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第七章

由梨絵ちゃんの元の所属先のマネージャーが、ブログを見たことがキッカケで、監督や会社の人たちにも意向が伝わり、由梨絵ちゃんは、再入社という形で復帰することになった。

この件は、本人からのメールで知った。


力になりたいとは思っていたが、結局ぼくは、由梨絵ちゃんの復帰のために何もしていない。

役立たずの自分は、由梨絵ちゃんの結婚の相手に、ふさわしくないのだと思えてきてしまった。



「わたしをお嫁さんに、っていう話なんだけど……」

由梨絵ちゃんから電話があって、『いよいよ明日、寮に引っ越すの』との言葉の後に言ってきた。


『もう、なかったことに』

なんて言われるかと思って、ドキドキした。

 

「あれから、結婚に向けたことは何も言ってくれないじゃない?」

「それは済まなかった。ぼくじゃ、由梨絵ちゃんの相手にふさわしくないと思ったからだ。全然役に立ってないし」

「役立ってるよ。今回、会社に戻ることができたのも、元をたどれば、あなたに刺激されてブログを開設したからだし。自分から辞めちゃったから、前にいた所に戻るなんて、思いもよらなかったけど」


ぼくのブログでの話題は、競技のことがほとんどで、あまり面白みはないと思う。

ほんの少しでも役に立ったのなら、嬉しいことだ。


「明日、ウチの父親と母親もわたしと一緒に行くから、もしも時間があったら、会ってもらえないかな?」

「ご両親と?」 

「うん。東京に一泊してから帰るみたいだけど、とても大事な人がいるって言ったら、ぜひお会いしたいって」


突然の申し出に、全身が緊張してきた。


「……じゃあ、娘さんと一緒になりたいので許して下さいとか、言わなくちゃいけないんだ……」


『由梨絵ちゃんを嫁さんにしたいな』

なんて、頭の中で妄想していた頃には、親御さんと対面することは、考えていなかった。

そもそも、ぼくの片思いで、現実としては『無理だ』と思っていた。


「とりあえず明日は、顔合わせのつもりだから、気を遣わなくてもいいからね」


ぼくが緊張しているのを声で察したのか、由梨絵ちゃんは、ぼくの気持ちをほぐすように、穏やかに言った。

 

でも心の奥では、ぼくの強い言葉を待っているのかもしれない。

ここで、一歩踏み出さなければ、ぼくと彼女との結婚の話は、うやむやになってしまう。 


「遠くに住んでいるご両親とお会いできる機会はなかなかないことだし、先々のことも含めて、きちんとしておきたいな。ぼくのことを気に入ってもらえるかどうかは、わからないけど」

「大丈夫よ。ちょっと気弱で、優しくて、でも走るとすごい人だって言っておいたから」


『ちょっと気弱』は認めるけれど、決して『すごい選手』ではない。

ご両親と対面したら、まず、

『顔もタイムも平凡で申し訳ありません』

って、謝らなければならない。

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