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第77話:魂の帰還

謝罪を。

……ベラボーに遅くなりました!

本当にごめんなさい!

待っていてくださった方、本当に有難うございます。

 ——シルヴィアの表情が変わった。

 美しい銀色の瞳に、感情の揺れの様なものが浮かぶ。


 先程から、どうにか身体を動かせないかと試していた冬馬が、その異変に気づく。


「?……シルヴィア、どうした?……何かあったのか?」


 投げかけられる冬馬の声。

 しかしシルヴィアは、視線を逸らしその問いに答えない。


「……いや、なんでも……ない」


 なんでもない。

 シルヴィアのその言葉は、冬馬には到底信じられるものではなかった。


「嘘をつけ……その表情がなんでもないという顔か?」


 冬馬はシルヴィアに近づくと、その両肩に手を置いて瞳を覗き込む。

 その瞳の奥は、影のようなものが差している。


「シルヴィア、頼む。隠さないで教えてくれ。

 それとも、俺には言えないことなのか?」


 シルヴィアは、やはり答えない。

 今答えを返してしまったら、冬馬がどうなるかは火を見るよりも明らかだ。


 シルヴィアには、外の様子がある程度把握できる。

 ネクサスが今、どうなっているのか。

 シャロンが、鞠子が、多くのハンター達が——雪菜がどうなっているのかを、

 “力を飛ばして”把握出来ているのだ。


 これは分体である彼女とは別に、本体が遠く離れているからこそ出来るイレギュラーな能力。

 自らの力を本体へと向けて飛ばし、その際に帰って来る反応を自らが受ける。

 言わばエコーのようなもの。


 彼女は常に外へと力を飛ばして、状況の把握に努めていた。

 そんな彼女が捉えたネクサスの状態……それは。


 ——戦争。


 ネクサス陣営と、ギルバート陣営の戦争だ。

 それは冬馬が危惧していた以上の、壮絶なもの。


 多くの者が傷つけられ、傷を癒やしてはまた戦いに挑む。

 雪菜を守るための総力戦。


 それをこの、誰かのために愚直に生きてきた男が知れば……大人しくはしていられまい。

 今の身動きが取れない冬馬に話しても、それは酷というものだ。


 だが、冬馬は引かなかった。

 ギルバートの事が頭から離れない。

 あの男は自らの欲望のためなら、どんなことでもやるだろう。


 冬馬はシルヴィアの瞳から視線を外さない。


 ——予感があるのだ。

 ついにギルバートが、本格的に動いたという予感が。


 だとしたら、雪菜が危ない。

 奴の雪菜に対する執着は異常だった。

 焦燥感が、胸の奥から湧き上がってくる。


 シルヴィアが、外の様子を把握しているのは分かっている。

 何度か外の様子を見せてもらったのだ。

 理屈は分からないが、シルヴィアは外を探れるのだろう。


 ふと、シルヴィアの瞳を見つめる冬馬の瞳が——揺れた。


「シルヴィア……お願いだから……教えてくれ……っ!

 俺は、知らなくちゃならないんだ……!」


 今にも泣き出しそうな、冬馬の顔。

 その顔を見て、シルヴィアがついに口を開く。


「……冬馬……なぜ貴様は……そこまで誰がために……」


 なぜ、誰にでも優しくあれるのかと——シルヴィアは言外にそう問いかける。


 天は残酷だ。

 なぜこれほどの心を持つ男に、戦いの才能を与えなかったのか。

 なぜこの男に、戦い以外の道を照らさなかったのか。


 ——似ている。

 自らの本来の契約者である、真神冬夜と。


 容姿という意味ではない。

 その、心のあり方が。


 口には出さずとも、冬馬にはなんとなく伝わっていた。

 シルヴィアの感情が。


 この美しい銀色の龍女は、ただただ冬馬のために、心を痛めているのだ。

 不器用ながらも、冬馬の心を守ろうとしているのだ。


 冬馬は優しい笑みを浮かべる。

 無理に浮かべた笑みではない。

 自然と……心から滲み出た笑みだ。


「俺の事を考えてくれてるんだな、シルヴィア」


 その言葉に、頬を赤く染めるシルヴィア。


 冬馬は言葉を続ける。


「俺はお前が思ってくれているほど、優しい男じゃない。

 俺は俺の、守りたい人たちが守れればそれで良いんだ。

 全部を守ろうなんて思ってない」


 孤児院のみんなを。

 宗一郎を。

 アイリスを。

 シャロンを。

 ネクサスの仲間たちを。

 ——雪菜を。


 今はそこに、九条鞠子という女医も加わった。


 自分を護ってきてくれた人たち。

 自分の生きる理由になってくれた人たち。


 その者たちを守れれば——それで良い。


 冬馬は先程とは違い、穏やかな笑みを浮かべて言葉を落とす。


「外で何があったか、教えてくれ……シルヴィア」


「——……~~っ!

 ……はぁ。わかった。教えよう」


 シルヴィアは話し始める。

 自らが把握している範囲での、現実での情報を。


 シルヴィアは、冬馬が取り乱すのではと思っていた。

 だが実際には冬馬は、取り乱すことはなかった。

 説明が終わるまで、ただ静かに耳を傾けていただけ。


「——という状況だ……冬馬?」


 説明を終えたシルヴィアは、冬馬の様子がおかしいことに気づく。

 しかしそれは、最初に自分が危惧したものとは違う。


 先程の穏やかな笑みは、顔から消えてはいない。


 ——上手く説明ができない。

 なのに感覚でわかる。


 今の冬馬は、シルヴィアが初めて会った冬馬とは“違う”。

 それは銀翼の継承とは、また違う何か。

 シルヴィアを持ってしても、言葉にできない何か。


「冬馬……お前……?」


 冬馬はシルヴィアの問いかけには答えず、静かに上を見上げる。

 そして“自ら”に向けて、再び問いかけた。


「なあ、“俺”。

 もう良いだろう?もう十分すぎるほどに休んだじゃないか。

 俺という魂は、もうとっくに目を覚ましたぞ?」


 言葉に力が込められる。


「そろそろ、起きる時間だ」


『目覚めろ——“真神冬馬”!!』


 瞬間、精神世界での冬馬の意識が、徐々に希薄になっていく。

 緩やかに意識が“浮上”し始める。


「——ぁ?」


 シルヴィアには、目の前で起こっている状況が理解できなかった。

 まだ時間がかかるはずだ。

 龍王の力に、冬馬の身体はまだ適合しきっていない。


 ——いないはずなのに。


 冬馬は現実へと——戻っていった。


「シルヴィア……これから色々と世話になるかもしれないけど、よろしくな」


 その言葉を最後に、精神世界には静寂が横たわる。


 静寂を打ち破ったのは、シルヴィアの小さなつぶやきだった。


「冬馬……お前は一体……」


 ◆ ◇ ◆


 女性医療ハンターの報告を受け、シャロンと鞠子は慌てて冬馬の病室へと駆けつけた。


『バンッ!!』


 勢いよく開け放たれる、病室の扉。


「冬馬っ!」


 シャロンの口から飛び出した、悲鳴に近い声。

 しかし当然、返事はあろうはずもない。


 冬馬が昏睡しているからではない。

 その場に、冬馬がいないからだ。


 シャロンはその場にへたり込んだ。

 張り詰めていた緊張の糸が、切れてしまったのだ。


 頭がぐちゃぐちゃになる。


 冬馬は何処に?

 昏睡していた。

 動けるはずがない。

 何者かが連れ去った?


 ——冬馬は無事なの?


 考えが纏まらない。

 シャロンの瞳に、涙が滲む。

 今にも……泣いてしまいそうだ。


「とうま……とうまぁ……」


 しゃくり上げそうになるシャロンを他所に、鞠子は病室内を冷静に調べていた。


 ——おかしい。

 窓の鍵は閉めていた。


 何者かが侵入したとして、現状ご丁寧に鍵開けなんてするだろうか?

 鍵も窓も、壊されてはいない。

 鍵は“内側”から開けられているのだ。


 ふと気になり、鞠子は備え付けの戸棚を調べる。

 そこには、冬馬の装備であるコートと手甲。そして脚甲が仕舞ってあったはずだ。


 ——ない。


 冬馬の装備は、無くなっていた。


 無意識に、鞠子の口から言葉が漏れ出す。


「冬馬の奴……目を……覚ました?」


「……え?」

 シャロンの小さな呟きが、病室内に小さく反響した。


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