第7話:呪縛の鎖と、救いの手
長らく間が空いてしまいました。申し訳ありません!
Hランクから始める相棒ハンター生活。
こちらもちょこちょこ更新していきます。
もう一つの作品、スキル無しの方も書くことになると思うので、更新スピードは遅くなってしまうかもですが・・・。
長い目で見ていただけますと、ワタクシ、とても嬉しいです!
雪菜は動いていた。
ギルバートの動向を探るため、細心の注意を払いながら。
表面上は変わらず、任務を淡々とこなすC級ハンター。
だがその裏では、地道に情報をかき集めていた。
そして、見えてきたのは、想像を絶する現実だった。
——ギルバートの影響力は、想像以上だった。
摩天楼内だけではない。
ハンターギルドの上層にまで、その毒は静かに、しかし確実に根を張っていた。
ギルバートは間違いなく一流の実力を持つハンターだった。
A級にふさわしい強さ、功績、技術。
だが、その人格は——雪菜の想像よりもはるかに、歪んでいた。
彼にとって女性とは、愛すべき存在ではない。
名誉を彩るアクセサリーであり、権力を誇示する“モノ”にすぎなかった。
過去、摩天楼の海外支部でも、多くの女性を精神的に破壊してきた。
相手がハンターであろうと、一般人であろうと関係ない。
泣いて訴えた者もいた。だが、彼の力とコネの前に、全てが揉み消された。
そして、やりすぎた。
海外支部ですら、彼を庇いきれなくなり、ギルバートは“追放”に近い形で日本へと送られた。
表向きは「日本支部への栄転」だったが、実態は火消しのための左遷。
だが、日本に来てもギルバートは変わらなかった。
ここでも、既に何人もの女性が彼の毒牙にかかっていた。
そして、彼が目をつけたのが——雪菜だった。
「俺のモノにしてやる」
初めて彼が雪菜に向けた言葉。それは、“求愛”ではなく“宣告”だった。
雪菜は数年間、何度もギルバートの誘いを拒み続けた。
毅然と、誇り高く。だがそのたびに——冬馬が、その報いを受けていた。
雪菜の知らぬところで、冬馬はギルバートとその取り巻きに徹底的に“処理”されていたのだ。
割に合わない危険な依頼。
改ざんされた評価と報酬。
功績を帳消しにされる報告書。
冬馬は気づいていた。だが、誰にも言わなかった。
雪菜にも、共通の仲間にも一切漏らさず、ただ黙ってそれを受け入れた。
(俺が耐えれば、雪菜の立場が守られる)
(俺がやれば、誰かが死なずにすむ)
——そう信じて、今日まで生き抜いてきた。
雪菜は、拳を握った。
爪が掌に食い込み、血が滲むほどに。
(なんで……なんで、あんな最低な男のせいで……! 冬馬が……っ!)
止めどなく涙が頬を伝う。
(女じゃ……駄目なの? ボクが女である限り、冬馬は……苦しみ続けるの?)
(ボクは……冬馬の相棒になれないの?)
ギルバートの誘いを受ける。
その選択肢が、雪菜の脳裏に浮かんだ。
(もし、受け入れれば……冬馬をこれ以上巻き込まずに済む……?)
(でも、それだけは——無理だ。死んだって、あんな男となんて……)
その苦しみを抱えたまま、雪菜は一人の女性を訪ねた。
——シャロン。
B級ハンターにして、魔法医師。
元・ノーブルブラッド所属。今はフリーの立場で生きる、強く、優しい女性。
ノーブルブラッドは、摩天楼にも匹敵する大手事務所だが、徹底した選民思想と高圧的な体質に、シャロンは耐えられなかった。
理想を貫くため、日本に逃れるようにやってきた。
彼女の医療技術は、一流どころか、すでに“伝説”に近い。
戦闘力はB級以下に留まるが、魔力・知識・治癒の技量では、誰もが頭を垂れる存在だった。
シャロンは、日本のハンター業界に愕然としつつも——希望も見つけていた。
冬馬と、雪菜。
誰かのために真っ直ぐに頑張る、眩しい二人。
今では、シャロンにとって雪菜は、かけがえのない存在だった。
腐った世界にあって、信じられる数少ない“仲間”だった。
雪菜は、ギルバートの暗躍、冬馬の苦境、自身の苦しみを全て話した。
隠さず、偽らず、ただ、涙をこらえながら。
「……ねえ、シャロン……ボクが男だったら、ギルバートも興味をなくすかな……?
そうすれば、冬馬も傷つけられずにすむ?
ボク……冬馬の相棒になれないの……?」
シャロンは、黙って雪菜を抱きしめた。
そして、震える声で言った。
「やめなさい……そんなこと、絶対に考えちゃだめ。
あなたは、女性であることに違和感があるわけじゃない。
なら、それはあなた自身を殺す選択になるわ」
「……うん。わかってるよ。ごめんね……ちょっと、言ってみただけ……」
雪菜は目を伏せ、かすかに笑った。
その笑顔が、シャロンの胸を引き裂く。
(どうして……どうして、この子たちが、こんな目に……)
(誰よりも人を救おうとして、傷ついて、それでも諦めていない……それなのに……)
シャロンは、雪菜に何も言えなかった。
慰めの言葉も、希望の光も、今の彼女には与えられなかった。
ただ一つだけ、胸に誓う。
——この子たちを守る。
どんなことがあっても、絶対に。