第65話:「銀色の胎動」
間が空いてしまいました…申し訳ありません。
これからもこちらは、不定期となるかと思います。
読んでくださっている方、本当にごめんさない。
ゆっくりですが、ちゃんと続けます!
宗一郎たちは、意識を失った雪菜を発見すると、すぐさま担ぎ上げ、医療棟へと運び込んだ。
駆けつけた鞠子が慌ただしく診察にあたる。
「……ふぅ。魔力の使いすぎだ。ただの疲労によるダウンだよ」
そう結論づけると、鞠子は雪菜を病室のベッドに寝かせ、そっと額に手を当てた。安堵の息を漏らすが、その表情には心配が拭いきれない影が残っている。
その足で冬馬の病室に戻ると、待ち構えていたシャロンがすぐに駆け寄ってきた。
「鞠子……! 雪菜の様子はどうだった……?」
問いかける声には、焦りと不安が入り混じっていた。
鞠子は苦笑を浮かべながら、肩を竦める。
「心配ない。ただの疲労だ。……まったく、アイツはいつも人をヒヤヒヤさせる」
その言葉に、シャロンは胸を撫で下ろした。
「よかった……本当に……雪菜……」
安堵の表情を浮かべるシャロンを見つめながら、鞠子は表情を引き締める。
「……冬馬はどうだ?」
その問いに、シャロンの瞳が翳りを帯びた。
「……変わらないわ。時折、身体が暴れそうになるけれど、すぐに収まる。出血も……まだ続いている」
鞠子は小さく頷き、静かに言った。
「やはり……自分で抑えているんだろうな」
「そうね。……冬馬は、戦っているのよ」
「……自分自身と」
そう言って冬馬の顔を見つめるシャロンの目には、祈るような光が宿っていた。
「冬馬……早く……帰ってきて……」
その声は切なく、震えていた。
――その頃。
冬馬の精神世界では、苛烈な試練が容赦なく彼を打ち据えていた。
立ち上がることすら叶わず、定期的に襲う心身を引き裂くような痛みが、全身を焼き尽くす。
それでも冬馬は歯を食いしばり、呻き声ひとつ漏らさぬよう必死に耐えていた。
そんな彼を、シルヴィアは冷ややかに見下ろしていた。
人の姿をとったその美貌からは表情が読み取れない。
だが、その内面には揺らぎがあった。
(……真神冬馬。貴様は、ここまでの男なのか?……守りたい者がいるのだろう?)
声に出さず、心の奥で問う。
さらに――
(冬夜……やはりこの選択は酷だったのではないか?……この子にとって、あまりに)
本体と繋がる“真神冬夜”に、問いかけるように。
やがて時間の感覚が失われるほどの苦痛の中で、冬馬はもう血反吐すら吐かなくなっていた。
痛みが走るはずの瞬間にも、微動だにせず、ただ虚ろな目を前に向けている。
シルヴィアの胸に諦念が過った。
(……駄目か……)
だが、同時にどうしようもない感情が込み上げる。
許せなかった。
この男が、ここで潰れてしまうことを。
これほどまでに愚直で、苦しみに抗い続けた魂が、試練の中で消えていくことを。
堪えきれず、シルヴィアは声を荒げた。
「冬馬ッ! 貴様はこんなものか! 守るのではなかったのかッ! ……試練に――勝ってみせろ!」
最後は、震える声で絞り出すように。
それは、シルヴィア自身にも信じられないほどの“祈り”だった。
その瞬間――冬馬の身体が大きく跳ね上がった。
押し殺していた力が解き放たれ、全身から銀色のオーラが奔流のようにあふれ出す。
それは冷たくも凛とした輝きであり、同時に、温かく優しい光でもあった。
シルヴィアは、はっと目を見開く。
(……銀……! まさか――)
精神世界を揺るがすほどの光が立ち昇る中、運命の歯車が確かに動き出す音がした。
――真神冬馬の、新たなる胎動が始まった。




