夢見てた少女
リアーレは普通の少女だ。
類稀なる美貌持ちでもないし、何らかの分野で突出した才能がある訳でもない。
ほどほどの容姿で、ほどほどの頭の出来。ほどほどに気配りが出来て、ほどほどに真面目であり、ほどほどに狡い事もする。
そんなどこにでもいる少女リアーレだが、もちろん少女らしく恋の話も好きであった。
様々な恋の物語に想いを馳せ、こんな風に愛されてみたいなどと、友人達と妄想できゃーきゃー夢を見たりしつつ、まあ庶民の私達には縁遠い話よねと乾いた笑いを溢し合う程度には現実的だった。
されどリアーレが魔法学園に入学してから暫く、思いもよらない自体が起こる。
リアーレにわかりやすく好意を寄せてくる男子が現れたのである。
他クラスではあるものの同学年同士であるその相手は、キラキラ美形の王子様! という程ではなくともイケメンの部類であったし、爽やかな好青年であった。
気のせい? 勘違い? 自意識過剰? それともまさか、罰ゲームとかかしら……?
ほどほどに察しも良かったために尚更戸惑うリアーレであったがどうもそうではない様で、周囲はニヤニヤまたはキラキラと二人の動向を眺め楽しみ、友人達すらも囃し立ててきた事から彼からの好意は真実であるらしかった。
どこかふわふわ浮き足たつ周囲に、過ぎる学園生活。そして年に一度の学園祭の季節がやって来て、最高潮に達したそれらが満を持して──弾けた。
「──で、結局どうしてフッちゃったの?」
女子学生寮にある賑やかな談話室の一画で、リアーレ含む仲良し四人組が持参したジュース片手に四人掛けのテーブルにつき話をしていた。
「そ、れは……」
キョロキョロと視線を彷徨わせて言い淀むリアーレだったが心配げな友人達の姿に意を決し口を開く。
「私、どうしてあの人に好かれてるのかわからなくて……」
「うん」
「例えば、美人や可愛い子なら同学年にも沢山いるでしょ?」
「そうね」
「妬む気も起きないほどに色んな系統が揃ってるわね」
「うん。あとは成績だって真ん中くらいで普通だし、得意な魔法だって風属性でありふれてるでしょ?」
「真ん中くらいじゃなくて、真ん中より上でしょ〜〜!? 羨ましい!」
「うるさいレッドライン常習犯! 話が逸れる!」
「いだっ!」
「は、ははは……それで他には手芸部にも入ってるけど私より手芸上手い子なんて沢山いるし、性格が良いとか、癒されるとか家庭的だとか、そういった子はもっと沢山いるでしょ?」
「まあ、そうね」
「ママみの化身みたいなのもいるからね」
「だからこそ、わざわざ私を選ぶ理由がわからなくて、『こんなに良くしてくれるなんて、昔どこかで会ったりとかしましたか?』て聞いた事があるの」
「あら!」
「おお!」
「それでそれで!?」
「でも、学園で会ったのが初めてだって言われてしまって……」
「え、そうなの!?」
「まさか……予想が外れたわ」
「マジかぁ」
「私、私、それで……」
リアーレがギュッとスカートを握り締めて思い詰めながらも言葉を紡ごうとしているのを隣に座っている友人が気遣うようにそっと肩を摩る。
「……身に覚えのない好意って、得体が知れなくて怖いんだって、その時初めて実感したの……」
「それは……」
「ああ、まあそうね。そうだわね」
「確かに『何?』って感じするかも? 知らない人に突然大金渡されるような? 感じ?」
「怖っ! そう例えられると怖っ!」
「ははは……確かに、そんな感じかも。でも、決定打になったのはやっぱり後夜祭かな」
「あの告白劇?」
「うん」
一年に一度の学園祭にはその締めくくりに後夜祭がある。そして後夜祭はまるで伝統のように告白する者達が出没するカップル誕生イベントとしても有名で、リアーレも先日その憂き目にあっていた。
「私それまで戸惑いの方が強かったからさ、私から彼にアプローチした事なんて無いんだよ」
「うん」
「さっき話したのがあってからは逆に余所余所しくしてたつもり。まあ愛想笑いを好意があるとか思われてたらもう無理だけど」
「あー、たまにいるよね勘違いするヤツ」
「パン屋で働いてる姉さんもそれで困ってた。ただの接客だってーの!」
「ああ…………じゃあ」
「そう……告白ってさ、ある程度見込みがあるからするものだと思うんだよね。相手も自分に好意を寄せてくれてるって思えたからするものだって私思ってる」
「うん……」
「そうね」
「普通はそうだよね」
「だから私、あの時思ったの。ああ、この人私の事なんて全然見てないんだなって。彼の頭の中にある『彼にとっての理想の私』を勝手に重ねて見てるだけなんだな……って」
しん、と談話室が水を打った様に静まり返る。いつの間にか談話室内にいた同級生はもちろん上級生達すらもリアーレ達の会話に聞き耳を立てていたからだ。
「うん……」
「それは、それは…………確かに無しだわ」
「む、無理すぎぃ〜〜! だって、だってそれはさつまりさ、今は良くても例えばリアーレが彼の理想から外れたコトをちょっとでもしたら勝手に幻滅して勝手に愛想尽かすかもって事でしょ!? 無し! 無理! あり得ない! キショーーい!!」
自身の両腕を摩りながら叫んだ友人の言葉に続くように談話室のそこかしこから「無理だわ」「ヤバいわ」「正直羨ましいなーって思ってたけどそれはちょっと、ねえ……?」と囁き合う声が広がる。中には彼に対して淡い思いを抱きリアーレに大なり小なり嫉妬していた面々すらも微妙な顔で首を横に振っていた。
俄かにガヤガヤと騒がしさを取り戻し始めた談話室で、ふとリアーレの隣に座っていた友人がリアーレにしっかりと向き直ったかと思うと、突如として頭を下げた。
「リアーレ、ごめんなさい!」
「え?」
「私、貴女がそんな風に困っていただなんて気付かなかった。それでいて勝手に二人のこと茶化したり囃し立てたりしてたわ……。私だって目先の恋の行方に目が眩んで貴女のことしっかり見れてなかった。彼と同罪よ……本当にごめんなさい」
「リアーレ、私もごめん」
「本当にごめんリアーレ!」
「みんな……」
次々に頭を下げる友人達にリアーレは面食らう。さらにはその場にいた同級生達も「私達もごめん!」とリアーレに向かって手を合わせ謝罪してくれて、リアーレはずっとあった胸のつかえがスーっと取れたような心地で「いいよみんな、頭を上げて」と柔らかな声を出した。
「わかってくれただけで十分だよ。正直私も、こんな事悩んでるの理解されないかもしれないって不安から、みんなに言い出せずにいたもの。ずっとね物語のお姫様みたいに王子様に熱烈に愛されてみたいなんて、空想まで偶にしてたくらいなのにね、まさか実際に体験してみたらこうなるなんて、思ってもみなくて……」
「リアーレ……」
「だからね、私、嬉しいんだよ! こうして皆が私の話をしっかり聞いてくれる事も、私の事を考えて謝ってくれる事も、なんて素晴らしい事なんだろうって。私、こんな素敵な友達に恵まれてるんだなって、そう改めて思えたから……そのね、だからね、今回の事もそれに気付けたからそこまで悪いことばかりじゃなかったのかなって、そう思うの。だからね、……ありがとう、皆」
そう言って微笑むリアーレに途中から潤みだしていた友人達の涙腺は決壊し「私だってリアーレと友達になれて良かった!」「大好きよリアーレ!」「私達ずっと友達だからね!」とおいおいと四人、団子状態になって抱き締めあって号泣した。
談話室の至るところでも鼻を啜る音が聞こえ、上級生の一人は「青春や……」とハンカチを目に押し当て、またもう一人は「ねえ、私もね皆と友達になれて良かったなって思ってるのよ」と同じグループの子達に溢してまたそこでも熱い団子が出来た。
この話はその日のうちに女子学生寮中を駆け巡り、それぞれの友情が深まったのは言うまでもない。
また副次効果として、女子学生寮に姉や妹のいる男子にもこの話が伝わり、巡り巡って当事者の彼にも伝わった事で自身の何がダメだったのか周囲の男友達含めて猛省し、リアーレに後日しっかり謝罪した事で、苦い思い出は彼らを一皮剥けさせるに至ったのであった。
……因みに二年後、同クラスとなったリアーレと彼がぎこちないながらもクラスメイトとして過ごし、適切な距離を取りしっかりと本人を見詰めた上でそれでも尚やっぱりリアーレの事が好きだと思えた彼の密かな恋が実ったかどうかは、時の神のみぞ知る。




