始まり7 『頭の中・・・精神世界?』
『全く、ここまで入り込むのに苦労するとわな、思っても居なかったな。』
誰だよ・・・今度は俺の頭の中か?
『頭の中というとちょっと違うな。』
んじゃ、精神世界?
『其れが一番近いだろう。』
あっそう。
『・・・。』
「で、お前は誰だよ?」
『お前も説明を受けただろう?宝具には意思があるっていう。』
「あー、其れね、聞いた気がする。」
『で、私はその中でも上位の宝具だよ。』
「自分で言って良いのかよ・・・。」
『え、だって作る為に掛けた時間は二十八時間、込められた魔力は下手したら普通の人間一人分、素材も最高級だぜ。之を上位と言わず何と言う!』
「いや、知らねーよ。」
『何だと!』
「そこまで驚くことかい?」
『この素材を知らないとは。私を誰かに見せなかったのか?』
「いや、箱に入ってたし態々見せる物では無いかと。」
『お前は何なんだ?』
「それは・・・人間?」
『その位知っておる!』
「まあまあそう騒ぐなよ、俺はあんたを作った王様と同じ異世界から来た人間かな?あ、でも、同じ所では無いかもしれないな。」
『不思議な奴だ。』
「不思議って言うなよ。」
『御前みたいなのは初めてだ。そんなに飄々としていて馬鹿みたいな事を言っているのに、考えている事は一級品だ。』
「其れ褒めてんの?貶してんの?」
『素直に褒めているんだよ。しかし、御前なら出来そうだな。』
「あのさぁ、出来ればすぐ戻してくんね?」
『何故だ?』
「あんたが今してる顔をしていた奴でいい事考えていた奴は一人も居ないからだよ」
『まあそう言うな、これを使えれば絶対強くなれるぞ。』
「・・・。」
『何を悩んでいる?』
「あ、分かる?」
『ここは御前の精神だからな。御前の感情は漏れ出してくるわ。』
「な~る。」
『で、何を悩んでいる?』
「いや、今のままでも充分強い気がするからこれ以上強くなる必要も無い気がするのだが、しかし、しかしだな、これから何かするにしても、力って持っていて損する物ではないかなぁと思いもする訳だ。」
『なるほど。』
「だから、ちょっと悩んでいる。」
『では、ここは私の案に乗ってくれないか?』
「何だよ?」
『私を持っている限りは、私は御前の意識に入り込めるんだ。』
「んじゃ捨てるね。」
『いやいやいや、最後まで話を聞きなさい!』
「え~、面倒臭いなぁ。」
『聞きな。』
怖ぁ~。
「分かりました。」
『なのでな、御前が暇な時、頭の中で「出て来い。」というイメージをするがいい。そのイメージが送られて来たら、私の方でも周りの状況を見て頭の中に出て行こう。その時に返事を聞かせてくれればいい。』
「・・・分かった。」
『其れでは御前の名を教えてくれぬか?』
「雷斗。」
『なるほど、雷斗か。では、私も名を教えてやりたい所なのだがな。』
「名前が無い、ね。」
『ほう、流石雷斗。之だけで分かってくれたか。』
「まあな。で、如何すんの?」
『名前を付けてくれ!』
「・・・やだ。」
『いや、そう言わずに、頼むよ。』
「ん~、じゃあ天馬で良いよ。」
『なるほど。では宜しくな、雷斗。』
「宜しく天馬。」
『あ、そうだ。』
「まだ何か有るの?」
『私を呼ぶ時、名前で呼んでくれないか?』
もじもじしてる・・・女性の母性本能を擽るんだろうなぁこういう奴。でも、まあ・・・
「いいよ。御前が呼んで欲しいんだろう?」
『ああ、私の持っている数少ない物の一つだからな。大事にしたいが、使える物は出来るだけ使いたいんだ。』
「ハハッ。いいよ。」
『ありがとう。』
「ん?何か言ったか?」
『いや、なんでも無い。』
「じゃ、どうやって戻るんだ?」
『眼を瞑って、そうだ、そして其のままあちらの世界でに有る、強く印象に残っている物を思い出せ。其のままそこから出てくる白い糸のような物を辿れ、それで戻れる。』
「分かった。じゃあな。」
『おう、待っているぞ!』
俺の意識はそのまま白い糸が作り出した道を辿りだした。