目に見え
名づけるなら、20%ファンタジーと言った物でしょうか。
キーンコーン カーンコーン
授業終了、加えて今日の学校終了のチャイムがスピーカーから校内へと響いた。
それじゃ、今日はここまで。という先生の声、日直のきりーつ、礼。が終わると、クラスメイト達は放課後の行動に移りだした。無論、僕も例外では無い。教科書を鞄に押し込んで、掃除係ではないのを確認後、教室を一人足早に出た。
外靴に履き替え、速度を落とさずに早歩きを続ける。
帰宅の為、電車に揺られて5駅。この辺りでは都会と呼ばれる所で下車、残りは歩きだ。
大きな橋の上に来る。時間が時間なだけに人の通りが多い、その中を流れに乗って歩き続ける。
ふと、時間確認の為に携帯を開く。メガネのレンズを合わせてディスプレイを見る。
えっと……度が強すぎて見辛いな。やっぱり外そうかな……でもな、あえて見えにくくしてるから……
その時、
きゃああぁぁぁぁぁあ!
「?」
声の聞こえた方向、周りの人は上空、僕には真上を見ると…
ドッスン! うん、そんな音が似合うだろう、そんな音を立てて僕の上に何か落ちてきた。
「いたた……」
落下してきた何かが声を上げた。いやいやちょっと待て。
「痛いのはこっちだよ……」
こっちは押し潰されて固い地面に顔からぶつかった。メガネが割れかけたが、なんとかセーフ。
「え? ダレ?」
落下してきた誰かは気づいていないみたいだ。
「下だよ、キミの真下」
「え?」
そこでやっと気づいたらしく、
「ご、ごめんなさい」
慌てて上から退いた。
僕は立ち上がり、落下してきた人を、よく見えないメガネをずらしてよく見た。
それは少女で、日本人離れした長い金髪に、青い瞳。フリルのついた青いワンピースを着ていた。
こんな格好の子が居るのがすでに珍しいのに、何で降ってきたり……しかもこの辺りは橋のせいで周りに高い建物が無いからどうやっても落下してくるのは無理な筈なのに。
「えっと……大丈夫ですか?」
一応安否を聞いてみる。すると、
「あ、あの! 助けて下さい!」
……はい?
何故今会ったばかりのこの子は、今会ったばかりの僕に助けを求めて来たんだろう?
「わたし、今追われてて、それで捕まって……空を飛ばれたんですけど、暴れたら何とか外れて、でも空中だった事忘れてて……」
見た目に反して日本語上手いな。とか思いつつ。
「それで僕の上に落ちてきた。と」
「は、はい」
「捕まったって、何に?」
聞いてからちょっと後悔した。関わらない方が得策だった筈だからだ。
「それは……あ、アレです!」
女の子が僕の後ろを指差した。
振り返って、メガネを上にあげて見ると。
そこには、言うなれば悪魔みたいなものがいた。
人並み外れた黒い肌、白黒目概念の無い赤一色の目、頭には二本の角が、背中には一対の灰色の翼が生え、それをバッサバッサと羽ばたかせて地上に降り立った。
……なるほどね。
僕の後ろでふるふると震えながら悪魔を見る女の子に訊いた。
「アレが見えるの?」
「は、はい……って、見えるの、って……」
「ん、分かった。任せて」
僕は肩にかけていた鞄を外し、
「コレ持って、少し離れてて」
「え? で、でもアレは」
「大丈夫、任せて、あぁ、後コレもお願い」
僕はメガネを外して女の子に渡した。
「は、はい」
女の子はぱたぱたと走って僕と悪魔から離れた。
さてと……僕は悪魔を正面に見た。
悪魔が僕を見て、翼を羽ばたかせて少し空中に浮いた。
僕は右手を前に出して、握り拳を作る。少ししてからその手を開き、上に、そこから、右から左へ弧を描く。
すると、開いた手が通った軌跡に赤い光が残った。その光は次第に集まって明るさを増し、一瞬の内に消えた。そして光が消えた軌跡上には、柄と刃のみ、飾り気の一切無い鎌があった。僕はその柄を握り、悪魔に刃を向けた。
すると悪魔は、両の手のひらに黒い球を作り、地面に落とした。地面につくと、球は膨張しつつ形を変え、真っ黒な犬のような形と成った。
その犬が僕へと迫った。同じタイミングで飛び上がって左右から僕に噛みつかんと口を開いて飛び付く。
僕は後ろに飛んでそれを避ける。犬達は数秒前まで僕がいた所に着地、その隙をついて僕は足に力を入れて前へ、鎌を振り上げて、降り下ろす。右側にいた犬を斜めに両断した。
残った左側の犬が再度僕に迫る。僕は鎌を下から上にU字に切り上げ、犬を縦に切った。
切られた犬は風に舞う塵のように消えてしまう。それを確認した後、僕は悪魔へと向かった。
悪魔は右手を握って繰り出す。僕は鎌を前に構えてその拳を当てさせる。悪魔は左手は拳にせず、再び黒い球を作ろうとしていた。
鎌を引いて右手を外すと、左手に向けて振るった。黒い球を真ん中から切り裂く。
だが悪魔は、フリーになった右手で僕を殴った。
避ける間もなくてくらい、僕は後ろへすっ飛ぶ。
「うくっ……」
着地して、体勢を直すと、悪魔はその間に僕へ近づき再び拳を振るってきた。
「二度目は当たらないよ」
僕はその場にしゃがむ、悪魔の拳が頭上を過ぎると、前へと跳ぶ。右手の下を潜って悪魔の後ろを取った。
悪魔が慌てて振り返ろうとするが、
「遅いよ」
僕はすでに鎌を振り上げていた。
そのまま、手の力と重力に従って、縦に降り下ろす。ザシンッ! そんな音と共に悪魔は縦に真っ二つ。先ほどの犬のように消えてしまった。
「……ふぅ」
正直後ろを取れるかは賭けだったけど、上手くいったから良かった良かった。
「だ、大丈夫ですか!?」
女の子がぱたぱたと駆け寄って来た。
「い、今殴られて、吹き飛ばされて!」
悪魔の拳を受けた僕を心配してくれてるみたいだ。
「あぁ、うん。それは大丈夫だけど…」
僕はメガネを貰いながら、周りを見た。
――――――え? 何、今の?
――――――今あの子、何をしたの?
――――――女の子は何を指差したんだ?
――――――男の方が宙に浮いたよな?
――――――んな事言ったら女の子なんて上から落ちてきたんだぞ?
――――――急に動き出したと思ったら、急に止まったけど……
周りから様々な言葉が聞こえてくるけど、一番多いのは、やっぱり、
――――――あそこに、何かいたのか?
……やっぱり、か。
正直コレを避ける為に、視力が良いのにメガネをかけたりしてるのに。
だから、僕は場を静める言葉を唱えた。
「急にすみませんでしたー。特撮の撮影でしたので、お気になさらないで下さーい。実際にはCGが付きますのでー」
コレを聞いた人達は、
――――――なーんだ撮影か。
――――――CGが付くと派手な戦闘シーンになるんだろうな。
――――――てことは、男の子が飛んだのはワイヤーアクションってやつ?
その嘘を信じきって、視線を僕達から進行方向へ戻し、再び歩き始めた。
「あ、あの……」
女の子が僕の服の袖を引っ張る。
「何か?」
「い、今の嘘はいったい……?」
女の子は騙されない、そりゃそうだ。さっき悪魔に捕まったんだから。
「ちょっと、場所を変えよう。そこで説明するから」
僕達はその場から移動した。
とりあえず人目の少ない場所、と思って歩き続けると、人のいない公園を見つけた。時間帯的に子どもは帰った後なんだろう。僕達は公園のベンチに並んで腰かけた。
「さっきの嘘の意味だったね」
話を切り出す。
「は、はい」
こくりと頷いた女の子を見て、まずは僕が訊ねる。
「ところで、さっきみたいなのは今日初めて見た?」
「いいえ、昔から何度も見ました。その時は追われなかったんですが」
なるほどね。
「あの、それが何か?」
「うん。簡単に言えば、アレを僕は悪魔と呼んでいる。ただアレ等は、普通の人には
見えないんだ」
「え……?」
女の子が目を丸くした。それを知らなかったんだろう。
先ほどの周りの人の声で分かると思ったが、悪魔は限られた人にしか見えない。僕が出した鎌同様に。
つまり見えない人にとってさっきの状況は僕が唯一人で飛んで跳ねて何かを持っているように手を振っていたようにしか見えないのだ。
最初にそれを知ったのは、悪魔を倒した後に、友達にお前今何してたんだ? と言われた時だ。
それ以来、周りの視線を妙に感じるようになり、打開案として、あの嘘が思い付いた。それと同時に、なるべく悪魔と戦わずに済む方法を考えた結果、
「悪魔は自分が見える人と目を合わせると襲ってくる。だから僕はわざとメガネをかけてるんだ」
実際の視力はメガネ不用な程に良い。けど悪魔と目を合わせない為、わざとメガネをかけて視界ぼやかしているんだ。
「見たくない、関わりたくないものは、見ないように努力するか、ぼやかして見るのどちらかをすればどうにかなるんだ。キミも、メガネをかければ悪魔と目があってもきっと襲われなくなるよ」
「な、なるほど……」
「良かったら、このメガネを買ったところ紹介するけど?」
「い、いえ、そこまでしてもらわなくても」
「いいよ、ただ同じ状況で悩んでいるキミを、僕がただ助けたいだけだから」
「で……では、お願いします」
「うん。了解」
僕達は立ち上がり、歩き出した。
僕や彼女のように、他の人達には見えない何か、それが見えてしまう僕達は、どうにかそれを避けようと、色々な努力をしているんだ。
きっとその形は様々で、その人にしか見えないようなものもいるだろう。
時には嫌でも向き合って進まなければいけないだろうけど。
見たくない、関わりたくないものは、見ないように努力するか、ぼやかしてちゃんと正面では見ない。
そのどちらかをすれば、案外どうにかなるかもしれない。
ほら、例えばキミの後ろの……
人物名無し、人と物描写多め、戦闘シーン過多。そして自分には珍しい、他との繋がりの無い単独小説です。
主人公の言っていることは多少ネガティブかもしれませんが、時には、嫌なことから目を背けてもいいんじゃないか。そんな気持ちを込めた物語です。
ご覧いただきありがとうございます。
何か一言、頂けたら幸いです。
それでは、