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始まり37 『スライムの館』

「何だこりゃあ・・・。」

目の前に広がる紫色の物体。元々孤児院だった所に、薄く紫のスライムを塗ったかのような状態だが、中の孤児院は勿論見えず、しかもただのスライムだったらいいのに、気持ち悪い奇声を時々上げる口があちこちについていて、こちらを見るわけでもない、何処を見ているのだか分からない虚ろな感じのくせに、ぎょろって効果音が聞こえてくる気がしそうなほど見開かれている目が付いていたりと、趣味の悪い物になっている。

「魔法発動後にこれか・・・。これは魔法と関連して何か起きたと見るべきか?例えばあの魔法は目くらましだったとか、それ以外だとこれを作るのに魔法を使ったというぐらいしか思い浮かばないのだが・・・。」

とりあえず入り口だった所に近づくと、驚くべきことが起きた。

「『アハハッ、楽園の入り口にようこそっ、死にたく無いという臆病者は帰りなっ!!!死んでもいいっていう無謀なものは大歓迎だぜっ!!!さあ、貴方はどっちかな!?入りたければこの門の中に進みなっ!!臆病者は帰って布団にでも包まってるといいよっ!!』」

人型で、先ほど家に付いていた口と目が顔と思われる部分に付いているスライムが現れて、喋っていたのだ。

「気持ち悪いな・・・。でも、この中にあの子達がいるなら臆病者だとしても入るしか道は無いね。」

そう呟きながら、門の中に進んだ。


・  ・  ・


「くっ・・・!」

子供たちに怪我をした子はいないようだが、先生の中に子供を庇って怪我をした人がいるようだ。

「大丈夫ですか!?」

怪我をした先生に近づいてみると、崩れた孤児院の破片が刺さっているようだった。

孤児院は崩れ、今周囲に広がっている紫のスライムに吸収されていってしまった。気味の悪いスライムには、眼と口も付いていて、そのせいで怖がる子供が多く居るが怪我人は少ない。崩れたところにいたのに怪我人が少なかったのはスライムが全部崩れた孤児院の破片を吸収してくれたおかげだ。それでも落ちてくるのはあったわけで、かすり傷を負っている先生は少なくない。しかし、今すぐの処置が必要なのはこの先生だけのようだ。

「ちょっと痛いかもしれません。これを噛んでいてください。」

そう言って、手を拭くために用意しておいたハンカチ(お姉ちゃんがそう呼んでいた)を噛んで貰う。

お母さんが治療について一通り教えてくれていたので何とかなると思う。

ハンカチを噛んで貰ったのは、舌を噛み切られないようにするためだ。こういうのを抜いたり、手足を切断するとき、痛み止めの魔法を使わないと、あまりの痛みに舌を噛んでしまう人がいるらしい。自分がやった訳ではないので何とも言えないが・・・。

兎に角、刺さってしまっていた破片をゆっくりと慎重に抜いていく。あまりにも痛いのか、この先生の顔がかなり歪んでいるが、一気に抜いてしまうと危ないので、慎重になってしまうのだ。

「ふう、やっと抜けた。」

抜けた破片を置き、自分の着ていたワンピース(お姉ちゃんがそう呼んでいた。)の端のほうを切り取って、先生の足に強めに巻きつける。

「大丈夫ですか?」

かなりの激痛だったはずだ。しかし、この先生はとても強い。しっかりとした顔で頷いた。

「お姉ちゃん・・・。」

この部屋から出て勝手に動き回るのは危険と判断し全員を同じ部屋に押し込んでいる。最初にちょっと外に出たときは、壁から触手の様な物が出てきて攻撃されそうになったので、外に出るものはいない。しかも元の孤児院の作りとは全く違った形になってしまっている為、触手を突破できても道に迷ってしまうだろう。

「お姉ちゃん・・・。」

唯一の希望である、自分の命の恩人を呼び続けながらも、自分の出来ることである治療の手は休めない。そうでもしないと気が狂ってしまうだろう。

それでも助けを信じながら治療を続けていく・・・。


・  ・  ・


「おりゃあ!!」

炎を纏わせた大剣で触手を叩き切って行く。

魔法を使ってしまうと、子供やルナ達がいる部屋ごと爆破してしまう、なんて事が起きかねない。それを防ぐため、炎を纏わせた大剣で戦っている。

そのままの大剣の攻撃では跳ね返されることは無くても、一本一本を切るのに時間がかかりすぎる。だから炎を纏わせて、炎で焼いたところを一気に大剣で切ることにした。

「きりが無い・・・。」

ドアと思われる場所はどんどん空けて行っているが、誰一人として見つからない。同じ部屋に固まっているだろうから、個別に見つかっても困るのだが・・・。そんな中ドアを開けると、子供や先生、ルナがいる部屋が見つかった。

「皆!!無事だった!?」

「おねぇちゃぁん!怖かったよぉ。」

そういって抱きついてくる子供を少しずつ部屋の中に戻していく。

右手で子供達の相手をしながら、左手でスライムと戦うのは嫌だからね。というか既に左手だけで触手を防いでいる状態だけど。

「よしっ。無事なようでよかった。」

部屋には触手は現れないようで、ありがたい。

「ルナ、怪我人は?」

「一番大きな怪我をした人はあの先生。」

ルナが指差した先に居るのは太ももの辺りにルナのワンピースの切れ端を巻いている先生だった。

「任せて。」

回復系の呪文を唱えて足にかける。

血も止まり痛みも消えたようで、動ける事に驚きと感動を覚えたようだ。

「他には?」

「他の人たちは掠り傷ですんでいる。」

「子供達は?」

「怪我した子はいない。」

そういって子供達を見回す。同じように俺も子供達を見回してみると。少し違和感を感じた。

「あ!!足りない!!」

「何が?」

「カナ・アルステイルと、セイン・アルステイルの二人が居ない!!」

「えっ!!」

先生方も驚いたようで、周囲を見回し、顔が青ざめていく。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「やばいっ!!」

悲鳴は隣の部屋から聞こえてきた。

その悲鳴を聞いた瞬間に俺は部屋を飛び出していた。


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