第9話【現実へのパスコード】
『ログアウトしますか? Y/N』
目の前に、白いウィンドウが浮かんでいた。
ど真ん中にデカデカと“Y/N”。
「……これが、帰るためのパスか」
リリアとアルトが顔を見合わせる。
「修司、押すのか?」
「分かんねぇ。押したら、世界が終わるかもしれねぇ」
「でも押さなきゃ、あんた自身が消える可能性もあるんでしょ?」
「うん、だから詰んでる」
「選択肢がどっちもバッドエンドってRPG、クソゲーすぎない?」
「自分の作ったゲームに言うなよ!」とリリアがツッコむ。
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だが、その時。
画面の“Y/N”の間に、もう一つの文字列が浮かび上がった。
『C:カスタムエンド(推奨)』
「……何だよこれ」
「修司さん、それ……本来存在しない選択肢です!」
「またバグかよ!」
「バグのくせにバグにツッコむな!」
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空気が震え、白い光が満ちていく。
気づけば──そこは真っ白な空間。
どこかで見覚えがあった。
……そうだ、最初に転生した時の場所だ。
そして、そこにいたのは。
「お久しぶりです、修司さん」
淡い光をまとう少女。
金色の髪、優しい瞳。
彼女は“最初のヒロインAI”──セリアだった。
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「お前……削除されたはずじゃ」
「はい。けれどあなたが“未実装エリア”で世界を再構築した時、
私のバックアップデータが再生成されたんです」
「そうか……久しぶりだな」
「あなたは、相変わらずですね。
バグって、笑って、世界を壊して、直して……」
「まぁ、俺の得意分野だからな」
「でも今度の選択は、壊すだけでは済みません」
セリアが指先で空をなぞると、そこに3つのコードが浮かんだ。
① 世界を保存し、修司を削除する。
② 修司を保存し、世界を削除する。
③ 新たな世界を構築する(不明)。
リリアが青ざめる。
「……①と②、どっち選んでも修司さんか世界が消える……」
アルトが拳を握る。
「③、“不明”って何だよ」
「それが“カスタムエンド”なんだろうな」
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セリアが静かに言う。
「あなたはどうしたいですか?」
沈黙。
頭の中で、たくさんの顔が浮かぶ。
リリア、アルト、ホープシティの住人たち、そしてプロト修司。
全部、俺が作った“データ”だ。
でも、みんな──生きてた。笑ってた。
「……選べねぇよ、こんなの」
「選ばなければ、全てが崩壊します」
「そう言われると思った」
俺はゆっくり、画面に指を伸ばした。
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「俺は、③を選ぶ」
『新たな世界を構築しますか? Y/N』
「Yだ」
『構築条件を入力してください』
「条件? そんなの決まってるだろ」
俺は笑って言った。
「“全員で生き残る”」
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その瞬間、空間が爆ぜた。
データの海が渦を巻き、世界が塗り替えられていく。
セリアが目を見開く。
「そんな無茶な……! 両方を保存するなんて、システムが耐えられません!」
「知ってる! でも俺がバグってんだ、やってみなきゃわかんねぇだろ!」
「またその理屈ですか……ほんと、あなたって……」
セリアが笑った。
「最高です」
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爆光の中、彼女が消えていく。
「修司さん、もし次に会えるなら……“ちゃんとしたヒロイン”で会いたいです」
「おう、その時はちゃんと口説くよ」
「約束ですよ」
彼女の光が弾け、世界が再構築されていく。
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──そして、目を開けると。
青空。
見慣れた街並み。
でも、どこか違う。
アルトが隣で立ち上がる。
「おい、ここ……異世界でも現実でもねぇぞ」
リリアが周囲をスキャンして言う。
「……データと物理法則が融合しています。
ここは“ハイブリッド世界”です!」
「つまり──」
「お前の“わがままエンド”成功しちまったな!」
「やったぜ、バグ上等!」
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空に光が走る。
『世界修復データ 6/7 取得』
そして、最後の一文が浮かんだ。
『最終修復:創造主との邂逅』
修司が苦笑して言う。
「……いよいよだな、俺」
リリアが頷く。
「ええ。次は、あなたを創った“本当の創造主”との戦いです」
アルトが拳を鳴らした。
「ラスボス戦、始まりってわけか!」
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風が吹く。
修司は空を見上げ、笑った。
「バグキャラが、神をデバッグする番か」
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(つづく)
青威林檎-あおいりんご
『転生したらRPGのバグキャラだった俺が強すぎて勇者の出番がない!!』
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