第63話:「暴かれた真実」
ギルバートは雪菜を睨みつけ、ゆっくりと歩を進めてくる。
その双眸には、もはや先程までの侮りの色はない。
雪菜は内心、焦燥を隠せなかった。
(くそ…もっとボクのことを甘く見てくれれば助かるのに…。さっきの一撃で決めきれなかったのは痛い…)
確かに雪菜は、C級ハンターの中でも頭ひとつ抜けた実力を誇っている。
それは先程のC級取り巻きたちとの戦いで十分に証明された。
だが――ギルバートに傷を負わせられたのは、奴の油断に乗じて、三重魔法剣を叩き込めたからにすぎない。
今度同じ手を使ったところで、通じる相手ではない。
(どうする…どうする!考えろ、ボク!…何か、打開の手が…)
必死に策を練る雪菜。
その横で、ひとり残された女性取り巻きは、戦慄を覚えていた。
(なによ…なによこれ……!? 私たちは何人もいたのに…その上C級だっていたのに…!
それを、一人で全員叩き伏せた…しかも、一人も殺さずに…)
呆然と雪菜を見つめる彼女の目の前で、ギルバートの姿が――掻き消えた。
「!?」
錯覚ではない。速すぎて、雪菜の目も取り巻きの目も追いきれなかったのだ。
「マズい!見失った!?」
雪菜が気配を探った瞬間、耳元で声が囁かれる。
「どこを見ているんだ、雪菜ぁ…こっちだ」
背筋を凍らせながら振り向く雪菜。その目前に、剣を構えるギルバートの影。
「さあ、受け止めてみせろ!」
無造作に振り下ろされた剣。咄嗟に受け止めた刹那、雪菜の両足が地面にめり込み、口から苦鳴が漏れる。
「くっ!? お、重い…っ!」
一撃を受けただけで、腕は痺れ、指先は震え出す。
そんな雪菜を見下ろし、ギルバートは残酷に笑う。
「よぉしよし…良く受け止めたなぁ。じゃあ、もっとくれてやる」
次々と叩きつけられる剣撃。
それは、雪菜が辛うじて耐えられる程度に加減された暴力。
殺す気など毛頭ない。徹底的に心を折り、所有物にするために。
「くっ…あっ…くぁ…ぁああっ…!」
雪菜は必死に受け止めながら、その裏で呪文を紡いでいた。
もはや理屈などどうでもいい。無茶でも構わない。賭けるしかない――!
「トリプレット・マジック――エレメンタルソード!!」
瞬間、雪菜の剣が三属性の魔力を帯び、ギルバートの剣を弾き飛ばす。
その隙に、返す刃で斬りつける。
「いけぇぇぇ!!」
鼻血を垂らし、激しい頭痛に視界が揺れる中でも、雪菜は渾身で振り抜いた。
だが――
「甘いな」
ギルバートが纏ったオーラの壁に阻まれ、雪菜の剣は弾かれる。
「なっ!?」
大きな隙をさらした雪菜に、ギルバートは恍惚の笑みを浮かべる。
「そぉら…俺とお揃いの傷を刻んでやるよ」
横薙ぎの一閃。
雪菜は無理やり身体を捻って後方へ跳ぶ。
アーマーと衣服は裂け飛んだが、致命傷だけはどうにか免れた。
「ほう…よく避けたな。大したもんだ。褒めてやるよ」
愉悦に歪んだ声。
「だが、これで分かっただろう? お前が何をしようと、俺には勝てない。
諦めて俺のモノに――」
そこで、ギルバートの言葉が途切れる。
裂けた装甲と衣服の下から露わになった胸元。
そこにあったはずの豊かな膨らみは、影も形もなく消え去っていた。
代わりに晒されたのは、紛れもなく男の胸。
「な…んだ、その身体は…どういうことだ、雪菜」
怒気を孕んだ声。
雪菜は、隠すことなく正面からその視線を受け止め、口角を上げて告げる。
「今まで気づかなかった? ボクはね…男になる手術を受けたんだ。
もう――ボクは女じゃない。……それでも、ボクが欲しいかい?」
挑発するような笑み。
ギルバートは絶句し、言葉を失う。
代わりに、遠くで見ていた取り巻きの女が、蒼ざめた顔で呻いた。
「ウソでしょ…ギルバート様から逃れるために、男になった…?
…こいつ…本当に、いかれてる…」
その声だけが、場に虚しく響き渡った。
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