始まり30 『方陣魔法』
目の前には負傷したドラゴン一匹と、普通に元気なドラゴンが一匹。
さて、如何する。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」
二匹は呼応するかの様に咆哮する。
その咆哮を聞きながら既に俺は走り出していた。
「『氷よ、我は汝の力を望む。我は今、全てを凍らせる力を欲す。我が呼びかけに答え力を貸したまえ。凍土。』」
魔法を唱え、地面に手を付く。其処から氷が段々と張っていき、ドラゴンの足元も凍らせる。
「おらぁ!!!!」
傷ついている方のドラゴンに止めを刺すために剣を叩きつけようとするが、もう一匹のドラゴンがブレスを弾にした火炎弾を放ってくるためなかなか近付く事が出来ない。
「クソッ!」
それでも、その弾の包囲網を潜り抜け、段々とドラゴンに蓄積されているダメージが大きくなっていく。
「そろそろかな。」
そう呟き、その場を離脱しながら魔法を唱える。
「『光よ、雷よ、我が手に集まり全てを照らす一筋の光となれ。一筋の光に形有るのならば、我は弓矢を望む。雷光弓』」
手に光と雷で出来た弓矢が現れる。
下がりながら弓矢を構える。弓を引き絞り、上空に向かって放つ。
一つの雷光で出来た矢は、無数に分裂しドラゴンの上から降り注ぐ。
「どうだ・・・?」
倒したかなぁ。という期待も多少あったわけで、さすがにノーダメージって言われるとショックだね。
実際煙が晴れてくると、無数の傷だらけのドラゴンが現れた。
傷の数は多いが、一つ一つは其処まで深いわけでもない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」
「クソッ、咆哮が多い!!」
実際にビリビリと空気が震えるような咆哮をこんだけ食らってよく平気・・・ではないけど、まあ、普通にしていられるな。
そんなくだらない事を考えながらも、どんどん矢を放ち続ける。
今度は矢を上空に向けて分散させずに、一本の矢をどんどん打ち込み続ける。分散させたやつよりは一本に絞ったほうがやはり威力が高いようで、二匹のドラゴンには傷が増え続けている。
「しかし、これ以上かける時間はない。ここで終わりだ。」
そう言って地面に手を当てると、地面の氷が光り始めた。
「方陣魔法、大氷柱発動!」
そういった途端、ドラゴンの周辺の足元のほうから氷が段々と上がっていく。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」
ドラゴンどもは、吼えたり暴れたりして抵抗を示すが、無駄に終わった。
その氷は、ドラゴンを氷の標本の様にしてしまった。
「ふう。」
この魔法は凍土を放ったときに、地面に氷で描いた魔方陣に、魔力を流し込んだものだ。
これは人が相手の戦い、戦争のような大規模なものでも使える便利な魔法だ。
しかも、方陣を書く時間を魔法で短縮しているため、方陣魔法の欠点を消す事が出来る。あえて弱点を挙げるならば、魔力の消費の激しさだろう。その辺は勇者の加護によって如何にでもなっているので俺にとって心配する事もない。
このドラゴンは死んでいるのだろうか?
ふとそんな疑問が頭に浮かび、ギルドカードをかざしてみる。
しかし、戦利品化しない事から、生きていることが判明する。
「このまま放って置いても良いんだけど、念には念を入れておくか。」
もう一度凍土で魔方陣を書く。
「『地獄に堕ちし堕天使が作り出した炎煉獄の火炎発動!』」
闇と火の属性を混合させた属性魔法、煉獄の火炎。
ケルベロスを模した黒い炎が対象を食らいつくすというこの魔法、威力は申し分ないのだが、とにかくスピードが無いことが弱点だ。
しかし今は敵が氷漬けで動けない状態、スピードに関しては気にしないが、気を付けないと換金する部位が一つ残らず燃え尽きてしまうなんてこともあり得るので、ずっとギルドカードをかざしておく。
一匹が戦利品になる。もう一匹もその内なるだろう。
「早くしろ―。」
そう呟いた瞬間もう一匹のドラゴンも戦利品になった。
「よし、次は三つ目のクエストだ。」
山の中のモンスターについては、草原にいたモンスターが少し強くなった奴や大きくなった奴しかいなかった。
「よし。」
粗方狩り終え、戦利品をとり終え山を下って行き、手紙を届ける。
また山を越えて元の王都へ戻る。
「はぁはぁはぁ。」
あの戦闘の後も魔法をぶっ続けで使って、しかもずっと走りっぱなしだったのだ。勇者といえど、これは辛いものがある。
その日はギルドによらずに帰ると、ルナのタックルを食らったのであった。