表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/29

第7話:呪縛の鎖と、救いの手

長らく間が空いてしまいました。申し訳ありません!

Hランクから始める相棒ハンター生活。

こちらもちょこちょこ更新していきます。

もう一つの作品、スキル無しの方も書くことになると思うので、更新スピードは遅くなってしまうかもですが・・・。

長い目で見ていただけますと、ワタクシ、とても嬉しいです!

雪菜は動いていた。

 ギルバートの動向を探るため、細心の注意を払いながら。


 表面上は変わらず、任務を淡々とこなすC級ハンター。

 だがその裏では、地道に情報をかき集めていた。

 そして、見えてきたのは、想像を絶する現実だった。


 ——ギルバートの影響力は、想像以上だった。


 摩天楼内だけではない。

 ハンターギルドの上層にまで、その毒は静かに、しかし確実に根を張っていた。


 ギルバートは間違いなく一流の実力を持つハンターだった。

 A級にふさわしい強さ、功績、技術。

 だが、その人格は——雪菜の想像よりもはるかに、歪んでいた。


 彼にとって女性とは、愛すべき存在ではない。

 名誉を彩るアクセサリーであり、権力を誇示する“モノ”にすぎなかった。


 過去、摩天楼の海外支部でも、多くの女性を精神的に破壊してきた。

 相手がハンターであろうと、一般人であろうと関係ない。

 泣いて訴えた者もいた。だが、彼の力とコネの前に、全てが揉み消された。


 そして、やりすぎた。


 海外支部ですら、彼を庇いきれなくなり、ギルバートは“追放”に近い形で日本へと送られた。

 表向きは「日本支部への栄転」だったが、実態は火消しのための左遷。

 だが、日本に来てもギルバートは変わらなかった。


 ここでも、既に何人もの女性が彼の毒牙にかかっていた。

 そして、彼が目をつけたのが——雪菜だった。


 「俺のモノにしてやる」

 初めて彼が雪菜に向けた言葉。それは、“求愛”ではなく“宣告”だった。


 雪菜は数年間、何度もギルバートの誘いを拒み続けた。

 毅然と、誇り高く。だがそのたびに——冬馬が、その報いを受けていた。


 雪菜の知らぬところで、冬馬はギルバートとその取り巻きに徹底的に“処理”されていたのだ。


 割に合わない危険な依頼。

 改ざんされた評価と報酬。

 功績を帳消しにされる報告書。


 冬馬は気づいていた。だが、誰にも言わなかった。

 雪菜にも、共通の仲間にも一切漏らさず、ただ黙ってそれを受け入れた。


 (俺が耐えれば、雪菜の立場が守られる)

 (俺がやれば、誰かが死なずにすむ)

 ——そう信じて、今日まで生き抜いてきた。


 雪菜は、拳を握った。

 爪が掌に食い込み、血が滲むほどに。


 (なんで……なんで、あんな最低な男のせいで……! 冬馬が……っ!)


 止めどなく涙が頬を伝う。


 (女じゃ……駄目なの? ボクが女である限り、冬馬は……苦しみ続けるの?)

 (ボクは……冬馬の相棒になれないの?)


 ギルバートの誘いを受ける。

 その選択肢が、雪菜の脳裏に浮かんだ。


 (もし、受け入れれば……冬馬をこれ以上巻き込まずに済む……?)

 (でも、それだけは——無理だ。死んだって、あんな男となんて……)


 その苦しみを抱えたまま、雪菜は一人の女性を訪ねた。


 ——シャロン。

 B級ハンターにして、魔法医師。

 元・ノーブルブラッド所属。今はフリーの立場で生きる、強く、優しい女性。


 ノーブルブラッドは、摩天楼にも匹敵する大手事務所だが、徹底した選民思想と高圧的な体質に、シャロンは耐えられなかった。

 理想を貫くため、日本に逃れるようにやってきた。


 彼女の医療技術は、一流どころか、すでに“伝説”に近い。

 戦闘力はB級以下に留まるが、魔力・知識・治癒の技量では、誰もが頭を垂れる存在だった。


 シャロンは、日本のハンター業界に愕然としつつも——希望も見つけていた。

 冬馬と、雪菜。

 誰かのために真っ直ぐに頑張る、眩しい二人。


 今では、シャロンにとって雪菜は、かけがえのない存在だった。

 腐った世界にあって、信じられる数少ない“仲間”だった。


 雪菜は、ギルバートの暗躍、冬馬の苦境、自身の苦しみを全て話した。

 隠さず、偽らず、ただ、涙をこらえながら。


 「……ねえ、シャロン……ボクが男だったら、ギルバートも興味をなくすかな……?

  そうすれば、冬馬も傷つけられずにすむ?

  ボク……冬馬の相棒になれないの……?」


 シャロンは、黙って雪菜を抱きしめた。

 そして、震える声で言った。


 「やめなさい……そんなこと、絶対に考えちゃだめ。

  あなたは、女性であることに違和感があるわけじゃない。

  なら、それはあなた自身を殺す選択になるわ」


 「……うん。わかってるよ。ごめんね……ちょっと、言ってみただけ……」


 雪菜は目を伏せ、かすかに笑った。

 その笑顔が、シャロンの胸を引き裂く。


 (どうして……どうして、この子たちが、こんな目に……)

 (誰よりも人を救おうとして、傷ついて、それでも諦めていない……それなのに……)


 シャロンは、雪菜に何も言えなかった。

 慰めの言葉も、希望の光も、今の彼女には与えられなかった。


 ただ一つだけ、胸に誓う。


 ——この子たちを守る。

 どんなことがあっても、絶対に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ