始まり18 『ぶっ飛ばしてやる!!』
「「「あぶないっ!」」」
ハッとなって後ろを振り返る。見えたのはこちらに向かってくる黒い剣と、それを持っているのはさっきの黒い奴の腕だけだと言うこと。
頭の中では出来る限りの防御系の魔法を思い浮べて見るが、唱え終わるまでに俺の体はミンチになってしまうだろう。
そこまで考えて、自分の中で割り切り、この剣でできるだけ衝撃を受けて、後ろに吹っ飛ばされることにした。
しかし、実際そうはならなかった。
兄貴が金色の装備をつけて、腕だけの敵に突っ込んだからだ。
「兄貴!?」
「速く体勢を立て直せ!そのまんまじゃやられるぞ!」
「分かった。」
すばやく体勢を立て直し、空中でどんな事にでも対応できる体勢をとった。
「兄貴!下がって!」
「ガハッ!」
遅かったか。
兄貴は黒い剣の攻撃をもろに受けて、城壁を越えて森の中へと吹っ飛んで木々をかなり薙ぎ倒していった。
黒い腕の周りに真っ黒な肉片が徐々に集まり、体になっていく。
『ザ・・ン・・・ネ・・ン・・・ダッ・・タ・・・ナ。コ・・・ノテ・・イド・・・デ・・・ワタ・・シ・・ガヤ・・・ラ・・・レル・・トデ・・・モ・・・オモッ・・テイ・・・タ・・・カ?』
「・・・ゆるさない・・・。」
『・・・?』
「お前は絶対許さない!!!」
『!!』
・ ・ ・
「この殺気・・・。」
「どうかしたか?桃香よ?」
「ええ。嫌な感じがするんです。」
「嫌な感じだと?」
「はい。ソウく・・・王が心配だからと言って飛び出して数分後、多分もう着いていてもおかしくないでしょう。そんな時にいきなり叩きつけるようなこの殺気です。心配としか言いようがありません。しかも見てください。」
「如何した?」
「あそこ、黒く見えませんか?」
「あの場所は、先ほどまで勇者が居たところではないのか?」
「はい。多分ですがアレは私が預けた兵器の一つです。」
「兵器だと?」
「はい。しかも一番性質が悪く、一度使えば数十秒で国一つが滅ぶようなものです。」
「・・・。」
「しかし、アレを使ったとなると、使用者が心配ですね。」
「それほどなのか?」
「ええ。無事だといいんですけど・・・。」
・ ・ ・
右手首に有る黒い腕輪に手を当てる。
「おいで・・・。」
そう言ってI●もどきを呼び出す。
これを作ったのは、桃香先輩で、I●の様にシールドエネルギーなどは無く、防御は薄っぺらいし、容量があって、それで武器を使えるわけでもない。装備の一部として組み込まれているだけだ。それでも自立型の防御用のビットが搭載されていたり、空間圧縮型のハンドガンがあったり、電磁砲があったり、自動追尾形のミサイルが搭載されていたりする。それ以外にも色々武器が搭載されている。
しかしあの人はこれを一人で、しかも自力で全てを設計、製作したという人じゃないレベルのことをやってのけていた。
頭で言えばこんだけ異常な幼馴染、身体能力で言えば異常な兄を持っていれば、大抵諦めは早くなる。まあ、私がやってきた事にごちゃごちゃとした雑念を持ち込めばやられる。なーんてこともあるけど、まあ、魔法が使えるゲームの世界に来ちゃいましたー、って言われても別にそこまで驚かない(それよりナトリウムを池に放り込んだときのほうがびっくりした)のはこのせいだ。
ま、それは置いておこう。今重要なのは其処ではない。
こいつには型がいくつかある。今使おうとしているのは、一対多に特化した銃の型だ。
「行くよ。」
敵をロックオンすると、両腕の自動追尾形のミサイルを発射する。撃ち終えると、両肩にある電磁砲を発射。そして両足に有る空間圧縮型のハンドガンを二丁を一組、三組使用する。それは、一組づつでて、撃ったら投げて戻す、撃ったら投げて戻す。そして戻ると自動的にチャージされるため、次出てきたときにはもう撃てる様になっている。そして仕上げに同じく足にあるレーザー銃で跡形も無く焼き尽くす。
「ふぅ。」
これを終え、ふとさっきの奴が居た場所を見ると、黒い剣が落ちていた。
「あれだけ撃ち込んだのに壊れなかったのか・・・。」
折角なので拾って、兄貴のところへ向かう。
・ ・ ・
兄貴は数キロ先でぶっ倒れていた。
城壁を越え森に突っ込んだため、木々を数本圧し折り血だらけになって倒れていたが、まだ死んではないようだ。流石丈夫だね、としか言いようが無い。
「にーちゃーん。聞こえる?」
「・・・な・・・ん・・だ?」
「意識はあるね。よし、これから治癒魔法をかけるけど、注意事項が二つ、まず一つは喋らないこと、二つ目は意識を保つこと。」
「わ・・かっ・・ゴフッ。」
あ、血を吐いた。
「喋るなって言ったでしょ!」
「ゴフッ!」
あ、思わず頭に打撃を食らわせてしまった・・・。
「んじゃ、行くよ。」
「(こく)」
首を縦に振ったから良いってことかな?よし、やるか。
「『われが唱えしは、祝福の賛歌。人の身を癒し、ひと時の安らぎを与える音色。この音を聞きし者は、傷を忘れ、安らかな眠りにつく。さあ、その耳で、いや全身で聴け、我が響かせし、祝福の賛歌を。』」
きれいで澄んだ音が響き渡る。それに合わせて私の口は勝手に開き歌い始めた。その声と音色は絡まり、離れ、3つにも4つにもなり、再び絡み合い、兄ちゃんの中に入っていく。それは内側から兄ちゃんをの傷を癒し、眠らせた。
「さて行くか。」
機体を装備したまま、黒い剣と兄ちゃんを担ぐ。
「はぁ、これを使ったってばれてるよなぁ。」
最近溜め息が増えてきた気がする。
「はぁ。」
本日何回目か分からない溜め息をついた。
やっと終わった・・・。
疲れました…。
変な所があったら何でも言って下さるとありがたいです。