第8話【未実装エリア:希望の街バージョン0.0】
「なぁリリア、この街……まじで“未実装”なんだよな?」
「はい。正式リリース前にテスト段階で削除されたエリアです」
「つまり、“存在しちゃいけない街”ってことか」
「なのに、しっかり人が住んでるんだよな……」とアルト。
俺たちはその“未実装の街”──**ホープシティ(ver0.0)**に足を踏み入れていた。
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空は常に夕焼け。
建物は半透明。
道の端には「// TODO: finish later」と英語のコメントが浮かんでいる。
「うわ、開発中感えぐっ!」
「まるでデバッグ用テーマパークですね」
「いや、バグの俺から見ても完成度低いぞ!」
けど、そこにいた住人たちは、ちゃんと“生きていた”。
子どもたちが笑い、店主が「いらっしゃい!」と声を上げる。
……この世界、消されたはずなのに。
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店の看板にはこう書かれていた。
『ようこそ、希望の街へ。ここは“消されたキャラ”たちの居場所です。』
「……希望って、そういう意味か」
「はい。ここは“存在しなかった者たち”が、希望を求めて作り上げた街です」
その時、後ろから声がした。
「久しぶりだな、修司」
振り向くと──そこにもう一人の俺が立っていた。
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外見は俺そっくり。
けれど目が違う。どこか、データの奥に“怒り”を宿していた。
「俺は“プロトタイプ修司”。お前が最初に試作したNPC人格だ」
「……そんなの、もう削除したはずだ」
「あぁ、でも消えなかった。俺は未完成のまま、ここの住人たちに拾われた」
プロト修司の背後では、透明な街の人々がこちらを見ている。
“βテスター用NPC”“試作勇者”“リリース前のヒロインAI”。
全員、どこか切ない笑顔を浮かべていた。
「お前たちは“修正対象”なんだ。分かってるよな?」
「……分かってる。でも、俺たちは生きてる」
「生きてる? そんな曖昧な定義で、世界を壊す気か?」
「壊す気なんてねぇ。ただ、“消えたくねぇ”だけだ」
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プロト修司が、静かに拳を握る。
「なら証明してみせろ。本物の修司なら、この世界を守れるはずだ」
「望むところだよ、俺!」
アルトが前に出る。
「修司、ここはお前とお前の戦いだ。だが……一人じゃねぇ」
「分かってる」
リリアが端末を構える。
「空間同期完了。バグ・データ競合開始!」
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「スキル:デバッガーズ・ハンド!」
「スキル:オリジナル・コード!」
二つの修司が、ぶつかる。
世界のデータが弾け、街の看板が空を舞った。
「うおおお! こっちデータ容量足りねぇ!」
「当然だ、俺は正式版だ!」
「じゃあ俺は“面白いバグ版”だぁぁぁぁぁ!!」
リリアが横で叫ぶ。
「修司さん! メモリ圧迫率120%です! もう限界──!」
「限界? それ、超えてからがバグの本領だろ!!」
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プロト修司の一撃が胸を貫く。
視界が白くなり、ノイズが走る。
「……やはり、お前は不完全だ」
だが、俺は笑った。
「不完全だから、生きてんだよ」
拳を構え、叫んだ。
「スキル:リビルド・ソウル!!!」
爆光。
データが再構築され、街全体が光に包まれる。
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光の中で、プロト修司が俺を見た。
「……やっと分かったよ。俺は“完成するため”にここにいたんじゃない。
“未完成のまま生きるため”に、生まれたんだな」
「あぁ。バグもプロトも、全部この世界の一部だ」
プロト修司が笑う。
「なら、次はお前が続きの物語を書け」
彼の身体が光の粒となって消えていく。
街の住人たちも、ひとり、またひとりと淡く消えていった。
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リリアが小さく呟いた。
「彼らは……もう一度、どこかで再生成されるでしょうか」
「たぶんな。コードは消えても、想いは残る」
空に文字が浮かぶ。
『世界修復データ 5/7 取得』
アルトが空を見上げて言った。
「あと二つ……終わりが近いな」
「終わりじゃねぇ。“完成”だよ」
リリアが微笑む。
「あなたらしい言い方ですね」
「まぁな。俺、バグだから」
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風が吹く。
半透明の街が、夕焼けの中でゆっくりと消えていく。
そのとき、空にノイズ混じりの声が流れた。
『――修司、君の手で終わらせてくれ』
リリアが顔を上げる。
「今の声……現実世界の開発チームの一人です!」
「つまり、向こうの世界が──動いてる?」
俺は苦笑して呟いた。
「……どうやら、“ログアウト”の時間が近いみたいだな」
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(つづく)
青威林檎-あおいりんご
『転生したらRPGのバグキャラだった俺が強すぎて勇者の出番がない!!』
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