第76話:開戦
……ハイ。
ものすごく遅くなりました。
ごめんなさい(`;ω;´)
待っていてくれた方、本当に有難うございます!
それから僅か数日後の事。
——戦いが始まった。
ギルバートは海外から、自らの息のかかった者を呼び寄せた。
主にランクはCが多いが、中にはBランクも数人いる。
人数的には雪菜を守ろうとする者たち、ネクサス陣営が多い。
だが敵の猛攻に、むしろ劣勢を強いられたのはネクサス陣営側であった。
多くの者は思う。
『雪菜一人のために、ここまでやるのか』
それはあまりにも傲慢で、
あまりにも残酷な考えのもとに行われる戦い。
ネクサス陣営のハンター達が、次々と医療棟へと運ばれてくる。
医療ハンターたちは、休む暇すら無かった。
治療を終えたハンターが前線に戻り、
入れ替わりに別のハンターが運ばれてくる。
それの繰り返し。
圧倒的に医療者の数が足りない。
元々医療ハンターという職業者は、とても数が少ないのだ。
高度な医療の知識と技術。
さらに医療魔法への深い理解。
それだけではない。
医療ハンターといえど、モンスターの討伐は行う。
時に遠征任務にも駆り出される。
それらの通常のハンター業の他に、
高度な医療を行える医療ハンターともなると、更に数を少なくする。
——多くの者は、医療ハンターにはなりたがらないのだ。
それは今現在の、戦場のような医療棟を見ても理由は分かる。
そんな中でも、シャロンと鞠子は食事すら取れない状態だった。
「鞠子!こっち手一杯!
悪いけどサポートお願い!」
「くそっ!ギルバートの取り巻きの奴らめ!
人の体を何だと思っている!」
治しても治してもキリがない。
相手も消耗はしている。
しかし如何せん、個々の戦力に違いがありすぎる。
そして相手側にも、医療ハンターは存在した。
まさにいつ終わるとも知れない、不毛な戦い。
本来守るべき対象である雪菜は、前線に立たせるべきではない。
だが最早、そうも言ってられない状況まで追い詰められていた。
——雪菜自身も戦っている。
雪菜はC級だが、その力は頭一つ抜けている。
他にも何人かC級がいてくれている。
そしてB級も僅かだがいた。
そのB級ハンターが、雪菜についていてくれる。
その事もあってか、他のハンター達は自由に動けているのだ。
それ故に、ギリギリの水際で拮抗を保てていた。
それもそろそろ、限界だろう。
どうすれば良いのか。
——分からない。
シャロンや鞠子の気持ちが沈み始めた頃、
他のハンター達の不穏な話が聞こえてきた。
「いたか?」
「いない。誰も見ていないぞ」
「ギルバートのやつ、一体どこに……」
この戦いを起こした張本人である、ギルバートがいない。
その事実は二人の疲弊した心に、重く楔を撃ち込んだ。
雪菜が心配だ。
万が一雪菜が、一人でギルバートと出くわしでもしたら。
シャロンは心の中で、自らのヒーローに言葉を飛ばす。
(冬馬……助けて……っ!)
◆ ◇ ◆
ギルバートは戦いの最中、気配を消して雪菜を探していた。
取り巻きたちに派手に暴れさせているのも、自分の存在を隠すためだ。
自らをコケにした雪菜を殺す。
そして証拠を残さずに、そのまま撤退する。
間違いなく自分が疑われるだろうが、確たる証拠さえなければ揉み消せる。
これまでも、そうしてきたのだ。
自分は強くなった。
権力を得た。
発言力が強まった。
——誰にも、見下させない。
——誰にも、逆らわせない。
望むものは全て手に入れる。
今はまだA級だが、いずれ方法を調べ上げて、必ず自分が五人目のS級になって見せる。
(ククッ……この世は俺のものなんだ。
全部俺の思い通りになるんだよぉ……!)
◆ ◇ ◆
雪菜は必死に戦場を駆け巡っていた。
護衛についてくれている、B級ハンターとともに。
この戦いが、自分を守るための戦いであるということは分かっている。
それでも、黙って隠れてなどいられなかった。
敵のターゲットである雪菜が前線に出るというのはリスクが高いが、
それでもそのおかげで、現状ネクサス陣営から死者が一人も出ていないというのも事実。
雪菜はD級以下のハンターのもとに助っ人に向かい、危機が去ったらまた別の場所へ。
それを繰り返していたのだ。
それが功を奏していた。
運も味方をしてくれていたのだろう。
うまい具合に、ギルバートとの鉢合わせを回避できていた。
ギルバートの、気配察知範囲外ギリギリのすれ違い。
その様な奇跡が何度も続いた。
だが、そんなものは何時までも続くものではない。
雪菜がD級ハンターの青年の助っ人を終え、別の場所へと向かおうとしたその時。
「よしっ!次はあっちの方——」
「ん!?」
「んーーー!?」
突如“何者か”により雪菜の口は塞がれて、何処かへと引きずられていく。
動かせる視線だけで周囲を確認すると、B級ハンターは倒れている。
この状態では、生死の確認は不可能だ。
——気づかなかった。
周りに他の人間はいない。
誰も見てはいない。
雪菜は必死に力を込めるが、何者かの腕はびくともしない。
振りほどけない。
背後を取られ、口を塞がれるまで、気配など感じなかった。
以前、摩天楼の事務所内でも、同じようなことがあった事を思い出す。
背後を取られ、声をかけられるまで気付けなかったこと。
——ギルバート。
ギルバートは雪菜を抑え込み、ネクサス防壁の外へと連れて行く。
見上げるような高さの防壁を、雪菜を抱えて一飛で越えて。
「クハハッ……ゆきなぁ……見つけたぞ。
お仕置きの時間だぁ。
俺をコケにした罪は重いぞ……っ!」
そう、粘ついた声を漏らしながら、ギルバートは雪菜を深い森の中へと連れ去っていった。
◆ ◇ ◆
医療棟において、ついに医療ハンターのみでは間に合わなくなった。
一般医療従事者にも協力を要請して、助っ人に来てもらった。
ハンター同士の争いの渦中に踏み込むというのは、あまりにも恐ろしいことだろう。
だがそれでも、何人もの人物が手を差し伸べてくれた。
それらは全て、かつてネクサスのハンターに助けられてきた者たち。
「戦場が何よ!
医療現場はいつだって戦場なんだから!」
「今度は俺たちの番だ!
俺たちが助けて見せる!」
これにより、医療現場は持ち直すこととなる。
交代で休憩をとる余裕も出てきた。
そんな中、一人の女性医療ハンターが、冬馬の様子の確認に訪れる。
戦争が始まってから一度も、バイタルチェックを行えていなかったのだ。
様態は安定しているとは言え、何時どうなるかわからないのが医療現場だ。
女性は冬馬が眠る病室のドアを開ける。
「冬馬さん、すみませんでした。
だいぶ時間が——」
病室の中を見て、女性は固まる。
窓は締めていたはずなのに、“風”が頬を撫でたのだ。
「う……そ……。
た、大変……シャロン先生たちに知らせないと……っ!」
——昏睡していたはずの冬馬の姿は病室にはなく、
開け放たれていた窓から、風が部屋の中へと吹き込んでいた。
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