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第75話:待つ者と、越えた一線

かなり遅くなってしまいました……。

申し訳ありません……。

現実に戻れない。


その言葉は、冬馬から冷静さを奪うには十分すぎた。


「そんな……どうにかならないのか!

一体いま、皆はどんな状態なんだ!?

雪菜は無事なのか?

シャロンや九条って人は……!

俺が……俺が、弾き飛ばしてしまってるんじゃないのか……!」


言葉は次々と溢れ、焦燥が胸を焼く。

自分が知らぬ間に、誰かを傷つけてはいないか――

その恐怖が、冬馬の理性を揺さぶっていた。


だが、シルヴィアは微塵も動じない。


「落ち着け、冬馬。

ここで焦ったところで、何一つ変わらん」


静かだが、断ち切るような声。


「言ったはずだ。

貴様の肉体が龍王の力に適合するまで、意識は戻れん。

それは、どう足掻こうと変わらぬ事実だ」


そう言って、シルヴィアはゆっくりと視線を上へ向ける。


「……安心しろ。

シャロン・セイルズ、九条鞠子。

そして、他の者たちも無事だ」


その一言に、冬馬の胸が大きく上下した。


――誰も、傷つけていない。


その事実だけが、辛うじて彼を繋ぎ止める。


だが、安堵に身を委ねる暇などない。


自分を殺すために、あそこまでやったギルバートが、

このまま黙っているとは到底思えなかった。


冬馬は歯を食いしばり、シルヴィアを見据える。


「……俺の身体は、いつになったらその力に適合する?

どれくらい待てば……戻れるんだ?」


シルヴィアは、わずかに視線を伏せる。


「そればかりは……貴様の肉体次第だ。

今はただ、信じるしかない。

これまで貴様と共に歩んできた、自らの肉体をな」


その言葉に、冬馬の胸に再び焦りが満ちる。


――待つしかない。


守りたい者がいるのに。

戦いが始まるかもしれないのに。


それでも冬馬は、拳を強く握り締め、必死に感情を押し殺した。


(……早く……目覚めてくれ……っ!)


◆ ◇ ◆


ギルバートは、行きつけのバーにいた。


普段なら彼を中心に、笑い声と酒の匂いが満ちる場所。

だが今は、誰一人として口を開かない。


重苦しい沈黙。

空気そのものが、張り詰めていた。


理由はただ一つ。

ギルバートの怒気だ。


(……男になった、だと?

……ふざけるな……ふざけるなよ……雪菜ぁ……)


歯軋りするほどの憎悪が、胸を焼く。


(ここまで俺をコケにした女は……初めてだ)


低く、粘ついた声が漏れた。


「……許さんぞぉ……雪菜ぁ……」


その瞬間、周囲の取り巻きたちは、無意識に身を竦めていた。


そこへ――


『ギィ……カランカラン』


静かにドアが開く。

偵察に出ていた取り巻きが戻ってきたが、ギルバートの表情を見て顔色を失った。


ギルバートは、視線すら向けない。


「……話せ」


男は喉を鳴らし、震える声で報告する。


「ギ、ギルドマスターの御堂宗一郎が……

数名のハンターと共に、キャラバンライナーで出立しました」


「……どこへ向かった?」


「す、すみません……詳細までは……」


空気が、さらに重く沈む。


ギルバートは短く息を吐き、問いを変えた。


「……方面は?」


「……南西です。

ネクサスから見て……南西方面へ……」


その言葉に、ギルバートの眉がわずかに動いた。


「南西……だと?」


小さく、だが確信を含んだ声。


「……カナガワ・コアか」


取り巻きの女性が、おずおずと尋ねる。


「あ、あの……ギルバート様……そこには……?」


「少しは自分の頭で考えろ。

このタイミングで、ギルドマスターが南西へ向かう理由など一つだ」


吐き捨てるように言う。


「ハンターギルド本部に……乗り込む気だ」


その言葉に、場の全員の顔色が変わった。


取り巻きたちは、ギルバートの名のもとに、多くの無法をおこなってきた。


ギルバートの名前を出せば、ほとんどの者達は黙り、俯くしかない。


故に取り巻きたちは、ギルバートの名前を自らの“力”であると勘違いをし、好き放題やってきたのだ。


いつしか、感覚が麻痺して、それが当たり前になっていた。


——咎められるかもしれない。 今までの罪を。


子供が悪戯をするのとは理由が違う。


そしてそれは、ハンターギルドの上層部の一部も、同じことだった。


万が一……いや、億が一ハンターギルド本部が叩かれるようなことになれば……。



なぜ? なぜ、今このタイミングで?


これまでは大きな行動を起こさなかった者達が、ここに来て一斉に動き始めている。


なぜなのか?


——冬馬と雪菜だ。


冬馬は命こそ助かったが、二度と目覚めることはないかもしれない。


雪菜は、女の身体を捨ててまで、ギルバートに抵抗を示した。


ギルバートの取り巻きたちは、甘く見ていたのだ。


冬馬と雪菜が、これまで積み上げてきたものを。


二人が繋いできた——絆の強さを。


自分達はやり過ぎたのだ。


完全に一線を越えてしまったのだ。


——終わるかもしれない。


だが。


ギルバートだけは、違った。


「……ククッ……」


歪んだ笑み。


「好都合だ……」


取り巻きの女性が、震える声でギルバートの名を呼ぶ。


「ギ、ギルバート様?」


ギルバートは女性に視線を向けることすらせずに、言葉を続ける。


「今このタイミングで、宗一郎がネクサスを離れるとはな。

海外から呼んだ連中も、そろそろ到着する」


表情は、もはや狂気そのものだった。


「雪菜の死は絶対だ。

俺をここまで愚弄して、生きていられると思うな。

雪菜を始末した後にでも、ギルド本部に手を回せばいい」


表情が更に歪む。


「宗一郎が邪魔だった理由は、立場だけじゃない。

あいつは……A級に手が届きかけた男だ。

そいつが雪菜の前に立っていられると、少々厄介だった。

だから人を呼んで、どうにか使い、雪菜までの道を作ろうかと思っていたが。

……クハハッ!やはりこの世は俺の思い通りになるんだよぉ!」


ギルバートは立ち上がり、取り巻きたちを見下ろす。


「俺の手のものが到着次第、仕掛けるぞ!

俺は直接雪菜を狙う。

お前たちは、俺の手の者と一緒に、雑魚どもをどうにかしろ。

……それくらいは、お前たちにも出来るだろう?」


取り巻きたちは、返事もできずに、ただ俯くしかなかった。


今更ギルバートに逆らうことなど出来ないのだから。


どれだけ、嫌な予感がしようとも。


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