始まり39 『爆塵』
「それが能力?」
「うん。固定化して分かりやすいように形にしてみた。本来見えないはずの物なんだけど私の力を使えばこんなものかな。」
「凄い・・・。えらいよ、ルナ。」
頭を撫でてやると気持ち良さそうに眼を細めていたが、今の状況を思い出し、手を払いのけた。
「早くしないとこの子が!!」
「大丈夫、治療はずっと続けているから。確かに能力が無くなってからは治りが早い。既に治すのはかなりの部分まで進んでいる。胸の辺りの骨やらが突き刺さってしまっていたのは抜いて元に戻して突き刺さってた所の穴は塞いだし、頭の方の頭蓋骨は元に戻ってるし血管は塞いだ。ここからはすぐに終わるだろう。ルナは私に移す準備を。」
「・・・頭蓋骨?血管?」
ああ、そうだった。こっちの人じゃ分からないか・・・。
「なんでもないよ、ルナは移す準備に集中して。」
「・・・分かった。」
「セイン、君を死なせるわけにはいかない。全力で行く!!」
今自分に出来る最高の治癒力の魔法を放ち続ける。
「よし。粗方治ったかな?」
傷は無くなって、右目で見た限りでも異常は見られなかった。しかし、血をかなり失っていたのが心配な所だ。
「こっちも終わったよ」
ルナが準備を終えたようで話しかけて来る。
「・・・お姉ちゃん。」
「何?」
「治療が終わったならこの子に能力を戻しても大丈夫じゃないの?」
「それがねぇ、今この子の傷は塞がってるけど、そんなにしっかりと閉じているわけじゃないんだよ。中の重傷のほうに大きく力を割いたからあんまり力が残っていなくてね、自然治癒力を上げる魔法を掛けておいたけど、それを弾かれて傷口が開きでもしたら、もう私に出来ることは無い。だから今能力を戻すわけにはいかない。」
「そう・・・。」
「早く、逃げる時間が無くなっちゃう。」
「分かった、そのままじっとしててね。」
そう言って、ルナは俺の後ろに回りこんで俺の背中に手を当てた。
すると、とんでもない激痛が俺の体を走った。
・ ・ ・
「何なの?あの人達は?」
あの子達が忌み嫌われた子供だっていうのは見ていてわかっているだろう。
その子達を命がけで助けようとしていたり、それ以前に今日初めて知り合った筈の私たちの為に命をなんでかけられるの?
何故?何故?何故?
私の中には疑問しか生まれない。この世界で生きていく上で普通の人だったらほかの人間を助ける余裕などあるだろうか、いや、無いだろう。しかし彼女はほかの人を助ける余裕まである。
彼女は何者なのだろうか?
疑問、不安、恐怖、負の感情が押し寄せてくる。
知らない事に恐怖する。
彼女達冒険者について何も知らなかった。無償で手伝ってくれると言うから手伝ってもらおうと簡単に考えていたが、甘い考えでいたが駄目だった。
甘い、甘すぎる。
彼女たちを見ていて自分の甘さを思い知る。
「貴方たちは何故そんなに強いの?」
そう呟かずにはいられなかった。
・ ・ ・
「ったぁ!」
「よくそれで済ませるね?」
呆れ顔でこっちを見てくるルナのセリフを無視して言う。
「ここから出ようか?」
「そうだね。」
ルナの許可も出たので皆に呼びかける。
「みなさーん、今からここを出ます。ついでにこの孤児院を破壊します。いいですかぁ?」
「いいで・・・駄目でしょっ!!」
軽いノリで言ったので乗ってくるかと思ったんだけど・・・。
「大丈夫。後でこっちで建て替えておく。」
ルナの補足説明。
「で、でも・・・。」
「こっちとしてはさっさと出たいし、壊すのは私だから建て替えに何か異議をはさむ余地は無い。建て替えるのに困らない伝手もあるから金銭面がどうたらこうたらは心配する必要性もない。分かった?」
それでも納得していない人もいるようなので強制発動。
「ルナ。」
「何?」
「多分これを撃ったら私は倒れるかフラフラになると思う。だから後はお願い。いざとなったら兄ちゃんの名前も出して力を借りていい。分かった?」
「うん。」
止めても無駄なことは分かってるのだろう。ルナは大人しく引いた。
そこから三十秒もかかる詠唱を行う。
「これが最大威力の!!爆塵」
周りが焼け野原になったのを確認した後、俺は意識を手放した。