新しいサメのかたち
水族館のサメに足が生えた。本来必要ないものだが、観覧者には大人気だ。
テレビのレポーターは無責任にはやし立てる。どこかの大学教授が個人の見解を発表する。
そうは言っても、当のサメはそんな連中おかまいなしだ。
夜になると小腹が空くのか、水槽を抜け出して、館内の土産物屋にあるクッキーなどを食い散らかす。
いずれは館を抜け出す算段をしているのだろう。どんより曇った目の先には、館内案内図が常にある。
現在地の赤い印を理解しつつあるのだ。
春になって水温が高くなれば、こんな所はおさらば、なのだろう。
世界のどこかにいるという、美しいイタチザメを探しに行くのだ。その足で。
ところがサメが寝ている隙に、館長自らノコギリを持って、サメの水槽に忍び寄る。
本来はないものなのだから、切り落とすのにも抵抗はないのだろう。
連日、館をにぎわせていたサメの足だが、その人気もそろそろ下火だ。
脱走されて、人を襲いでもしたら、それこそ問題になるのだから。
これは正しい判断だ、と呟きながら水槽に向かう館長だったが。
そこにはすでに手も生えて、長い髪の毛を水中に漂わせる、サメがいた。
これからのサメはこうでなくちゃ。
小説を書くリハビリをしようと思い書いた短文。
ごくごく短いものですが、読んでいただけたら幸いです。