第64話:怒りと執念の果てに
この話から、少し投稿ペースが落ちてしまいます。
2作同時が少々厳しくなりまして…。
読んでくださってる方、申し訳ありません。
「男に……なっただと? ……雪菜……雪菜…!…ゆきなぁぁぁぁぁっ!」
ギルバートの声は地鳴りのように低く響き、次第に怒気へと変わり、ついには咆哮となって空気を震わせた。
雪菜は薄く笑みを浮かべ、挑発するように言葉を返す。
「どうしたんだい、ギルバート。ボクが欲しいんだろ? 好きにしなよ。男で……良ければ」
その一言に、ギルバートは顔を歪め、怒気を隠そうともせず吠えた。
「黙れ! 壊れたオモチャに興味はない!!」
剣を構えるギルバートの目には、もはや先程までの余裕や遊びの色はなかった。純然たる殺意だけが宿っていた。
雪菜は息を呑み、心の中で考える。
(さて……どうする……? どうやって切り抜ければ……いや、それよりも、ギルバートの意識をもっとボクに向けさせたい。そうすれば……)
――冬馬が助かる。
その言葉を心の最後に置く。しかし雪菜は死ぬつもりなど毛頭なかった。何があろうと、この窮地を切り抜けて生き残る。
(少し前のボクなら、冬馬が助かるなら死んでもいいと思ったかもしれない……でも、今は違う。鞠子先生も、シャロンも、宗一郎さんも、アイリスさんも……みんなが泣いて、心配してくれた。もう二度と、あんな顔をさせたくない。ボクは皆が大好きだ。そして……冬馬と離れたくない)
雪菜の瞳には、決意の炎が宿っていた。
(絶対に……死んでたまるもんか!)
ギルバートが一歩、また一歩と雪菜に近づいてくる。その足取りに隙はない。逃げることは敵わない。
(……なら、身体が壊れる覚悟で、四重属性の魔法剣を使うしか……!)
そう考え、雪菜が剣を握り直した、その時だった。
「大きな音がしたのはこっちだ! この気配……ギルバートか!」
怒鳴るような声と共に、複数の足音が雪菜とギルバートの元へと迫ってきた。
その声は雪菜にとって聞き慣れたもの――ギルドマスター、御堂宗一郎の声だった。
「……っち! どいつもこいつも、俺をムカつかせやがって……いっそのこと、皆殺しにしてやろうか……」
ギルバートの呟きに、雪菜の心臓が凍りつく。
(マズい……! このままじゃ皆に被害が――!)
雪菜が声を上げようとしたその瞬間、ギルバートの取り巻きの一人の女が必死に叫んだ。
「ギルバート様! 流石にギルドマスターに手を出すのはマズいです! どうか……どうかここは!」
ギルバートは忌々しそうに顔を歪め、しばし迷った末、舌打ちと共に踵を返した。
「貴様ら! いつまで寝ている! さっさと行くぞ!」
怒鳴られた取り巻きたちはよろめきながらも立ち上がり、フラつく足取りで後に続く。
去り際にギルバートは立ち止まり、視線だけを後ろに向けて吐き捨てる。
「雪菜……助かったなどと思うなよ? 俺をコケにした報いは、必ず受けてもらう」
そして、正面を向き直り、月明かりを背に歩み去っていった。
「ギルバート様、冬馬の奴はどうすれば……?」取り巻きの一人が問う。
「そんなゴミのことは放っておけ!」ギルバートは怒鳴り返し、そのまま闇に消えていった。
雪菜はその背を見送り、恐怖よりも安堵を感じていた。
(よかった……! 冬馬から意識が逸れた……皆に迷惑はかけたけど、手術に意味はあったんだ……)
そう思い胸を撫で下ろす。しかしすぐに気を引き締める。
(でも安心はできない。次はボクが……どうするか、考えないと……)
そう心の中で自らを戒めた時、宗一郎が複数のベテランハンターを連れて駆けつけてきた。
「おい! 雪菜、無事か!?」
その声を耳にした途端、極度の緊張と疲労で限界に達していた雪菜は、ふっと膝を折り、静かに意識を手放した。




