第五章
自室に戻り、電話してみたら、由梨絵ちゃんは驚きながらも、
「電話で話せるなんて嬉しいな」
と言ってくれた。
「マネージャーさんから連絡先を聞いたよ。体調を崩して実家に帰ったなんて、ブログを見るまで知らなかった」
「心配をかけちゃうと思って、言えなかったの。今はもう回復してきたから、そろそろ地元で再就職先を探したいんだ」
「ずっと地元を離れないつもり?」
「う〜ん……」
「ぼくの嫁さんに、なんていう考えはないか?」
あ……。
心の奥底でひそかに願っていたことが、焦りによって口から出てしまった。
付き合っていないどころか、告白すらしていないのに。
「わたしのこと、お嫁さん候補として見てくれていたの?」
「まあ、そういうことだな……」
あきれられているのではないかと思い、語尾が弱くなってしまった。
「わたしの片思いなのかなって、ずっと思ってた。それが、お嫁さんにだなんて……。もったいない言葉、本当にありがとう」
「昨日、ブログに書いてあった、『好きな人』は、ぼくのことだと思って、間違っていないか?」
「……もちろんよ」
やっと聞こえる感じの、消え入りそうな声だったが、確かにちゃんと返事をしてくれた。
実は、由梨絵ちゃんに対しては、もう一つ言いたいことがあったが、言えなかった。
『もう、走らないのか?』
きっと、内に秘めた思いがあるのだろうし、ぼくからは安易に口を出すことができない。