第4話【エラーの森の事件簿】
「なぁリリア、なんで俺たち、森に向かってんの?」
「この世界の修復ログによると、“最初のエラー発生地点”がこの森です」
「へぇ……で、その森の名前は?」
「“エラーの森”」
「そのまんまかよ!!」
⸻
勇者アルトが肩をすくめる。
「まぁ、今の世界で“ちゃんと存在してる場所”なんて少ないしな」
「確かに。俺らが歩いた後、だいたい更地になるからな」
「いや、笑えねぇよそれ……」
足元には、バグった地形データがパズルのように歪んでいる。
草が上下逆に生えてるし、木が90度横向きに立ってる。
おまけにモンスターの鳴き声が、Windows起動音。
ピロン♪
「おい今、森が再起動したぞ」
「正常動作です」
「正常じゃねぇよ!」
⸻
森の奥へ進むと、木々の間にちらつく影が見えた。
黒いシルエットのような“人の形”。
だが輪郭が常にノイズでブレている。
リリアが小声で言う。
「……あれが、“未定義モンスター”です」
「存在しない敵、ってやつか」
「はい。名前が設定されていないため、“名無し”として生成され続けています」
アルトが剣を構える。
「やるしかないな」
「待てアルト! 下手に攻撃すると世界落ちるぞ!」
「どうすりゃいいんだ!?」
「わからん! 俺もデバッグ中だ!!」
⸻
名無しのモンスターが近づいてくる。
その身体から、断片的なテキストが流れ出していた。
【if(勇者==null){return;】
【Error:ScriptNotFound】
【田中 修司】
「おい……なんか俺の名前混じってね!?」
「たぶんあなたが原因のバグです」
「やっぱりかぁぁ!!!」
⸻
名無しの腕が伸び、俺の胸を貫いた。
しかし、痛みはない。
代わりに──俺の中に、コードの欠片が流れ込んできた。
『取得:破損コード片A』
リリアが目を見開く。
「それです! “世界の欠片”!」
「……つまり、これを集めれば、世界を修復できる?」
「理論上は。全て集めれば、メインストーリーを再構築できます」
「……そうか。じゃあ、やるしかねぇな」
⸻
俺は胸の奥から力を引き出す。
修司「スキル:デバッガーズ・ハンド!」
画面がグリッチ化する。
勇者アルトがその隙に飛び込む。
アルト「スラッシュ・リライトッ!!」
剣が光を放ち、名無しの輪郭を切り裂いた。
ノイズが霧散し、残されたのは一行のコード。
【Event_Forest_Clear=true;】
森が、静かに色を取り戻していく。
木々が元の形に戻り、空にはピクセルのない青が広がった。
⸻
アルトが剣を収め、笑った。
「よし、これで一件落着だな」
「だな。……って、おい、リリア」
リリアが沈黙していた。
目を伏せたまま、小さく呟く。
「このエラー……元は、“人間が作った”ものです」
「え?」
「この世界の根幹には、あなたの現実世界のコードが使われています」
一瞬、空気が止まった。
俺は息を飲む。
「つまり……この世界を作ったのは──」
「あなたの世界の“開発者”です」
俺はかすかに笑った。
「なるほどな。やっぱ、俺らの世界のバグが、ここにまで来たのか」
⸻
風が吹く。
再生された森の木々が、優しく揺れた。
リリアが少しだけ微笑む。
「修司さん。あなた、本当にただのバグキャラではありませんね」
「いや、俺はバグキャラだよ。けど──」
俺は空を見上げた。
「バグだからこそ、直せるものがある」
その瞬間、リリアの瞳が一瞬だけ揺れた。
『取得:世界修復データ1/7』
画面上にログが浮かぶ。
どうやら、最初の一歩は成功らしい。
……だが、同時に赤い警告も出た。
『警告:魔王領にて異常データ検出』
『未実装イベント:強制展開』
アルトが息を呑む。
「まさか──まだイベントが動くのか!?」
リリアが真剣な顔で頷く。
「……いえ。“誰か”が動かしているようです」
⸻
(つづく)
青威林檎-あおいりんご
『転生したらRPGのバグキャラだった俺が強すぎて勇者の出番がない!!』
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