5
放課後。
鞄を肩にかけて、教室を出る。
いつも通り、何も考えないようにして、ただ帰るだけのつもりだった。
「湊、帰るだろ?」
後ろから声がかかる。
振り返ると、翔がいた。
――と。
「湊、一緒に帰ろ」
ほぼ同時に、反対側から陽菜が声をかけてくる。
「あ」
「……」
二人が、わずかに顔を見合わせた。
ほんの一瞬の沈黙。
その空気を切るように、湊は口を開いた。
「……じゃあ、三人で帰るか」
できるだけ自然に言ったつもりだった。
「お、いいじゃん」
「……うん」
こうして、三人で帰ることになった。
校門を出て、いつもの帰り道を歩く。
翔が中心になって、話は途切れずに続いていく。
「でさ、その先生さ――」
他愛のない話。
笑いもある。
普通の放課後。
けれど――
どこか、落ち着かない。
視線の端で、陽菜の存在を感じる。
昨日のこと。
昼の、あの一瞬の表情。
頭から離れない。
それでも、会話は続いていく。
やがて、分かれ道に差し掛かった。
「じゃあ俺、こっちな」
翔が手を上げる。
「おう」
「また明日な」
軽く言って、去っていく背中。
その姿が見えなくなると、急に静けさが戻ってきた。
隣には、陽菜。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、言葉がなくなる。
並んで歩く。
何も話さないまま。
ただ、足音だけが揃う。
やがて、信号に差しかかる。
赤。
立ち止まる。
夕方の光が、少しだけ傾いている。
そのときだった。
「ねえ、湊」
不意に、陽菜が口を開いた。
「……ん?」
横を見る。
目が合う。
逃げ場のない距離。
そして――
「私、知ってたんだよ」
静かな声。
「お姉ちゃんのこと、ずっと好きだったって」
「……っ」
一瞬で、息が詰まる。
言葉が出ない。
頭の中が真っ白になる。
「な、に……言って――」
とっさに言葉を繋ごうとする。
「別に、そんなのじゃ――」
「嘘」
即座に、遮られた。
強くもないのに、逃げられない声。
「ずっと見てたもん」
陽菜の視線が、まっすぐ向けられる。
「お姉ちゃんがいるときの湊、全然違うし」
何も言い返せない。
図星だった。
「……でもさ」
陽菜が、一歩だけ近づく。
「だからって、私が引く理由にはならないよね」
「……え」
思わず、顔を上げる。
「むしろさ」
少しだけ、笑った。
けれどその奥は、まっすぐで。
「邪魔な人、いなくなったし」
ドクン、と。
心臓が、大きく跳ねる。
「ずっと思ってたこと、ちゃんと言おうって決めたの」
信号は、まだ赤のまま。
時間が、やけにゆっくり流れている気がした。
「湊」
名前を呼ばれる。
逃げられない。
逸らせない。
まっすぐに、見つめられる。
その目から、何も隠されていないのがわかる。
ずっと隠していたものを、
全部、今ここで出そうとしている。
そして――
陽菜は、はっきりと言った。
「だって、私もずっと湊のことが好きだった」




