第7話【バグの終わらせ方】
『最終プロトコル:エンドロール 起動』
世界が白く光った。
空も大地も、音も消え、すべてが“終わり”を迎えるように静かになっていく。
リリアが叫ぶ。
「修司さん! 世界のコードが書き換えられていきます!」
アルトが剣を握りしめる。
「おい、これ……誰がやってんだ!?」
リリアが端末を見つめ、顔を歪めた。
「……修司さんです」
「……は?」
「現実世界の“開発者・田中修司”が、最終削除コマンドを走らせてるんです!」
俺は思わず笑った。
「マジか。俺、俺を消してんのか」
「どんな自己矛盾だよ!?」とアルトがツッコむ。
「開発者の俺は、“バグを修正するために世界を終わらせる”つもりなんだろうな」
「けど今の俺は、バグとして“ここで生きてる”。」
リリアが震える声で言った。
「……どうするんですか?」
俺は空を見上げた。
白い空の向こうに、微かに“コードの海”が見えた。
そこに、もう一人の俺がいる。
「行くしかねぇな。自分と話してくる」
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◆ データリンク開始 ◆
視界が反転し、気づけば真っ白な部屋にいた。
机、パソコン、コーヒー缶。
現実の、あの開発室だ。
そして──そこにいた。
黒いフーディを着た俺。
モニターを見つめながら、淡々とコードを打っている。
「……バグが、喋るとは思わなかったな」
「おいおい、“自分”に挨拶もねぇのかよ?」
「挨拶するほどの相手じゃない。お前は失敗作だ」
「失敗作でも、世界を救いに来たんだよ」
「世界? あんなデータの集合に、救う価値なんてあるか?」
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俺は深く息を吐いた。
「……昔の俺なら、そう言ってたかもな」
「俺は今でもそう思ってる。
NPCに感情を与えたせいで、無限ループが発生した。
勇者が勝てず、魔王が倒れず、誰も“終われない”。
だから、消すんだよ。バグごと、全部」
「違うな」
俺はフーディの俺の胸倉を掴んだ。
「バグが起きたのは、世界が“生きた”からだ」
「……“生きた”?」
「そうだ。勇者も、リリアも、AIも……
みんなちゃんと、自分で考えて、笑って、泣いてた。
それを“エラー”って呼ぶなら、俺は何度でもバグってやる」
⸻
沈黙。
フーディの俺は小さく笑った。
「……やっぱり、俺はお前みたいに不器用なんだな」
「知ってるよ。俺だもん」
「でもな、バグを残したままじゃ、システムは壊れる」
「なら、壊れるギリギリまで動かしてやろうぜ。
“生きてる”ってそういうもんだろ」
「……やれやれ」
フーディの俺はモニターを閉じた。
「なら好きにしろ。ただし──責任は取れよ、バグ」
「上等だ」
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◆ データ同期:完了 ◆
気づけば俺は、また異世界に戻っていた。
空は青く、草の匂いがした。
リリアとアルトが駆け寄ってくる。
「修司さん! 戻ってきた!」
「ああ……ちょっと自分とケンカしてきた」
「勝ったのか?」
「引き分けだな。……でも、話は通じた」
空に光の文字が浮かんだ。
『最終プロトコル 中断』
『世界修復データ 4/7 取得』
リリアが目を潤ませながら笑った。
「……止まりましたね。世界が、続いてる」
「ああ。けどまだ“終わり”は来る。いつかは、な」
「でも、終わり方を選べるなら、それでいいじゃないか」
「……そうだな」
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風が吹いた。
遠くの空に、ゆっくりと浮かび上がる一文。
『再構築:次の物語』
アルトが空を指差した。
「なぁ修司、あれ見ろ!」
「……おい、あれって──」
雲の隙間から、新しいフィールドが現れた。
見たことのない街、未知のNPCたち。
リリアが端末を見て息を呑む。
「……これは、“未実装エリア”です! 本来存在しない場所!」
俺は笑った。
「ははっ、いいねぇ。バグキャラらしいじゃねぇか」
アルトがニヤリとする。
「またバグらせに行くか?」
「おう。次の世界を、ちゃんと生きようぜ」
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『世界修復データ 4/7』
『残り3つ──そして、真のエンドへ』
空に、どこか優しい声が響いた。
「……ありがとう、修司」
リリアが微笑んだ。
「あなたの世界は、まだ終わっていませんね」
「当たり前だ。俺たちの物語は、まだ──」
「バグってる最中だ!」
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(つづく)
青威林檎-あおいりんご
『転生したらRPGのバグキャラだった俺が強すぎて勇者の出番がない!!』
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