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2017年
Ⅰ章 〘接触〙
雷鳴が響き渡り、激しい雨が降る中、崖下の岩影に体を押し込み身を潜める。荒れた息を整え、静かにじっと痛みに堪える。
滝のように流れ落ちてくる雨水。
小石や砂利までもが落ちてくる。
その時、崖上から話し声が聞こえてきた。
耳を澄ませ会話を聞き取る。
かぎかっこったく、どこに行きやがったんだ!!」
「いたか?」
「いない。お前がちゃんとボルトを当ててれば、こんなことにはならなかったんだ」
「こんな嵐の中、あんな深い森で走っていたんだぞ。かすっただけでも感謝しろよな」
何らかの魔法を唱える音が聞こえてくる。
「はぁ〜、駄目だ。完全に血が流れてしまって、奴の痕跡は追えない」
突然近くに雷が落ち、木が燃え上がりながら倒れ落ちた。
更に数回周囲に連続して雷が落ちる。
「あー!! これはやばい。さっさとずらかろう」
「ああ、くそ! ツケを払える程の大金が手に入ったかもしれないっていうのに」
「大丈夫だ。また明日、白夜から探せばいい。な?」
「酔って誰にも言うなよ」
「分かってるさ」
「よし行こう」
足音が遠ざかっていき、嵐の音だけになる。
「ふー」激しい鼓動を落ち着かせ、脇腹に刺さった銀のボルトをゆっくりと引き抜く「ん゛ーー」必死に口を閉じ声を抑える。
引き抜いた銀のボルトを地面に捨て、地面の泥を傷口に塗っていく。
あのウッドエルフの女をラヴェジャーから救うべきじゃなかった。
俺は存在してはいけない者なんだから。あの時の俺を見る彼女の表情が、いつまで経っても頭から離れない。
痛みを堪えながら泥を塗り終わり、岩影から外へ出る。
行く宛などない。
だがもうこの森には隠れていられない。ここにいれば遅かれ早かれハンターに見つかり、人々に知れ渡るのは時間の問題だ。
帝国と反対の方角に向かえば、自分にとって安全な国がまだ存在するかもしれない。
正直この森から離れたくはない。やっと慣れてきたところだったのに。
複雑な心境と受けた怪我の痛みの中、激しい雨に打たれながら新たな国を目指す。
ウェアウルフへ姿を変えた後、雨に打たれながら暫く森を進んだ。
そして一度木の枝で足を止め、周囲を眺める。
魔物や獣達はこの嵐で巣に身を潜めているのだろう。
いま縄張り争いが起きないのは良いが、どうも腹が減ってきた。
この森を出たら暫くは獲物にありつけそうにない。何とか出る前に この空腹を満たさなければ。
木々の枝を素早く飛び移って移動し、更に先へと進んでいく。
こんな森の端まで来るのは久し振りだ。
サイクルの縄張りだが、今日ばかりは心配ないだろう。
黄色い木の実がなっていた。
空腹に負け木の実をもいで食べる。
甘くて美味しい。
パッションフルーツかと思ったが、小さいだけのカニステルだった。
嵐の風を浴びながらフルーツを次々と夢中で食べていると、鼻にこびりつく血の匂いが漂ってきた。
僅かだが、遠くから風に乗って来ているのが分かる。
こんな嵐の中でもにおってくるとは相当だな。
空腹だからか?
においがする方角は丁度進行方向だった。
どうせなら確かめてみよう。
あっという間に木の実がなくなってしまった。
木々の枝を飛び移り先へ進む。
進むにつれて、においは次第に強くなり不穏な感じがしてくる。
止まり耳を澄ます。
すると無数の激しい羽音が聞こえてくる。
おそらく蝙蝠だろう。
だが蝙蝠の羽音と共に聞こえて来るのは種族達の悲鳴だった。
恐らく集落が吸血鬼の群れに襲われているのだろう。
さらに近づき様子を伺う。
その予感は的中し、吸血鬼達が群れになり種族達を襲っている。
蝙蝠に群がられ、姿が見えた頃にはミイラのように干からびていた。
俺は未だに種族の肉の味も、血の味も知らない。
理性的な種族を故意に襲う吸血鬼達の感情は理解できない。
そんなに種族の血は旨いのだろうか?
だが逃げ惑う種族よりも吸血鬼の肉を味わいたい。そんな衝動が頭を駆け巡る。
駄目だ。
目を瞑り、深呼吸をし、周囲の音を消す。
そして自らの魂を落ち着かせる。
「奴らを、殺せ」
「な!?」周囲を急いで見回すが、誰もいない。
「奴らを殺すのはお前の使命だ。さあ殺れ」
両手で耳を抑える。
これは幻聴。そうに違いない。
本能に溺れる手前だ。抗わないと。
深呼吸をし、必死で声に抗う
もう一度目を瞑ろうとした時、周囲の雨粒が静止し、辺りから一切の音が聞こえなくなった。
周囲を見渡すと、時がまるで止まっているかのようだった。
「一体どうなってるだ!?」
不安で仕方がない。
その時、正面の空中に黄金の狼が現れ、宙をゆっくりと歩きながらこちらへ向かってきた。




