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営業

※本作は、現代を舞台にした因習・伝承をモチーフとしたフィクションです。

実在の人物・団体・地域とは一切関係ありません。

静かな不穏さや後味の残る表現が含まれますので、苦手な方はご注意ください。

これは、俺の人生で最も濃くていつまでも脳裏にこべりついている


柏木修二、二十七歳会社員アパレルブランドの営業課に属しており営業成績は中の下で伸び悩んでいる。

「柏木、ちょっといいか」三つ上の先輩に呼ばれた。

「はい、なんですか。」

「オマエ最近営業成績伸び悩んでいるだろ?そこでだ、俺がでっかい案件見つけてやったぜ!」

この人はいつもこうだ。自分で勝手に決めて毎回俺を振り回す。でもこんな俺をいつも気にかけてくれる、うざいけど尊敬している先輩だ。それにしても急すぎやしないか。

「危ないやつじゃないですよね?信用ならないんですけど。」

「おいおい、俺を何だと。生意気な奴だなほんと。だがな、今回は一味違うぞ。この営業が成功すれば、部長、いや、課長も夢じゃないぞ!」

「より怪しいです。」

先輩はいつも以上に興奮した様子で、ひそひそとその案件とやらを話し始めた。

「白繭村って聞いたことあるか?昔にな、養蚕業で財を成してめちゃくちゃ質の高い絹織物を作る村なんだけどよ。実はその織物美しいだけじゃなくて、病や怪我にも効くらしいんだ。」

「あぁ、聞いたことありますよ。でもその村、外、特に都会からの交流をひどく嫌っているじゃないですか。他の企業も何度か足を運んだけど、門前で追い出されたって。」

「そこなんだがよ、俺二か月前結婚したって言ったろ?で、俺の妻のお爺さんが白繭村に住んでるんだよ。だから今度妻と帰省するときに、ついでについてこれるんじゃねぇかって話なんだよ。」

「それなら、先輩が営業すればよくないですか。」

「ばっかオマエ、そんな事したら俺二度とあの村に行けなくなるよ。」


俺はしばらく考えてこう言った。

「いや、やっぱいいです。奥様にも申し訳ないですし、うまくいく未来が見えません。」

「おっと、そこは安心してくれ。俺の妻は歓迎してるからな。」

なぜ、こういうときだけ用意周到なんだろう。たぶん断ってもずっと言い続けてくるだろうなと思い、俺はついに折れた。

この営業に関してはすでに先輩が上司からの許可をもらっていて、とんとん拍子に話が進んでいった。


数週間後

「本日はどうぞよろしくお願いします。」

先輩の奥様の小夜さんの車に先輩と一緒に乗り込み、白繭村へと向かう日が来た。小夜さんが言うには、白繭村は山奥のはずれにあるため、村の人でないと必ず道に迷うらしい。それでいつも他企業の人たちは諦めて帰るらしい。

険しい山道を数時間走り続けた。俺と先輩は疲れて、村近くに着くまで寝てしまっていた。

「つきましたよ」

小夜さんの声で、俺ははっと目が覚めて周りを見回した。豪勢までとはいかないが、目の前に蝶のような模様が彫られた厳かな大門があり、奥にはまばらに建物が見えた。

「私の実家は村の手前にあるので、少し休んでからお仕事にいかれてはいかがですか?」

俺は、小夜さんに同意し、ご実家に向かった。泊まる用の部屋も用意してくれており、ありがたかった。

だが、この村の門をくぐったあたりから、胃のあたりに違和感があった。気持ちが悪い。

白繭村は廃れてはいないはずなのに人が全く見えなかった。


先輩は山道で酔ったといい、寝込んでしまった。

「柏木さんも体調いかがですか」

小夜さんが心配そうに、お茶を出しながら声をかけてくれた。

「えぇ、大丈夫です。なんていうか、その、人全然いないんですね。」

お茶をすすりながら、窓の景色を眺めた。古い建物がぽつぽつと並んでいて、その奥には大きな屋敷があった。たぶんあれがこの村の村長の屋敷で、俺の営業場所なのだろう。他の企業がことごとく失敗していたことを思い出し、憂鬱になってしまった。

「そうですね、もしかしたら今織部家の屋敷に集まっているかもしれませんね。」

「織部家…この村の村長の家ですか」

「はい。昔に養蚕業で膨大な財を築いた方たちです。月に数回村の人たちはあの屋敷に集まり会議のようなものをしています。」

小夜さんは俺の前に座り、茶柱を眺めていた。

「小夜さんはこの村好きですか?」

俺は何を思ったのか野暮な質問をしてしまった。胃の気持ち悪さは少し収まっていたが、やはり気分が悪かった。

小夜さんは少し黙ってから、どうでしょうとだけ言って、先輩のいる部屋のほうへ行ってしまった。

織部家との契約が成立すれば、自分の会社への利益は想像を絶するものになるだろう。なんてったって、この村の生地は、人々を陶酔させるほどの輝きで国内外から最高峰として評されている。

そこまで評価されているものの、世間には全くと言っていいほど出回っていない。国が買い占め、管理しているという噂もある。

どうせ失敗するだろうし、今回は田舎で少し都会の疲れをクールダウンしようと思い、ほっと溜息をつき窓から外を眺めた。

この時俺は、この村の違和感を気のせいだとし目をそむけたが、すぐに突き付けられることになるとは思いもしなかった。

因習とか閉じた村の話が好きで書きました。

短編中心で、少しずつ明らかになるタイプの物語です。

趣味で書いているので温かく見守って下さると幸いです。


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