肩に軽く手を当てた。

「そうよね」 

 

明日からぼくたちは、また、走り出す。

お互いのため、そして、まだ見ぬ我が子のために。



…end…


▼作者あとがき→番外編へ

やっと終わりました!

最終章を書き始めたのが、7月1日。

今日は12月31日。

なんと、半年もかかりましたよ。


読む側の方にとっては、この話は単調でつまらないかな…と思って、途中で何度も手が止まってしまいましたが、なんとしても『完結』させたいと思って、年末に、ネットカフェのパックを利用しながら書き上げました。


普段はガラケーで小説の読み書きをしていますが、ネットカフェでの執筆は、料金と時間の兼ね合いもあるので、書く気が起こり、執筆が進みます。

と言っても、あまり長い時間は利用しません。せいぜい3時間パックまでですね。

私がよく行くネットカフェは、4時間まで利用できるモーニングパック(時間限定で、3時間パックと同じ料金)があるので、午前中に時間がある時は、利用することもあります。


前作の「ゆっくりと。」に続き、今回も、脇役さんたちによる番外編のお話が付いています。

すでに番外編も書き終えたので、この後すぐに送信するつもりです。



年が明けて1月には、駅伝の大会が色々行われますね。

選手の皆さんには、万全の体調で良い走りを期待しております。


H27.12.31 こだまのぞみ

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