第58話:「冷たい影」
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ハンター協会ネクサス支部は、慢性的な人手不足にあえいでいた。
通常のクエストも途切れることはなく、さらにギルバート陣営から冬馬を守るための護衛任務まで抱えている。
そして今は、龍王の試練に挑み、いつ暴走するか分からない冬馬を抑えるために、数人のハンターが交代で彼の様子を見張っていた。
どれも手を抜くことは許されない重要案件だ。
支部所属のハンターたちが必死に動いた結果、ギルバートの取り巻きたちは、未だ冬馬に近づくことさえできずにいた。
そんな彼らの一人、艶やかな髪の女性取り巻きが、苛立ちを隠せず吐き捨てる。
「どうしたらいいのよ! 警戒が強すぎる……このままだと、ギルバート様に合わせる顔がない!」
隣にいた男の取り巻きが歯噛みしながら低く唸った。
「くそっ……近づけさえすれば、あんな死に損ない……!」
だが、真正面から接触するのは自殺行為に等しい。
ましてや、この都市の中心部でモンスターをけしかけるなど、愚の骨頂だ。
完全に八方塞がり――焦燥だけが胸を焼く。
「奴ら……なんであんなE級の落ちこぼれなんかを必死に守ってるんだ……忌々しい」
別の男のぼやきは、もはや悪態にもならないほど力なく、苛立ちと屈辱だけが滲んでいた。
そのときだった。
「……おい。お前たち、こんなところで何をしている?」
耳を刺すような、底冷えのする声が背後から落ちてくる。
「冬馬は……もう殺ったのか?」
振り向いた瞬間、取り巻きたちの背筋が凍りついた。
そこに立っていたのは――ギルバート本人。
彼の姿を認識しただけで、周囲の空気が一気に凍りつき、重く沈んでいく。
「ギ、ギルバート様……これは……その……」
女性取り巻きが言い訳を試みるが、ギルバートの鋭い視線が突き刺さると、喉を押さえられたように言葉を飲み込む。
沈黙の圧力に耐えられず、別の男がしぼり出すように口を開いた。
「も……申し訳ありません……ギルバート様。ネクサス支部の連中が協力して護衛にあたっており……我々では手が出せません……」
その答えを聞いたギルバートの眉間に深い皺が刻まれる。
「……貴様ら、こうも使えんとはな。死に損ない一人の始末すらできないのか」
吐き捨てられた声は冷たく、刃のように鋭い。取り巻きたちは縮こまり、唇を噛み、下を向くことしかできなかった。
「俺は言ったはずだ。俺の女の心に、他の男がいることを……俺は許さんと」
その言葉に、取り巻きたちの顔から血の気が引いていく。
「……もういい。無能どもめ」
ギルバートは低く言い放ち、薄い笑みを浮かべた。
「俺自ら……始末してやる」
「ギルバート様! それではギルバート様の評価が……!」
女性取り巻きが慌てて制止しようとするが、その瞬間、彼の金色の瞳が鋭く彼女を射抜く。
「黙れ。貴様らが使い物にならんから、俺が動く。それに……何か不満でもあるのか?」
低く響く声に、彼女は息を詰まらせ、首を横に振ることしかできなかった。
ギルバートは興味を失ったように視線を逸らし、わずかに口角を上げる。
「待っていろ、冬馬。俺自ら、引導を渡してやる」
その様子を、遠くから一人の男が見ていた。
C級ハンター――シーフ系の男。隠密行動に長けた彼は、ギルバート陣営の監視を買って出ていたのだ。
「……不味い。ついにギルバート本人が動く気だ。ギルドマスターに知らせないと……!」
彼は息を殺し、物陰から身を翻す。
だが、その気配はギルバートには筒抜けだった。
(ふん……ネズミが一匹、報告に戻ったか。まあいい)
(ネクサス支部に、俺を止められる者などいない。いつも通りに“事実”を書き換えるだけだ)
金色の瞳に嘲笑の光が宿る。
(俺が決めたことこそが、事実なんだよぉ……クックック……)




