第3話【勇者がバグりました…】
「確認するけどリリア、勇者のレベルが“−9999”ってどういう状態?」
「簡単に言えば、存在の意味がマイナスです」
「存在の意味がマイナスって、哲学か!?」
勇者アルトは立ち上がっていた。
だがその姿は、もはや“勇者”というよりも、エラーの集合体だった。
髪はグリッチのようにノイズが走り、目は紫に点滅している。
口元からは「ピギ……ピギギギ……」という機械音。
「リリア、これってつまり──」
「はい。勇者がデータの負領域に落ち、別人格を生成しています」
「人格を生成!?」
「負の数の勇者、“ダークアルト”です」
⸻
ダークアルト「この世界……バグってるな」
修司「お前が言うな!!」
勇者はゆっくりと剣を抜いた。
いや、“剣だったもの”だ。
刃の部分がコードの断片になっていて、触れるとバグノイズが走る。
「俺は……勇者アルト。だが、マイナスに転じた存在。
すべての“チート”を無に帰す力を得た……」
リリアが青ざめた。
「チート無効化……!? この世界で唯一、あなたを倒せる存在です!」
「ちょ、マジで!?」
「おめでとうございます。ボス戦です」
「テンションの方向おかしくない!?」
⸻
ダークアルトが叫ぶ。
「バグの王、田中修司──! この世界の秩序のため、消滅してもらう!!」
「いや、俺ただの被害者なんだけど!?」
地面が割れ、真っ黒なコードが走る。
空は赤くノイズ化し、画面の端に“FPS: 2”が点滅。
戦闘開始──。
⸻
勇者の剣が俺に振り下ろされた。
俺は反射的に受け止める。
……指で。
バチィッ。
剣、砕けた。
世界、停止。
『警告:演算オーバーフロー』
「ちょっ……世界止まったんだけど!?」
「あなたの攻防値が高すぎて、演算処理が完了しません」
「リリア、つまりどうすれば!?」
「“ちょうどよく弱くなる”必要があります」
「俺にそんな器用な設定ないんだよ!!」
⸻
仕方なく、俺は新技を試す。
修司「スキル:デバッガーズ・ハンド!」
手をかざすと、視界にコードの束が浮かび上がった。
“勇者アルト”のデータコード。
そこに直接手を突っ込んで、バグ修正を試みる。
「おいアルト! お前、もともと正義感だけはあったろ!? 思い出せ!」
「……記録が……読めない……」
「なら俺が書き換えてやる!」
⸻
コードの中に「勇者=−9999」という行が見えた。
そこに上書きする。
→「勇者=+1」
ピコンッ。
勇者の体が光に包まれる。
赤いノイズが晴れていく。
「……ここは……?」
アルトが正気に戻った。
「やった、戻ったのか!」
「はい。世界の処理も安定しました。……草のレンダリングも復帰しています」
「いや草どうでもいい!」
⸻
アルトは剣を見つめた。
「俺……何をしてたんだ……?」
「お前、負の数になって世界壊しかけたぞ」
「な、なんでそんな状態に!?」
「俺のせい」
「堂々と言うな!?」
リリアが淡々と説明する。
「あなたの存在値がマイナスになったのは、修司さんのデータ波長に引っ張られた結果です」
「波長!? 俺、Bluetoothかなんか!?」
⸻
アルトはため息をつき、剣を地面に突き立てた。
「……あのさ、俺たち、敵じゃないんだよな?」
「もちろん。俺はバグ直しに来た。お前は本来この世界の主人公だ」
「主人公……?」
その言葉に、アルトの目が少しだけ輝いた。
「なら、協力してくれアルト。世界を直す。
俺も、バグキャラなりに──“デバッグ勇者”として頑張る」
アルトが頷く。
リリアも珍しく微笑んだ。
「……ふふっ。チーム“バグ修正”の誕生ですね」
「名前ダサいけど気に入った!」
⸻
その瞬間──
『イベント発生:パーティ結成』
『エラー:役職重複 勇者×2』
「おいリリア、またバグってね?」
「はい。勇者が二人存在するのは想定外です」
「どっちかが勇者やめるとかできない?」
「できません」
「じゃあ、どっちかバグるな」
「その確率100%です」
世界が微妙に震えた。
……どうやら、次のバグが始まるらしい。
⸻
(つづく)
青威林檎-あおいりんご
『転生したらRPGのバグキャラだった俺が強すぎて勇者の出番がない!!』
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