第61話:「届いた刃」
雪菜は抜剣し、油断なく構えた。
対するギルバートは、腰の剣を抜くこともなく、見下すような笑みを浮かべている。
(いいぞ……ボクのことを完全に甘く見てる。ギルバートが油断している今しかない。勝機は、ここだ……!)
雪菜は柄を握りしめ、剣の感触を確かめた。
それはつい先日新調したばかりの業物の剣。手術の傷が癒えて動けるようになった後、武具店で選び抜いた一本だ。代金は鞠子が返してきた手術代で支払った。
本来なら断るつもりだった。自分が望んで依頼した手術なのだから正当な報酬だ、と。
だが鞠子は泣き出しそうな顔で首を振り続けた。――後悔しているのだ、自分が雪菜の体を作り変えたことを。
(鞠子先生も、シャロンも、宗一郎さんも、アイリスさんも……みんなボクのせいで心を痛めてる。傷つけたのは、ボクの選択だ……)
その痛みは、変えられた肉体よりも深く心を苛んでいた。
けれど同時に、雪菜は気づいている。――こんなにも多くの人に支えられているのだ、と。
(だからボクはもう諦めない。たとえギルバートが相手でも、絶望的な戦力差でも……絶対に!)
「どうした雪菜?立っているだけじゃ退屈だ。いつでもかかってこい。……今言った通り、『遊んで』やるよ」
ギルバートは嘲笑を浮かべる。しかし雪菜は不用意には動かない。
一度、全力で斬りかかった時のことを忘れていなかった。殺気を込めて放った渾身の一撃は、素手で受け止められ、かすり傷すら与えられなかったのだ。
(同じ轍は踏まない。今度は全てを賭ける!)
深く息を吸い込み、雪菜は吠える。
「いくぞ、ギルバート!」
大地を蹴った雪菜の剣が横薙ぎに閃く。ギルバートは薄笑いを崩さず、軽々と躱した。
だが雪菜は怯まない。鋭い連撃を重ね、美しい蒼銀の髪を風に舞わせながら畳みかける。
取り巻きたちが息を呑む。
「あいつ……こんなに強かったのか……」
「っ、認めない!あんな女、認めてたまるもんですか!」
女の取り巻きが詠唱を始めようとしたが、仲間に制止される。
「バカ!余計な真似はやめろ!ギルバート様に殺されるぞ!」
そのやりとりを耳に入れながらも、雪菜は視線を逸らさず斬撃を刻み続けた。炎と雷の魔法を交互に織り込み、翻弄するように舞う。
斬る、斬る、斬りつけ続ける。
休まず果敢に攻め続ける。
――そのとき。
ギルバートの表情から笑みが消えた。
(……妙だな。動きに違和感がある。まるで“自分の身体じゃないもの”を無理やり動かしているような……?)
違和感が思考を鈍らせ、一瞬だけ警戒が緩んだ。
それを雪菜は見逃さない。
(……今だ!)
三重属性の魔法剣――。
「トリプレットマジック、エレメンタルソード!」
炎、雷、そして新たに得た風の力を重ねた剣が爆ぜる。
雪菜を激しい頭痛が襲う。
「っち!」
そう舌打ちして、ギルバートは背後へと跳んで避ける。
このままでは雪菜の剣は届かない。
しかし雪菜は諦めない。
魔法剣を維持したまま、もう一度風の魔法を発動する。
頭痛がさらに激しくなり、鼻から血が出る。
背後で風の塊を圧縮し、爆発させた。その爆風が彼女を押し出し、加速させる。
「なに!?」
ギルバートの瞳に初めて焦りが宿った。剣を抜こうとした、その刹那――。
雪菜の魔法剣は一瞬だけ、それを上回った。
斜め下から斬り上げられた光刃が、ギルバートの胴を斜めに切り裂く。
「ぐおぉぉぉぉっ!?」
血飛沫が舞い、ギルバートが呻き声を上げた。
その場にいた誰もが、信じられないという顔で目を見開いていた。
――今ここに、雪菜の刃はA級ハンター、ギルバート・グレイモアへと届いたのだった。
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