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幽霊少女と死神少年  作者: 屋目 閏
1/1

一人目。吉野アツシの場合。01

今日も最悪な一日だった。

なぜ学校なんてあるのか、僕には理解できない。

勉強が嫌いな訳じゃない。まぁ嫌いだけど。

人間関係が嫌いなんだ。

いや、人間関係と言うのすらおかしい。

イジメを人間関係と言うのか? 

いつもいつも寄って集って僕を虐めるのがそんなにオカシイか?

面白いか?

楽しいか?

みんな死ねばいいのに、死ねばいいのに。



夕方の通学路には数人の学生服を着た少年達が騒ぎながら歩いていた。

その後ろに大量のカバンを持たされた少年が歩いている。

前を歩いている少年達はカバンを持っていない。代わりに二つの、汚れた靴を投げ合っていた。

「やめろよぉ~菌が移るだろうが!」

そう言った少年は言葉とは逆に、下品な笑顔をしながら靴を避けた。

よく見ると後ろの少年の足元には靴が無かった。真っ白な靴下を、用途通りには使わずに道路を踏みしめている。

すぐに汚れるだろう。穴が開くだろう。靴下が真新しいのはこの行為が日常的に行われている証拠だった。


「ちょっと!やめなさいよ!」

騒いでいた少年達が動きを止めて声がする方に顔を向けた。

声を上げたのは少年達と同じクラスの学級委員、中山サツキだった。

「うわ、サツキじゃん…」

「タカシ!いつも吉野君虐めて楽しいの!?」

「うるせぇよ、ウザメガネ! 別にイジメてねぇし、一緒に帰ってるだけだよなっ! アツシ!」

タカシと呼ばれた少年は後ろにいた大量のカバンを持ったアツシに言った。

アツシには中山さんが救世主に見えた。

チャンスだ! ここで僕はこいつらのカバンを思いっ切り地面に投げつけてやるのだ!

こんな日常から中山さんと抜け出すんだっ!

「う、うん…一緒に帰っているだけで…」

後々の事を考えると、自分が考え無しで行動した結果が目に見える。

たまったもんじゃなかった。

「ちょっと吉野君っ!」

「いや、ほ、ホントに大丈夫だから。それじゃ…」

「じゃあなぁ~ウザメガネェ~」

「コ、コラァ!」

夕焼けに負けないくらい中山さんが顔を赤くして怒鳴った。その顔には覇気は感じられない。

コンプレックスを突かれて恥ずかしい様子だった。

関わらないでほしかった。

僕を助けるつもりなんて鼻からなかったのだろう。自分の正義感を振りかざして悦に酔いたかっただけなんだろう。

助けようとした人にまで、心の中で悪態つくなんて。

僕は自分が嫌いだ。

全てが煩わしい。

不意にタカシが取り巻き達に提案した。

「俺、超イイ事思いついた! 明日コイツを中山に告白させようぜ!」

「マジで!? 超面白いじゃん! 流石タカシくんっ!」

タカシの取り巻きが一斉に騒ぐ。

なるほど、それは素晴らしい提案だ。僕のクラスでの地位の低さが更に低くなる。

いや、クラスどころではなくなる。ほかのクラスにも沢山の友達がいる中山さんだ。

学年中に広まるだろう。狭い狭い学校のことだから三日も待たずに噂は広がる。

さらに僕に告白されたということで中山さんまで被害を受ける。

イジメを邪魔された復讐と、僕を虐めるという一石二鳥の提案。


絶対に嫌だ!


「告白するよな?」

タカシがギロリとアツシを睨んだ。有無を許可しない眼つき。

タカシは命令をしない。同意を求めるのだ。

とてもいやらしく、狡猾な男だ。

「う、うん…」

「はい決定! 明日アツシ君がサツキさんに告白しまぁ~す!」

「うおぉ! すげぇ! どうやって告白させんの?」

「手紙なら任せろよ。俺たちが書いてやるからさ!」

言いたい放題だ。もう僕に拒否権はない。すでにもう無かったが。


次の日の放課後だった。

彼らは、彼らが面白いと思う事だけは行動が早い。

今日だけは授業中も、休み時間もイジメられなかった。

手紙を書く事に必死だった。

恋の手紙なんかじゃない。人を貶めるためだけの手紙を。




その日の夜に僕は家に帰り着いた。

「お帰りあっくん。今日は遅かったわね」

お母さんは僕に見向きもせず、せっせと夕食を作っていた。

僕は何も答えない。何も口に出さない。だけど、気が付いて欲しくてお母さんの傍にただ、立っていた。

何も言わない僕を、お母さんが不思議そうに振り返った。

「___どうしたのあっくん!!」

そう、僕の身体はボロボロだった。

ついでに言うと心も。

制服は泥だらけで、所々に穴が空いている。

ズボンは無かった。顔も酷いもんだ。

元々不細工だった顔が今では顔かどうかも認識できない。

瞼が物理的に重くて前が良く見えない。

「____!!!!」

不意にお母さんが僕を抱きしめた。

抱きしめてくれた。

「ごめんねぇ…ごめんねぇ…」

一体何に誤っているのだろう。お母さんが泣いている。

僕は勇気を出した。出した結果がこれだ。

指定された場所に行かなかっただけだ。

これは僕の意志だ、勇気だ。後でバレて、見つかって、リンチにされたけど、これは僕がちゃんと意志を持って対抗した証なんだ。

なのに何故、お母さんは泣いているの?

お母さんを泣かせたのは誰?



ボク___?



「あぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」

僕は身体の奥からにじみ出た衝動に身を任せた。

出した事も無い大きな叫びで自分がビックリした程だ。

お母さんが僕の下にいた。どうやら僕が突き飛ばしたらしい。

全然覚えていなかった。

ただ、お母さんの顔がさっきまでの泣き顔と違ってひどく怯えていた。

怯えた瞳から涙が流れていた。その涙を見て僕は玄関まで全速力で駆け出していた。

いつもの通路がまるで違って見えた。

後ろからお母さんの声が聞こえた気がした。

僕は全部を、全てを無視して走った。

外に出てからも、ひたすら走った。

真っ暗な住宅街を抜ける道路。

脇目も振らずに走った。



僕は気が付かなかった。

すぐそばまでトラックが来ていた事に。

気が付かなかった。


あぁ僕は助からないだろう。

死の間際には脳の処理が早くなって景色がスローに見えるというけど、本当だったんだ。

何故僕が死ななくちゃいけないんだ?

何故お母さんをさらに悲しませなくちゃいけないんだ?

誰のせいだ?



ボク___?



トラックのライトがグングン近づいてくる。辺りが光で真っ白になってゆく。

理不尽だ。嫌だ。僕はまだ、


死にたくない!


僕の視界を遮っていたライトの光が止まった。

光の先から全身真っ黒な男の人が歩いてきた。

「ん~ここらへんかな?」

真っ黒な服装の男は僕よりも少し年上に見えた。

彼は僕の視界にすっぽり全身が入るように立ち位置を調節して、真っ黒なハットを取ると軽く会釈した。

「どうもこんにちは。いや、こんばんわ! かな?」

今にも死にそうな僕の状況と打って変わって陽気な声でその人は質問をしてきた。

「突然ですが、生きたい?」

ニコニコと…いや、ニヤニヤしながら聞いてきた。

まるで答えを知っているかのように。

「…あれれ? 返事がないですねぇ~さっき死にたくないと聞こえた気がしたんだけどなぁ? と、言うことはアレですね? アナタは死にたいと。なるほど失礼しました。では『無の国』に出発進行! ということで」

「待って! 嫌だ! 死にたくない!」

「喋れるならさっさと喋れよ~お兄さん少しだけ焦っちゃたよぉ~」

全然そんな素振りは無かった。

「それでは死にたくないアナタに朗報です! なんと今なら死ぬ前に戻れるのです! 期限は三日間! 期間限定でやらせてもらっていますのでやり直しは不可でございます。

いつものように過ごすのも良し、違う事をやっても良し! どうせ死ぬならと犯罪を犯しても良しでございます! さあさあ今だけ、イ・マ・ダ・ケの出血大サービスでございます! なんと三日間のアナタの行動次第で運命を変えることが出来ます! 一度限りのチャンスでございます! ご要望の方は今すぐお返事を!


__どう?」

……どう? って言われても…

「さっきから反応悪いなぁ~こんな奴イジメても面白くないだろうに」

「な、なんで!?」

「『なんで知っているの?』かって? 僕は神様なので皆の事はよく知っているよ~」

絶対嘘だ。むしろ死神だ。こんな黒ずくめの男が神様なんて、それこそ死んでも信じない。

「死神も『神』って字が付いてるじゃないか。まぁいいんだよ僕の事は。

で、どうする? どうします? どうしますか?」

ぶん殴りたくなる顔をニヤニヤ歪ませながら僕に近づいてきた。

「…わかった」

「はい! ではでは時間を三日後に戻します! 良い『現実』を、『おはようございます』」


読んでいただきありがとうございます。

初投稿で実力不足ですが、読者様方に楽しく読まれるように頑張ります。

叱咤激励、感想、批評、批判、よろしくお願いします。

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