第71話「冬馬という灯火」
またまた遅くなってしまいました…。
ワタクシ反省です…。
鞠子は改めてアイリスへ視線を向けると、静かに告げた。
「アイリス嬢。今日ここに来たのは、ギルド移籍の挨拶をするためだ。……ギルバートの件で色々とゴタゴタしているうちに、ほとんど“どさくさ紛れの移籍”みたいになってしまってな。改めて挨拶をしに来た。しかし——残念ながらアポイントは取っていない」
そう言ってギルド内の忙しなさを一望してから、鞠子は肩をすくめる。
「どう見ても立て込んでいるし、今日は無理だと言うなら出直すが——」
その言葉を遮るように、アイリスが勢いよく口を開いた。
「い、いえ!大丈夫です! ギルマス、面会できますよ!
むしろ……ギルマスの方から“九条先生に会いたい”って言ってたくらいです」
「……御堂殿が、私に?」
思わぬ返答に、鞠子は目を瞬かせた。
アイリスはこくりと頷き、手で促す。
「では、こちらへ。支部長室にご案内します」
鞠子は腑に落ちない気持ちのまま、その後をついていく。
支部長室は意外にもカウンターのすぐ近くにあり、すぐに重厚な木扉の前へとたどり着いた。
アイリスが軽くノックすると、中から落ち着いた男の声が響く。
「どうぞ。開いている」
アイリスが扉を開き、丁寧に告げる。
「ギルマス、九条先生がお見えになりました」
すると、部屋奥の机にいた御堂宗一郎が顔を上げ、ぱっと表情を明るくさせた。
「おお、来てくれたのか! 入ってくれ」
招かれるままに鞠子が室内へ入ると、宗一郎は立ち上がり、歓迎の意を込めて軽く会釈した。
「九条先生、よく来てくれた。本日はどのようなご用件かな?」
鞠子は衣服を整え、礼を返す。
「いきなり押しかける形になり申し訳ない。本日は、ギルドへの正式な移籍に伴う挨拶へ参りました」
その丁寧な言葉遣いに、宗一郎は一瞬だけ目を丸くし——すぐに真剣な表情へ戻った。
「コホン……わざわざ有難い。
本来ならもっときちんとした場を設けたいのだが……見ての通り、今は少々立て込んでいてな。すまん」
宗一郎の砕けた口調に、鞠子も自然と肩の力が抜ける。
「いや、ギルド内を見ればわかる。冬馬と雪菜が抜けた状態に、ギルバートの件もある。忙しいのは当然だ。こちらこそ予約なしで押し掛けてしまって申し訳ない」
二人は思わず笑い合い、室内の空気が柔らかくなる。
その時、宗一郎の表情が一転し、真剣なものへと変わった。
「さて……まずは君に、どうしても言っておきたいことがある」
少しだけ緊張が走る。
だが次の瞬間——宗一郎は深々と頭を下げた。
「九条先生。この度は冬馬を救ってくれたこと……ネクサス支部を代表して、心より感謝する!」
「なっ……!? い、いきなり何をするんだ!
アイリス嬢に続いて貴方まで! 兎にも角にも、まずは頭を上げてくれ! このままじゃ話もできん!」
慌てる鞠子の言葉に応じて、宗一郎はゆっくりと頭を上げる。
しかしその目には、まだ深い感謝の色が残っていた。
「シャロン先生から詳しく聞いた。……あなたがいなければ、冬馬はどうなっていたかわからなかったと。本当にありがとう。あいつは、我々にとって——」
鞠子は宗一郎の言葉を継ぐように口を開く。
「……家族のようなもの、か?」
宗一郎は目を見開き、そして照れたように笑った。
「……ああ、その通りだ」
鞠子は静かに息をつき、苦笑を漏らす。
「ここに来るまでに、何人ものハンターから冬馬の名を聞いたよ。
そしてアイリス嬢からも“家族”という言葉を聞いた。……不思議なやつだな、冬馬は」
宗一郎は鞠子を椅子に促し、自身も腰を下ろすと、ゆっくり語り始めた。
冬馬と雪菜が幼くしてこの支部を訪れた日のこと。
家族を失い、孤児院に入り、それでも前を向こうとしていたこと。
貧しい孤児院を救うため、自分たちの手で道を切り開くために「ハンターになる」と言ってギルドの門を叩いたこと。
そして——今に至るまでの彼らの歩み。
宗一郎は語りながらところどころ言葉に詰まり、しかし誇らしげでもあった。
鞠子はじっと耳を傾ける。
だが、内心には別の引っかかりが生まれていた。
(……やはり、“真神冬夜”の名は一切出てこないか。
二人は完全に血縁者のいない孤児として扱われている。
認識の改ざん……それも、かなり強力な類いの)
だが鞠子は、それを今ここで指摘することはしなかった。
言ったところで、状況が変わるわけではない。
宗一郎から聞かされた「冬馬」の記録を頭の中で反芻しながら、鞠子は静かに呟く。
(冬馬……真神、冬馬。
……なんとも不器用な生き方をしている男だ)
だが、その不器用さは不思議と嫌いではない。
むしろ——胸の奥を温かく満たすような、そんな感情が芽生えつつあった。
鞠子の口元には、自然と柔らかな笑みが浮かんでいた。
拙作ですが、読んでくださり有難うございます!




